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血管内皮細胞の起源は2つ

動脈(左)と静脈の断面写真。血管壁は内膜、中膜、外膜の3層から成る。内膜には内皮細胞が、中膜には平滑筋がある。

血液細胞系譜の細胞と、血管の内側を覆う内皮細胞は、生物学的な関連があり、初期胚における細胞起源は相互に関係している。我々の現在の知識では、内皮細胞は、初期胚の3つある主要な細胞層のうちの1つ(中胚葉)から直接分化して、次に、その内皮細胞の一部が造血幹細胞(HSC)1,2を生じ、HSCから成体の血液細胞が作り出されるとされている。このほどロンドン大学ユニバーシティカレッジ(英国)のAlice Plein3らは、内皮細胞の2つ目の起源を明らかにしたことをNature 10月11日号223ページで報告し、内皮細胞と血液細胞系譜の間の関係についての我々の理解を深めた。

胚発生初期のHSCが出現する前には、赤血球骨髄系前駆細胞(EMP)と呼ばれる前駆細胞から、赤血球と免疫細胞の一過性の集団が生じる。中胚葉から内皮が生じ、次に内皮から血液が生じるとするモデルに沿うと、EMPは胚を包む卵黄嚢と呼ばれる構造に位置する内皮細胞から生じる。Pleinらは、遺伝的改変による手法を用いて、卵黄嚢由来のEMPとその子孫細胞全てを蛍光タンパク質で標識したマウス胚を作製し、これらの細胞が血管壁にも寄与しているという予想もしなかった結果を見いだした。

この標識細胞の解析から、EMPは卵黄嚢から胚内に盛んに移動していて、内皮細胞に分化していることが明らかになった。これは、胚内の部位においてではあるが、EMPが、その最初期の細胞運命であった内皮の運命に逆戻りしたことを示している。このEMP由来の内皮細胞は、中胚葉由来の内皮細胞が局所での増殖により血管を形成するのとは異なり、既存の血管に取り込まれて中胚葉由来の内皮に散在することで、いくつかの臓器の血管構造に寄与し、そこで成体期まで維持されることが分かった(図1)。

図1 血管の内側を覆う2種類の細胞
内皮細胞は、中胚葉(示していない)と呼ばれる胚組織から生じる。内皮細胞は増殖して、血管の内側を覆う細胞層を形成したり、発生中の胚を包む卵黄嚢と呼ばれる構造を形成したりする。次に、卵黄嚢の内皮細胞から、赤血球骨髄系前駆細胞(EMP)と呼ばれる細胞(白矢印)が生じ、これらの細胞は胚内に移動して、胚の血液細胞系譜に分化することが知られている。Pleinら3は、マウスにおいて、移動するEMPが内皮細胞タイプに戻ることができることを実証した。EMP由来の内皮細胞は、脳、肝臓、肺などの発生中の臓器において中胚葉由来の血管に組み込まれて、血管構造中にモザイク状の分布パターンを作り出す。 Credit: Ed Reschke/Photolibrary/GETTY

2015年に、これと同一の遺伝学的戦略を用いて、組織常在性マクロファージと呼ばれる成体の免疫細胞が卵黄嚢EMP由来であることが示された4。この結果は免疫の分野の研究者らを驚かせた。その時までマクロファージは単球と呼ばれる循環血中の白血球細胞からのみ分化すると考えられていたからだ。従って、このEMP集団はさまざまな細胞群を作り出すといえる。EMPは、胚発生期には一過性に必要な原始の赤血球や免疫細胞を作り出す可能性を持つだけでなく、組織常在性マクロファージや内皮細胞も作り出し、これらの子孫細胞は成体でも存続することができる。

Pleinらは、成体の血管におけるEMP由来内皮細胞の割合が、約30%(脳)から約60%(肝臓)の範囲に及ぶことを見いだした。また、EMP由来内皮細胞はHoxa遺伝子群を高レベルで発現していること、Hoxaの発現を喪失させると脳の血管の発生が変化することが分かった。Hoxa発現の喪失はミクログリアと呼ばれる脳特異的な免疫細胞の数も減少させるが、この異常がEMP由来内皮細胞の変化によってのみ引き起こされたと断言することはできない。そうではあるが、これらの結果は、脳では発生においてEMP由来の内皮細胞が本質的に必要とされることを示唆している。

Hoxaを欠損させたマウスと正常なマウスの胚(E12.5)の脳を比較。Hoxaの発現を喪失したマウス(下)では、ミクログリア(矢印)の数が減少していた。 Credit: Ref.3

Pleinらは、血管内皮細胞の遺伝子発現プロファイルも調べた。EMP由来の細胞は、内皮運命を完全に獲得したことに一致する転写シグネチャーを持つことが分かった。しかし、これらの細胞と、中胚葉の直接の子孫細胞である隣接する内皮細胞では、わずかな違いがいくつかあった。例えばEMP由来内皮細胞は、肝臓では肝臓血管に特徴的な遺伝子群を過剰に発現していた。また脳では、脳特異的内皮細胞マーカーの発現が低下していた。

Pleinらのこれらの実験によって、胚の血管構造が2種類の細胞系譜から構築されていることが示された。この発見は、なぜ重要なのだろう? これらの細胞の起源は、知的興味をそそるだけでなく、生理的性質や疾患にも関係すると考えられるからだ。推測にすぎないが、発生起源の異なる内皮細胞は、同じストレス要因に対して異なる応答をすると考えられる。このような現象は他の細胞系譜で見つかっている。

例えば、血管の平滑筋細胞だ。この細胞は、内皮層の下で収縮性筋層を形成しているが起源が複数あり、胚の3種類の細胞から生じる5。この細胞起源の違いは、細胞の遺伝子発現プロファイルや病的状態への応答に影響を与える6。これは、同じ刺激に曝露された際に、血管構造の異なる領域が異なる反応をする理由であると考えられる。腎不全になったマウスでは、続いて血管石灰化が起こるが、腎臓の動脈(体内の最も太い血管)の血管石灰化のパターンは、その領域が胚のどの細胞を起源とするかによって異なっている7。また、ヒトでのNT5Eと呼ばれる遺伝子の変異は、上下肢のみで血管の石灰化を引き起こす8。さらに、動脈瘤では血管壁が弱くなり膨らむが、これは異なる細胞起源を持つ血管領域での異なるストレス要因が引き金になると考えられている9

内皮細胞も、細胞系譜の履歴が異なると、刺激に対して異なる応答をするのだろうか? この問題は未解決であるが、内皮が機能的モザイクとして応答する可能性が浮かび上がる。血管平滑筋の大部分は同一の発生起源から生じるが、EMP由来の内皮細胞は中胚葉から直接生じた内皮細胞と混在していると考えられる。そのため、内皮の同じ領域であっても、刺激に対し細胞ごとに別の応答が起こるかもしれない。

大動脈を覆う内皮には、増殖能の異なる細胞が存在する。成体の血管を再生できる細胞が、増殖能の低い細胞と並んで存在しているのだ10。このような多様性は恐らく、これらの細胞の起源に関係がある。この考えを拡大すると、肝臓ではEMP由来の内皮細胞の割合が高いことが、肝臓の顕著な再生能の1つの要因である可能性が考えられる。Pleinらの研究は、研究者たちを内皮細胞の起源とその機能の関係を明らかにするための新しい実験に確実に駆り立てることだろう。

将来的に、今回明らかになったことをヒトに適用するには、正式な試験が必要である。当然、細胞系譜追跡はヒトでは行うことはできない。別の戦略として、マウスにおいて、2つのタイプの内皮細胞系譜に特徴的な、進化的に保存された遺伝子発現パターンを突き止め、ヒトでそれぞれのプロファイルを持つ細胞を探すことが考えられる。また、これらの2つの細胞系譜が損傷後の血管修復に関与するかどうかを明らかにすることも興味深いと考えられる。

翻訳:三谷祐貴子

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190130

原文

A dual origin for blood vessels
  • Nature (2018-10-11) | DOI: 10.1038/d41586-018-06199-2
  • M. Luisa Iruela-Arispe
  • M. Luisa Iruela-Arispeは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)に所属。

参考文献

  1. Zovein, A. C. et al. Cell Stem Cell 3, 625–636 (2008).
  2. Gritz, E. & Hirschi, K. K. Cell. Mol. Life Sci. 73, 1547–1567 (2016).
  3. Plein, A., Fantin, A., Denti, L., Pollard, J. W. & Ruhrberg, C. Nature 562, 223–228 (2018).
  4. Gomez Perdiguero, E. et al. Nature 518, 547–551 (2015).
  5. Majesky, M. W. Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 27, 1248–1258 (2007).
  6. Cheng, C., Bernardo, A. S., Trotter, M. W. B., Pedersen, R. A. & Sinha, S. Nature Biotechnol. 30, 165–173 (2012).
  7. Leroux-Berger, M. et al. J. Bone Miner. Res. 26, 1543–1553 (2011).
  8. St Hilaire, C. et al. N. Engl. J. Med. 364, 432–442 (2011).
  9. Lindsay, M. E. & Dietz, H. C. Nature 473, 308–316 (2011).
  10. McDonald, A. I. Cell Stem Cell 23, 210–225 (2018).