Editorial

論文に対するタイムリーな論評をMatters Arisingで

かつて科学の進歩は、入念に書き上げられた手紙のやりとりによってもたらされ、多くの場合、そうした手紙の交換は長期にわたっていました。チャールズ・ダーウィンは、数千通の手紙を書き、有力な思想家たちとの間で交わされた手紙は、ダーウィンの学説に重要な影響を与えました。このやりとりは私的なものだったのですが、幸運なことに、かなりの量の手紙が現存していて、アーカイブに所蔵され、科学的記録の重要な一部となっています。

今日の研究知見は、主に査読を経た研究論文の形で広まり、記録されていますが、誌上発表された研究論文に対する学術的な論評は今でも非常に重要な意味を持っています。そのような論評は、研究成果のニュアンスを明らかにし、研究成果を精緻化し、研究成果に関する注意事項などが示されるからです。そして今日では、そうした論評は、急速に広まります。

そこで、Nature では、誌上掲載された論文に関する投稿欄「Matters Arising」を開始しました。このコーナーでは、投稿原稿が、Nature に掲載された一次研究論文に関する極めて興味深くタイムリーな科学的なコメントや、不明な点を科学的に明確化するコメントと考えられる場合、査読を行った上で、オンライン掲載します。Matters Arisingが寄せられた一次研究論文の著者には、投稿内容に返答する機会が与えられます。Nature の編集者が「議論を建設的に前進させる返答」だと判断した場合には、その返答もMatters Arising記事と同時に掲載します。

私たちは、このようなやりとりを関連コミュニティーに対してタイムリーに公表する必要性と、長時間を要することの多い査読プロセスによってそれを達成することの困難さを認識しています。そこで、厳格な査読とタイムリーな掲載という2つの要請を共に満たすため、Matters Arisingの著者と、それが寄せられたNature 掲載論文の著者に対して、Nature の正式な審査が行われている段階でプレプリントを発表することを推奨します。このことは、Nature の出版規程(nature.asia/ND1901ed01参照)でも認められています。またMatters Arisingでは、Nature に掲載された全ての原著論文に対してコメントを投稿することが可能です。コメントはオンラインで投稿でき、このコメントと関連するCommentary、Nature 以外の学術誌に掲載された論文、関連のあるプレプリントに対するリンクを付記できます。

Matters Arising記事として掲載するかどうかの判断は、Nature の編集者が下します。誌上発表された記録の公正性を担保するため、また、読者が全ての関連情報を発見できるようにするため、誌上発表されたMatters Arisingの記事には一次研究論文のオンライン版サイトとその論文著者からの返答へのURLを付記しています。Matters Arisingは、一次研究論文の誌上発表後に論文を論評する手段となっていたBrief Communications Arisingに代わる存在となります。

他のNatureリサーチ誌にも、今後数カ月間にMatters Arisingを導入し、そのような議論をするためのコーナーであったCorrespondenceと置き換えることを計画しています。私たちはこうした活動を通し、誌上発表後の論評のための標準化された正式な機構を設けることと、建設的な査読プロセスを提供することを目指しています。これによって、各学術誌のオンライン版に掲載された論文に関する論争がなされ、またこの論争に関与する各著者の認知度が高まるのと同時にその功績を明示できると考えています。

利害の対立状況、著者(共著者を含む)に関する基準、著者の寄与度、データの入手可能性、材料とコード(適用のある場合のみ)と研究報告サマリーの出版に関する現行規程は、Matters Arising記事だけでなく、論文著者からの返答にも適用されます(nature.asia/ND1901ed02参照)。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190138

原文

Matters Arising: a venue for scientific comments
  • Nature (2018-10-25) | DOI: 10.1038/d41586-018-07150-1