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火星の内部構造に迫る探査機

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180810

原文:Nature (2018-05-03) | doi: 10.1038/d41586-018-04964-x | Mars quakes set to reveal tantalizing clues to planet’s early years

Alexandra Witze

謎に満ちた火星のコアの詳細を解明すべく、惑星の「鼓動」を聞き取る聴診器を搭載したNASAの探査機が火星に向かって飛行中だ。

11月に火星に着陸して地震を観測するNASAの火星探査機インサイトの想像図。 | 拡大する

NASA/JPL-CALTECH

2018年5月5日、米航空宇宙局(NASA)はバンデンバーグ空軍基地(カリフォルニア州)から9億9400万ドル(約1100億円)の火星探査機「インサイト」(InSight)を打ち上げた。ミッションの主要な任務は、火星の表面に地震計を設置し、火星の内部で反射する地震波に耳を傾けることだ。

この試みが成功すれば、火星の地震現象を初めて明確に検出できるだろう。同時に、火星の内部構造とその進化を巡る長年にわたる謎が解明されることにもなる。NASAのジェット推進研究所(カリフォルニア州パサデナ)の地球物理学者で今回のミッションの主任研究員であるBruce Banerdtは、「火星に関するこれらの問題に答えを出すためには、地震波データが必要なのです」と言う。ドイツ航空宇宙センター(DLR;ベルリン)の惑星物理学者Ana-Catalina Plesaは、「インサイトは火星初の惑星物理学観測所になるのです」と補足する。「我々は皆、今からワクワクしています」。

地球では、地震学者らは世界各地に設置された観測装置を利用して、遠方の震源から伝わってきた地震波を検出している。地震波のエネルギーが地球の内部であちこち反射する様子を追跡することにより、地球のコアの大きさなどの情報を算出することができる。

しかし、火星ではまだ同様の研究を実施できていない。NASAは1975年に相次いで打ち上げたバイキング1号と2号のランダー(着陸機)で地震観測に挑戦したが、うまくいかなかった。まず、バイキング1号は、地震計を設置できなかった。バイキング2号の地震計は、約2100時間にわたりデータを収集したが、それらしい振動を検出したのはたった1回で1、あとは突風による着陸船のぐらつきを原因とする振動であった。この地震計は着陸船の上に取り付けられていて、火星の表面にじかに接触していなかったからだ。

インサイトは火星に着陸後、スイカほどの大きさの地震計SEISを地表に設置する。フランス国立宇宙センター(CNES)が製作したこの地震計は、非常に小さい振動でも計測できる3つの繊細な振り子からなり、全体が風防に覆われている。NASAのマーシャル宇宙飛行センター(アラバマ州ハンツビル)の惑星科学者Renee Weberは、「感度の高さは群を抜いています」と言う。

火星のミステリー

インサイトの地震計は地震を何回捉えられるだろうか? 火星の地震活動に関する実際のデータはないため、研究者らは、火星表面の断層の地図2と、火星内部が時間とともにどのように冷えてきたかの計算結果3から、火星の地震は地球よりは少ないが、月よりは多いと見積もった。月では、極端な寒暖差による岩石の破壊や地球からの潮汐力によって地震が引き起こされている。

インサイトは、火星の赤道付近にある安全で平坦なエリシウム平原に着陸する4。ここは、地質学的な面白みは少ないが、Weberによると、毎年1度、マグニチュード2.7~4.2の局所的な地震が観測される可能性があるという。また、多くの断層が走るケルベロス地溝帯で起こる地震など、遠方のより大きな地震も検出できるはずだ。地震計チームを率いる地球物理学研究所(フランス・パリ)の惑星物理学者Philippe Lognonné教授は、「ミッション期間中に30回前後の地震を捉えることを目標にしています」と言う。大きな地震を観測できれば、火星の内部はより明らかになる。最大級の地震にならないと、地震波がコアまで伝わらないからだ。インサイトは、NASAが希望している2年間(火星ではなく地球の2年)のミッション中に、そうした大きな地震を1、2回観測できるかもしれない。

火星の地震データは、インサイトが火星の地殻とマントルとコアの境界の地図を作るのに役立つ。その地図によって、火星の原初のマグマの海がどの程度の深さまでかき混ぜられていたのか、また火星にプレートテクトニクスのようなものがあったのかが明らかになるかもしれない。火星のコアの大きさは地球の半分程度だと推定されているが、その大きさを特定できれば、密度と組成が明らかになるだろう5。Banerdtによると、火星の内部の層は、火星が誕生してから数千万年分の歴史を記録しているという。火星と地球は誕生直後は同じように変化していったと考えられているため、火星の内部を調べることで、誕生して間もない頃の地球の様子を知るためのヒントが得られるかもしれない。

一方、インサイトの電波科学実験RISEでは、火星が太陽の周りを公転する間に自転軸がどのようにふらついているかを測定する。その知見は、より厳密にコアの大きさを明らかにするのに役立つはずだ。また、熱流測定実験HP3では、DLRのチームが製作した熱流プローブを火星の表面下5mまで差し込んで、深さや時間とともに温度がどのように変化するかを測定する。

インサイトは2018年11月26日に火星に着陸予定である。20年以上前から火星に地震計を設置しようと奮闘してきたLognonnéは、その日を待ちきれないほど楽しみにしている。「最初のデータを手にした日には、もっと幸せな気持ちになるでしょう」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Lorenz, R. D., Nakamura, Y. & Murphy, J. R. Earth Space Sci. 4, 681–688 (2017).
  2. Knapmeyer, M. et al. J. Geophys. Res.111, E11006 (2006).
  3. Plesa, A. -C. et al. Geophys. Res. Lett. 45, 2580–2589 (2018).
  4. Golombek, M. et al. Space Sci. Rev. 211, 5–95 (2017).
  5. Hellfrich, G. Prog. Earth Planet. Sci. 4, 24 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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