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ヒト形成体の存在をニワトリ胚を使って確認

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180702

原文:Nature (2018-05-23) | doi: 10.1038/d41586-018-05202-0 | Hybrid human–chicken embryos illuminate key developmental milestone

Sara Reardon

ヒトの胚を用いずにヒトの初期発生の仕組みを解明することを可能にする、新たな技術が開発された。

受精後4~5日目のヒト胚盤胞。 | 拡大する

ANDY WALKER, MIDLAND FERTILITY SERVICES/ SCIENCE PHOTO LIBRARY/Science Photo Library/Getty

細胞塊が胚へと発生していく前に、まずはどちらが上側か決定される必要がある。しかし、ヒト胚におけるこの過程は、これまで観察できなかった。このほど、ヒト幹細胞をニワトリ胚に移植することで、ヒト初期発生でも「形成体(オーガナイザー)」と呼ばれる部域が存在し、この部域の細胞によって胚の上下前後の形成が誘導される様子が初めて観察された。Nature 2018年6月7日号に報告された1この手法は、ヒト胚を用いた研究の制約を回避できることから、ヒト胚を使ういくつかの実験に取って代わる可能性がある。

形成体は、1924年に2人のドイツ人発生生物学者ハンス・シュペーマンとヒルデ・マンゴールドによって発見された2。イモリ初期胚の背側から採取した細胞を別の個体へ移植すると、その部位にイモリの二次的な体軸(二次胚)が形成されたのである(図a)。この結果から、胚の背側には、周囲の細胞を複雑な一連の構造へと組織化して動物個体を作り上げる、特別な細胞があることが示唆された。

以降、他の動物の胚でも形成体の存在が明らかにされたが、ヒトの初期胚でそのような細胞を観察するのは不可能だった。というのも、米国をはじめとする多くの国や医学系の学会では、法律や倫理ガイドラインによって、形成体が現れ中枢神経系が作られるであろう受精後14日目以降のヒト胚を実験に用いることを禁止しているためだ。

「受精卵が子宮に着床した後に何が起きるのか、誰も知りませんでした」。今回の研究の筆頭著者で、ロックフェラー大学(米国ニューヨーク)の発生生物学者Ali Brivanlouは言う。

2つを1つに

Brivanlouらは2016年に、ヒト胚を培養皿中で受精後13日目まで成長させることに初めて成功した3Nature ダイジェスト 2016年8月号「ヒト胚の体外培養で最長記録達成」参照)。しかし、胚が四肢や器官の発達につながる複雑な再編成を始める前に、倫理ガイドラインに従って、彼らは研究を中断した。

今回の研究で、Brivanlouらは、ヒト胚性幹(ES)細胞から胚様の構造体を成長させることで、14日ルールを回避した。彼らは、22 mm四方のカバーガラス上に、微小なドット状に細胞外マトリックスを塗布し(細胞外マトリックスがある部分にだけ細胞が接着する)、その上にES細胞を播種して培養することで、通常は水平に広がってしまう細胞に立体的なコロニーを作らせた。播種したES細胞は、初期胚において種々の細胞層の形成を促す一連の増殖因子で処理した。そうしてできた胚様細胞塊を解析すると、他の動物種の形成体で見られるような遺伝子発現を示す細胞群が含まれていた。

Brivanlouらは次に、この胚様のヒト細胞塊を、受精後12時間のニワトリ胚(ヒト14日胚に相当)に移植した。すると、移植されたニワトリ胚の発生が進むにつれて、移植したヒト細胞塊はニワトリ細胞を分化させ、ニワトリの二次的な神経系の形成を誘導した(図b)。Brivanlouによれば、今回のハイブリッド胚は孵化には至らないものの、得られた結果は1924年のイモリの実験とよく似ているという。

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Nature 558, 35–36 (2018).

今後の展望

この研究結果に感銘を受けた研究者の1人、ジャクソン研究所(米国メーン州バーハーバー)の幹細胞研究者Martin Peraは、「この実験系から、非常に多くの知見が得られるでしょう」と話す。流産の原因となるヒト胚の初期発生異常に関して理解を深めることや、この胚様細胞塊とヒト幹細胞培養の比較によって幹細胞の能力の解明を進めることも可能になるだろうと、彼は期待を寄せる。

この技術はヒト胚を用いた研究の倫理的課題を回避することにもつながるだろう。「本当に大きな進展です。胚を使わずに研究が行えるようになったのは素晴らしいことです」と話すのは、ホーエンハイム大学(ドイツ・シュトゥットガルト)の発生生物学者Martin Blumだ。「基本的な課題を解明するためにヒト初期胚が必要となる研究の例は、今のところ思い付きません」。

だが、当のBrivanlouはこれには同意していない。「本当の胚を用いた研究の代用にはなり得ません。モデル化すると、他の要因がどうしても単純化されてしまうからです」。

次のステップは、ヒト形成体がいかに正確に周囲の細胞に影響を及ぼすかを明らかにすることだと、Brivanlouは考えている。これにより、器官や組織の再生治療の一環として行われている、ヒト幹細胞を操作して特定の組織や構造へと変化させる取り組みにも、有益な情報がもたらされるだろう。

(翻訳:山崎泰豊)

参考文献

  1. Martyn, I. et al. Nature https://doi.org/10.1038/s41586-018-0150-y (2018).
  2. Spemann, H. & Mangold, H. Arch. Mikrosk. Anat. Entwicklungsmech. 100 (3-4), 599–638 (1924).
  3. Deglincerti, A. et al. Nature 533, 251–254 (2016).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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