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遺伝子改変細菌で病気を治療

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180916

原文:Nature (2018-06-28) | doi: 10.1038/d41586-018-05476-4 | Genetically modified bacteria enlisted in fight against disease

Sara Reardon

腸内や食物にいる細菌を改変して治療に用いる研究が進んでいる。

いくつかの企業が、大腸菌などを用いて有用な遺伝子を送達する遺伝子治療を開発中である。 | 拡大する

STEVE GSCHMEISSNER/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Science Photo Library/Getty

病気の原因となる細菌を体内から取り除くために薬を飲むのとは逆に、細菌を医薬品として用いるという治療法が、確実に前進している。米国の規制当局は遺伝子治療の一種として、タイプの異なるいくつかの改変細菌の臨床試験を承認した。

遺伝子治療のために細菌を用いて遺伝子を送達するという考えは1990年代に登場した。初期の臨床試験の結果はさまざまであったが、近年、ヒト体内の細菌がヒトの健康に影響を及ぼし得る証拠が集まってきたことから、関心が高まっている。(2015年2月号「増えつつある脳腸相関の証拠」、2015年7月号「腸内細菌がワクチン増強」、2017年8月号「薬の効果を左右するのはマイクロバイオーム? 」参照)

シンガポール国立大学の合成生物学者Matthew Changは、「多くの疾患を治療できる可能性があります。この分野は急速に拡大しています」と言う。Changらは、改変した腸内細菌が有害な微生物を認識して破壊することをマウスで示した1。Changは現在、臨床試験の開始についてシンガポールの規制当局と話し合っている。

遺伝性疾患であるフェニルケトン尿症も、改変細菌で治療できる可能性がある。患者はフェニルアラニンを分解する酵素を欠損していて、フェニルアラニンの体内蓄積により神経障害を発症する。バイオ企業であるシンロジック社(Synlogic;米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の研究者は米国微生物学会(ASM)の2018年年次総会で、フェニルアラニンを分解する酵素や、フェニルアラニンを血液から細胞に移動させるタンパク質を産生する大腸菌について報告した。この大腸菌を投与されたサルでは、対照群のサルに比べて血液中のフェニルアラニン濃度が半分以下になるという。同社は、2018年4月に健常人被験者で臨床試験を開始していて、安全性が確認されればすぐに、患者で試験を始めるという。

インタレクソン社(Intrexon;米国メリーランド州ジャーマンタウン)は、チーズ作りに用いられるラクトコッカス・ラクチスを改変して、皮膚の外層を保護するタンパク質を産生させた。この改変細菌を含む液体で口内を洗浄することで化学療法の副作用である口内炎を防止できるか、約200人のがん患者が登録された臨床試験で検討している。2018年7月には、糖尿病患者に対し、ヒトインスリンの前駆体と、細胞のインスリンへの応答能を高める免疫タンパク質の両方を産生する別のラクトコッカス・ラクチスを投与する予定だ。

両社とも改変細菌をヒト体内に定着しにくいように設計していて、患者は治療分子の有効量を確実に保つために細菌を定期的に摂取する必要がある。一方で、体内に改変細菌を定着させる治療を追求している企業もある。

オセル社(Osel;米国カリフォルニア州マウンテンビュー)は、HIVの伝播を防ぐ目的で改変したラクトバチルス属細菌の1系統について、2018年後半に米国政府の承認を求める予定だ。複数の研究から、膣でこの細菌のレベルが高い女性はHIVに感染しにくいことが示されている2。同社は、免疫細胞へのHIV感染を防ぐヒトタンパク質をこの細菌に発現させて、防御特性を高めようと試みている。

このような改変細菌が市場に参入するには課題が残っている。改変細菌は、導入された遺伝子を、ヒト体内の他の細菌に伝えるリスクがあり、この点がまだ明らかになっていないのだ。いくつかの企業は防止策として、細菌染色体に改変を施している。プラスミド(染色体外の小さなDNA断片)は、他の細菌とやりとりできるからだ。また、改変細菌が体外で生存するのを防ぐ生物学的「死滅スイッチ」も組み込んでいる。

しかし、この戦略は失敗することがある。イースト・アングリア大学(英国ノリッジ)の免疫学者Simon Cardingらは、改変したバクテロイデス属細菌を用いて免疫系を調節し、大腸炎を治療しようとした3。改変細菌は、腸内細菌が産生するチミジンに依存するように設計され、その改変は染色体に施されていた。体外で生存できないはずであったが、マウスにこの細菌を摂取させた72時間後、この細菌はマウスの腸で他の細菌に改変遺伝子を伝達した上、自身はチミジンがなくても生存できる遺伝子を獲得していた。「この方法は、適切に制御されなければ有害な可能性があります」とCardingは指摘する。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Hwang, I. Y. et al. Nat. Commum. 8, 15028 (2017)
  2. Gosman, C. et al. Immunity 46, 29-37 (2017)
  3. Wegmann, U. et al. Sci Rep. 7, 2249 (2017)

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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