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CRISPR法は想定外のDNA再配列を引き起こす

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180903

原文:Nature (2018-07-16) | doi: 10.1038/d41586-018-05736-3 | CRISPR gene editing produces unwanted DNA deletions

Heidi Ledford

遺伝子改変に用いられるDNA切断酵素は、ゲノムを大規模に欠失させたり、複雑な再配列を引き起こしたりすることが示された。

CRISPR-Cas9遺伝子編集技術は、想定外のDNA再配列を引き起こすことが報告された。 | 拡大する

Credit: Annie Cavanagh via Wellcome/CC BY NC

遺伝子編集技術「CRISPR」は、ゲノムを改変する方法として研究者の間で受け入れられている。しかし、この方法は知らぬ間にDNAに想定外の変化を生じさせる可能性があると、警鐘を鳴らす研究者がいる。遺伝子改変の際に、ゲノム上の標的部位付近にDNAの大規模な欠失や複雑な再配列を生じさせることがあるという論文が、Nature Biotechnology に7月16日付で報告されたのだ1。こうした変化は、CRISPR法を用いた実験結果の解釈だけでなく、それに基づき治療法を編み出そうとする研究をも混乱させかねない。

今回の知見は、他の遺伝子編集法に関する過去の研究結果とも合致する2。ソーク研究所(米国カリフォルニア州ラホヤ)の生物工学研究者Patrick Hsuによれば、このような想定外の編集は、研究者からもっと注目を集めてしかるべき問題だという。「研究界では、この問題がきちんと評価されてこなかったと、私は考えています」とHsuは話す。

CRISPR–Cas9による遺伝子編集法は、Cas9酵素が特定の標的部位でDNAを切断することに依拠している。切断が生じると、細胞はDNA修復機構を用いてその切断端をつなぎ直そうとするのだが、こうした機構は常に完璧に働くわけではない。そのため、DNAの一部に欠失や再配列が起こったり、無関係のDNA断片が染色体に組み込まれたりすることがある。

今回の研究を主導したウェルカム・サンガー研究所(英国ヒンクストン)のマウス遺伝学者Allan Bradleyは、「細胞は元通りにつなぎ合わせようとしているのでしょう。でも実は、どのDNA断片同士が隣り合わせなのか、分かっていないのです」と話す。

CRISPRは、遺伝子機能の発現を欠損させる目的で、遺伝子のほんの一部を欠失させる際に用いられることが多い。しかし、Bradleyらがその編集結果を調べてみると、大規模な欠失(数千塩基に及ぶことも多い)や、複雑なDNA再配列(離れていたDNA配列同士がつなぎ合わされる)が発見された。こうした現象は、彼らが調べた3種類の細胞全てに共通して認められ、その中にはヒト細胞株も含まれていた。

品質管理

多くの研究者は、目的の編集が行われたかどうかを確認するために、特定部位の短いDNA配列を増幅する方法を用いる。しかし、「この方法では、大規模な欠失や再配列が見逃される恐れがあります」と、ブランダイス大学(米国マサチューセッツ州ウォルサム)の分子生物学者James Haberは話す。

欠失や再配列は、DNAの切断に依拠する遺伝子編集法の場合にだけ起こり、DNAを切断しない別種のCRISPRによる改変方法では起こらないはずだとHsuは指摘する。例えば、「塩基編集(base editing)」と呼ばれる方法では、CRISPR系の変法を用いて、DNAを切断せずに、1つの塩基を別の塩基に置き換える。また、不活性化Cas9を他の酵素と融合させたものを用いて、遺伝子のオン・オフを切り替えたり、RNAを標的にしたりする方法もある(2018年1月号「4種の塩基置換に対応した『一塩基エディター』」参照)。

一部の研究者は、すでに大規模な欠失に目を光らせている。遺伝子編集技術を用いて移植用ブタ臓器の作製を行っているeGenesis社(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)では、「複数の方法を用いて、大小の欠失を日常的に探しています」と、同社の共同設立者で最高科学責任者のLuhan Yangは言う。

同様に、CRISPR技術を基に治療法を開発しているIntellia社(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)でも、マウス肝臓における遺伝子編集の研究で、大規模な欠失を監視してきた。同社の上級副社長Thomas Barnesによれば、これまでにそのような欠失の証拠は見いだしていないという。ただし、「当社で扱っている細胞が、分裂頻度の低いものだからかもしれませんが」と彼は付け加えた。Bradleyらの研究では、活発に分裂する細胞が用いられている。

「全体として見れば、このような意図しない編集はもっと注目されるべき問題ですが、だからといって、CRISPRの使用をやめさせるべきだ、ということにはならないでしょう」とHaberは言う。「CRISPRを使うときには、もっと徹底的に調べる必要があるということです。一般に、生じた変異が思った通りのものであるかを確認するのは重要なことなのです」と彼は言う。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Kosicki, M. et al. Nature Biotechnol. http://doi.org/10.1038/nbt.4192 (2018).
  2. Shin, H. Y. et al. Nature Commun. 8, 15464 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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