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抗がん剤の効力を食事で高める

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180904

原文:Nature (2018-07-11) | doi: 10.1038/d41586-018-05694-w | The right diet can boost potency of cancer drugs

Heidi Ledford

適切な食事を取ることで、腫瘍の代謝を微妙に変化させて化学療法の効き目を高めることができるかもしれない。

マウスでは、適切な食餌によって特定の抗がん剤の効き目を高めることができる。 | 拡大する

Alfred Schauhuber/ullstein bild via Getty

マウスを使った最近の2件の研究によると、抗がん剤の中には、食餌の中身を少し変えるという簡単な方法で効き目が高まるものがあるらしい。これらは、がんと闘うために体の代謝を利用するという近年盛んになった取り組みから得られた最新の研究成果だ。2件の研究のうち、2018年7月11日にNature オンライン版で発表された研究1では、アミノ酸の一種ヒスチジンをマウスの餌に添加したところ、化学療法薬メトトレキサートの白血病細胞に対する効力が高まることが示された。ヒスチジンは特に肉や豆類などの食品に豊富に含まれており、栄養補給剤として投与される場合もある。

また、この直前の2018年7月4日にNature オンライン版で発表されたもう一方の研究2は、食餌によるインスリン値の変動で、タンパク質PI3Kを標的とする別種の抗がん剤の効き目を高められることを明らかにしている。

どちらの研究チームも、それぞれの手法がヒトでも有効かどうかを見極めることを当面の目標としている。しかし差し当たってはマウスにおける証拠から、患者が摂取する食物が抗がん剤の効き目に影響を与える可能性があることは示唆されている。

ヒスチジン添加研究の論文の責任著者である、ホワイトヘッド生物医学研究所(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)で成長・代謝を研究するDavid Sabatiniは、「食事はがん治療において重要です」と話す。

弱みを食い物にする

腫瘍細胞は、複数の独特な代謝経路を使って栄養素を分解し、自らの異常な増殖を支えている。それらの代謝経路はおそらく脆弱なので治療に利用できるのではないかと、以前から考えられてきた。つまり、経路のうち1つ、または複数を阻害する薬剤があれば、大半の健康な細胞には害を与えずに腫瘍を殺傷できるかもしれないということだ。

例えば2017年には、フランシス・クリック研究所(英国ロンドン)のがん研究者Karen Vousdenらが、がんを発症しやすくなるよう遺伝子操作したマウスで食餌中のアミノ酸2種(セリンとグリシン)を制限することで、生存率が高まることを示した3。腫瘍内は一般的に低酸素状態であり、その条件下で増殖する細胞にとって、セリンもグリシンも特に重要なアミノ酸である。

しかし、今回の最新研究2件はそれとはアプローチの仕方が少し異なる。つまり、代謝経路を利用して抗がん剤の効果を高める方法を採ったのだ。

メトトレキサートは特に小児白血病の治療によく使われるが、極めて強い毒性を示す場合がある。今回Sabatiniの研究チームは、メトトレキサートへの反応に関係する遺伝子を探し求めて、がん細胞をスクリーニングした。この探索で、ヒスチジン合成に関わるある酵素の遺伝子が見つかった。

Sabatiniらは、ヒスチジンを豊富に与えることで、マウスに移植された白血病細胞のメトトレキサートへの感受性が高くなることを見いだした。この研究結果がヒトにも当てはまるなら、がん患者へのヒスチジンのサプリメント投与で、メトトレキサートの投与量を少なくして毒性を低く抑えられるのではないかとSabatiniは考えている。

一方、7月4日発表の研究は、がん細胞でよく変異して腫瘍増殖を助けるタンパク質PI3Kを標的とする薬剤を調べたものだ。この種の薬剤は、臨床試験で一貫した有効性を示していない。しかし研究チームは、こうした薬効の一貫性のなさが、PI3Kの阻害時にインスリン値が上昇することに一部起因している可能性があることを見いだした。増えたインスリンは、PI3Kが制御する分子経路を再活性化して、薬剤の効果を抑え込んでしまうのである。

研究チームは、薬剤使用やケトン食療法と呼ばれる低炭水化物食事療法でインスリン値上昇を抑制することで、PI3K分子経路の再活性化を抑制してPI3K阻害剤の有効性も高められることを、マウスで示した。

現段階で肝要なのは、マウスで得られたこれらの研究結果をヒトにつなげることだろうと、ビュルツブルク大学(ドイツ)のがん研究者Almut Schulzeは話す。これは容易ではないかもしれない。Schulzeによれば、ヒトの食事内容を制御するのはマウスの場合よりも難しいが、ケトン食療法のような厳しい食事療法であっても、がん患者なら高いモチベーションを持ってやり通せるのではないかという。

もう1つの難題は、こうした食事内容の変更でどの患者が最も恩恵を得られそうかを見極めることだと、ラドウィッグがん研究所(米国ニューヨーク)のがん研究者Chi Van Dangは話す。製薬会社の中には、がんの代謝を標的とする戦略から手を引いてしまった企業もあるが、その理由の1つに挙げられているのが、対象とすべき患者の見極めが難しいことなのだ。

Dangによれば、「ヒトの代謝は個々で大きく異なっており」、こうした食事療法に対して患者らが同じように反応することはないだろうという。

(翻訳:船田晶子)

参考文献

  1. Kanarek, N. et al. Nature https://doi.org/10.1038/s41586-018-0316-7 (2018).
  2. Hopkins, B. D. et al. Nature https://doi.org/10.1038/s41586-018-0343-4 (2018).
  3. Maddocks, O. D. K. et al. Nature 544, 372–376 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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