Editorial

離任にあたって(フィリップ・キャンベル)

2018年6月28日号は、編集長としての最後のNature です。私が初めて編集長として携わったのは1995年12月14日号でした。ここでは個人的な思いを少しばかりつづってみます。

Nature 編集長の役割は、傑出した科学研究を支援するとともに、研究コミュニティーとその価値観に対して、多角的に意見を述べる友人として行動することです。1869年の創刊以来一貫しています。私を突き動かしてきたものの1つは、子どもの頃から関心があり研究者としても熱中した天文学と物理学。そしてもう1つは、Nature の出版により、拡大し続ける関心領域と世界の風潮を届けることでした。多くの研究者や同僚と共にNature の使命を堅持し、発展に貢献できたことを極めて幸運かつ光栄に思います。

学術誌としてのNature は、実に見事な研究や示唆に富んだ研究に常に通じていることで成長しました。ヒトゲノムやマイクロバイオームに関する識見、光起電力研究の進展、太陽系外惑星研究の隆盛は、私に知る喜びをもたらしたものの一例です。また、Nature が有機化学と高エネルギー物理学に進出し、発展できたことにも満足しています。そして、最も高揚したのはやはり、全く意外な研究成果に触れたときです。私のお気に入りはホモ・フロレシエンシス(通称ホビット)です。

科学雑誌の側面の方は、1995年の数冊を読み直してみると、幅広い読者の関心を集める政策関連の報道ではなく、対象読者を絞った報道に重点が置かれていました。また、寄稿のCommentには、研究事業とその対外関係に触れたものがほとんどなく、News and Viewsには難解な言い回しが散見されました。私が編集長に就任してからは編集部と共に、Nature の誌面に生き生きとした、分かりやすい記事と論文を徐々に増やしていくという壮大な目標に取り組み続けました。

残念だったのは、Nature に掲載できなかった素晴らしい論文が少なからずあったこと、そして、Nature に掲載された素晴らしい論文について、撤回や正式な批評があったときに私たちがとる複雑な対応を、十分に迅速化できなかったことです。現在、Nature のコンテンツに関して、一般社会と研究コミュニティーで十分に取り上げられてこなかった集団の要望と関心に対し、これまで以上に注意を払っています。同様に、Nature 編集部の構成でも多様化に取り組んでいます。これらの全てをもっと強く推進できればよかったと思います。

編集長は、それぞれの編集方針を持っており、それに基づいて読者の要望と関心に応えるとともに、十分に注目されていない理念を後押しします。私の編集方針には、社会科学、再現性、健全な研究風土と研究環境、研究が社会に及ぼす影響の追跡調査、精神衛生研究を支援することが含まれていました。任期全体を通じた私の目標は、要求の非常に厳しい読者のできるだけ多くに、毎週発行されるNature(今は紙面のかなりの部分をオンライン版として絶え間なく出していますが)に対して期待感を持ってもらうことでした。

私が22年余の任期中に成し遂げたことはどれも、素晴らしい同僚たちがいなければ実現不可能でした。Nature の編集部には、非常に優れた技能や先見性の持ち主が数多くおります。その結果、私が編集長を務めていた間、いくつかの間違いがあったものの、少なくとも私にとっては充実感がありました。編集部のスタッフも同様に感じているかもしれませんが、とりわけ読者の皆さまにそう感じていただけていたら幸いです。

このたびNature を発行するシュプリンガー・ネイチャー社の編集長という新たな役割を担うにあたり、これまでNature に力を貸してくださった研究コミュニティー内外の皆さまに感謝申し上げます。またNature チームには特に深く感謝します。私の後任であるMagdalena Skipperが今後、膨大な責任と機会に直面しつつも成功を収めることを祈っています。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180939

原文

Nature editor bids farewell
  • Nature (2018-06-28) | DOI: 10.1038/d41586-018-05525-y
  • Philip Campbell