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糞便研究が絶滅危惧種を救う?

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180911

原文:Nature (2018-06-14) | doi: 10.1038/d41586-018-05352-1 | Faecal transplants could help preserve vulnerable species

Sara Reardon

コアラの極端な偏食が、糞便移植で改善できることが示された。ミナミシロサイでは、糞便分析で繁殖力低下の原因物質を特定し、餌を調整することで、繁殖力が向上した。

コアラは、限られた種類のユーカリしか食べない「偏食家」である。 | 拡大する

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コアラ(Phascolarctos cinereus)は動物界屈指の「偏食家」で、ユーカリ属(Eucalyptus)の常緑高木の葉しか食べないことが知られている。しかも、どのユーカリでもよいわけではなく、中には単一種のユーカリしか食べない個体もいる。今回、コアラのこうした偏食傾向の一部が、腸内細菌によって説明できることが示唆された。2018年6月7〜11日に米国ジョージア州アトランタで開催された米国微生物学会(ASM)の年次大会ASM Microbe 2018で発表された研究によると、コアラが特定の種のユーカリを消化する能力は個体ごとに異なり、それは腸内細菌の組成によって決まるらしい。

近年、「腸内細菌は、動物の環境変化への適応能力にどのように影響しているのか」について、関心が高まっている。コアラなどの絶滅危惧種を研究する科学者たちは、動物の腸内細菌の組成を変えることで生存率を高められないか模索しており、その手段として食餌の変更や糞便移植までもが検討されているのだ。今回の成果は、こうした状況のさなかに発表された。

人間活動によって生息環境が脅かされているオーストラリアのコアラにとって、それはまさに喫緊の課題だ。一部の地域ではコアラの個体数がユーカリの供給量を大幅に上回っており、コアラをユーカリが豊富に存在する地域に移住させる試みが行われているものの、移住後に死んでしまう個体もいる。西シドニー大学(オーストラリア)のコアラ生態学者Ben Mooreらによる今回の実験は、こうしたコアラの死が、利用可能なユーカリの種と個々のコアラの腸内細菌群集が適合しなかったことに起因する可能性を示唆している。

Mooreらは、多様なコアラ生息地20地域で200頭のコアラの糞便を収集し、そこに含まれる植物成分を分析した。その結果、一部のコアラは「マンナガム(Eucalyptus viminalis)」という非常に栄養価の高い種のユーカリしか食べないことが分かった。他のコアラは、栄養価の劣る「メスメート(E. obliqua)」という種を食べており、同じ地域に生息している個体でも、両方の種を食べるコアラはごくわずかだった。

また、糞便に含まれる微生物の分析からは、マンナガムを好むコアラとメスメートを食べるコアラとでは、腸内細菌の組成が異なっていることが分かった。そこでMooreらは、食餌の違いが腸内細菌の違いを生むのか、それとも腸内細菌の違いが食餌の違いにつながるのかを明らかにするため、メスメートを食べる野生コアラ6頭の糞便を、マンナガムを好む野生コアラ6頭に移植した。すると18日後、糞便移植を受けたコアラの腸内細菌は、ドナーのそれとほぼ同じものになった。糞便移植を受けたコアラのうち数頭は、以前より進んでメスメートを食べているように見受けられたという。

Mooreにとってこの結果は、糞便移植がコアラの利用可能な食餌の幅を広げ、生存の可能性を高めるのに役立つ可能性があることを意味している。メキシコ国立自治大学(メキシコシティー)の微生物生態学者Eria Rebollarは、今回の研究を、糞便移植で野生動物の腸内細菌組成を変えられることを実証した数少ない研究の1つだと評価する。

別の研究では、異種間糞便移植による腸内細菌の再構成で恩恵を受ける動物がいることも示唆されている。ユタ大学(米国ソルトレークシティー)の分子生物学者Denise Dearingらは2017年、実験用ラットの遠縁種であるサバクウッドラット(Neotoma lepida)がシュウ酸を含む植物を摂食できるのは、腸内細菌のおかげであることを明らかにした。シュウ酸は、腎臓結石の原因となる化学物質だ。Dearingらがサバクウッドラットの糞便を実験用ラットに移植したところ、移植を受けたラットはシュウ酸を分解する能力を獲得したのである1

一方で、絶滅危惧種の生存を助けるには、既存の腸内細菌に合わせて食餌を変えることが必要と思われる場合もある。サンディエゴ動物園(米国カリフォルニア州)の科学者たちは、同じくASM Microbe 2018で、準絶滅危惧種であるミナミシロサイ(Ceratotherium simum simum)の腸内細菌が繁殖力にどのような影響を及ぼし得るかを示す研究成果を発表した。飼育下で生まれたミナミシロサイの雌には、繁殖力が低いという大きな問題がある。

研究チームが、飼育下のミナミシロサイの糞便を、飼育下でも繁殖力が比較的高いインドサイ(Rhinoceros unicornis)のものと比較したところ、ミナミシロサイの糞便にのみ「植物エストロゲン」が含まれていることが分かった。植物エストロゲン類は、雌の生殖関連ホルモンに影響を与えることが知られている植物由来の物質である。2種のサイは同じ餌を食べていることから、研究チームは、両者の腸内では植物エストロゲンの分解能に差があるのではないかと考えた2

これを確かめるため、サンディエゴ動物園では、雌のミナミシロサイの餌を植物エストロゲン類の含有量が少ない種類のものへと切り替えた。すると、2年もしないうちに、それまで全く繁殖に成功していなかった2頭の雌が妊娠し、健康な仔サイを出産した。同園の分子生物学者Candace Williamsによれば、今では全ての種のサイにこの餌が与えられているという。Williamsらは現在、ミナミシロサイとインドサイの繁殖力の違いを生むのが、どのような腸内細菌であるのかを突き止めようとしている。

「動物の生存能力が腸内細菌によって大きく左右されることを示す例は、今後どんどん明らかになることでしょう」とDearingは語る。「腸内細菌と生存能力のこうした関係は、もっと一般的なものであるはずです。これまでは、調べる手だてがなかっただけなのです」。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Miller, A. W., Dale, C. & Dearing, M. D. mSystems 2, e00088-17 (2017).
  2. Tubbs, C., Hartig, P., Cardon, M., Varga, N. & Milnes, M. Endocrinology 153, 1444–1452 (2012).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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