脳機能を支える神経回路は、神経細胞同士がシナプスというつなぎ目を介して複雑につながることで作られる。脳の情報や指令は、神経細胞内においては電気的に伝達されるが、シナプスでは神経伝達物質を内包した小胞を介して化学的に伝達される。しかし、伝達の強度を左右する小胞放出の場の数や、場の形成過程などは不明であった。このほど、廣瀬謙造・東京大学大学院医学系研究科教授らは、独自に開発した高感度のイメージング技術に分子の超解像可視化技術を組み合わせることで、場の形成に関わる分子実体の解明に成功した。
–– 単一レベルのシナプスを直接観察して成果を挙げました。
廣瀬: 私は薬理学の出身で、イメージングを用いた「もの、現象、かたち」の生理学研究を進めています。「もの」とは分子を、「現象」とは活動電位などの物理学的に測定可能な現象を、「かたち」とは解剖学的な形態や大きさを意味します。そもそもは細胞内のカルシウムイメージングをやっていたのですが、そこからカルシウム情報伝達に関与するイノシトール三リン酸(IP3)、さらに約10年前からグルタミン酸のイメージングへと進みました。グルタミン酸は脳における神経伝達物質の本丸といえますが、脳のイメージングは他の組織よりも遅れており、グルタミン酸の挙動が分かれば脳機能について面白いことが分かると考えたのです。今回の成果は、シナプスから放出されるグルタミン酸のイメージングに加え、分子の超解像可視化技術を組み合わせて得られたものです1。
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Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 8
DOI: 10.1038/ndigest.2018.180815