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銀河系の中心部に数千個のブラックホール?

ブラックホール(左)と通常の星(右)からなる 小質量X線連星の想像図。 Credit: ESO/L. Calçada

銀河系(天の川銀河)の中心にある超大質量ブラックホールは、星の高密度の集団で囲まれている。この集団の中で生き、死ぬ星たちは、強く集中した質量による重力によってほぼ常に束縛されている。この結果、大質量星の死で残るブラックホールが、銀河系の存続時間内に、銀河系の中心から半径1パーセク(3.26光年)以内に集積したとみられている。この領域内にある恒星質量ブラックホールの数の理論的見積もりは、数千個から数万個までさまざまだ1-3。今回、コロンビア大学(米国ニューヨーク)のCharles J. Haileyらは、そのようなブラックホールクラスターの最初の観測的証拠とみられる結果を得て、Nature 2018年4月5日号70ページで報告した4

全ての星はX線を放出するが、銀河系の中心部では最も明るい星状X線源のみが観測され得る。にもかかわらず、米航空宇宙局(NASA)が1999年に打ち上げたチャンドラX線観測衛星の高度CCD撮像分光計(ACIS)は、銀河系中心方向への単一視野内で数千個のX線源を検出した。このほぼ全てが、通常の星とコンパクト星(高密度星ともいい、白色矮星、中性子星、ブラックホールなど)の伴星からなる近接連星系に見つかる。連星の通常の星からガスが引き出され、伴星の上へ、あるいは中に移動させられる(降着する)とき、ガスは強く加熱される。X線は、そうしたガスによって生じる。

X線源のほとんどは、白色矮星を伴星として含む連星だ。このような系は激変星と呼ばれる。降着流によって白色矮星の表面上に物質が蓄積し、何回かの激しい核燃焼が白色矮星で起こるからだ。伴星が中性子星かブラックホールである連星は、銀河系中心ではずっと少ない。これらの系は、通常の星の質量が比較的小さい場合、小質量X線連星(LMXB)と呼ばれる。一方、大質量X線連星は、通常の星が大質量で非常に明るく、赤外サーベイを使って容易に観測することができる。Haileyらが今回調べた銀河系の中心領域に存在する大質量X線連星は、これまでの観測結果を基に除外された5,6

ブラックホール小質量X線連星(ブラックホールを含む小質量X線連星)は通常は少ないが、銀河系中心でこれを相殺する要因が質量分離という現象だ。このプロセスでは、銀河系中心の周りを回る星の重力相互作用により、最も重い星や連星たちは中心の近くへ移動し、最も軽い星たちは外側へと移動する1-3。典型的な恒星質量ブラックホールは太陽の5倍から15倍の質量を持つ。これは、この環境でのたいていの他の星の質量よりもずっと大きい。だから、こうしたブラックホールは、孤立しているか連星系の一部であるかには関係なく、銀河系中心に強く集まるはずだ。中性子星は通常、太陽質量の1倍から2倍の質量を持つので7,8、銀河系中心に集まる効果はずっと弱いはずだ。

Haileyらは、銀河系中心のX線源スペクトルの大ざっぱな調査を使い、小質量X線連星と、数の多い激変星を区別した。激変星は、熱放射プロセスに特徴的なスペクトルを持ち、鉄に伴う顕著なスペクトル線が見られる。一方、小質量X線連星は、非熱的で特徴のないスペクトルを持ち、非常に高速の粒子からの放出を示す。

Haileyらは、中性子星小質量X線連星は、チャンドラが銀河系中心を監視してきた18年よりも短い時間スケールでX線の激しいアウトバースト(急激な増光)を起こすという事実を利用し、中性子星小質量X線連星とブラックホール小質量X線連星を区別した。ブラックホール小質量X線連星のアウトバーストはずっと長い時間スケールで繰り返すので、特定のブラックホール小質量X線連星が観測期間中にアウトバーストを起こす可能性は小さい。アウトバーストを起こしている中性子星小質量X線連星(X線突発天体とも呼ばれる)が銀河系中心で1ダース以上見つかっていて、中心から1パーセクをはるかに超えて散らばっているが、これはそうした天体のほぼ全数なのかもしれない9

Haileyらが激変星と中性子星小質量X線連星とみられる天体を明らかにした結果、ブラックホール小質量X線連星とみられる特徴を持つ12のX線源が残り、その全てが銀河系の中心から1パーセク以内にあった(図1)。この結果は、ブラックホールは、銀河系中心に集められているという仮説を支持する強い証拠になる。もちろん、この数は近接連星系しか含んでいない。おそらく、同じ体積の中に、はるかに多くの孤立した、今のところ観測不可能なブラックホールがあり、その数は場合によっては1万個にも上るとみられる。しかし、近接連星を作るさまざまなメカニズムの有効性は不確かなので、そうした外挿は難しい(ただし、参考文献10を参照)。

図1 銀河系中心からのX線放出
Haileyらは、銀河系の中心部の最も明るい星状X線源のスペクトルを調べた4。これらのX線源の位置は、小さな円で示されている。Haileyらは、小質量星とブラックホールの近接連星系とみられる特徴を持つ、12のX線源(黄色の円)を見つけた。これらのX線源は、銀河系の中心から1パーセク(3.26光年、赤色の円で示されている)以内にある。この領域の中心に超大質量ブラックホールがあり、それ自体が突出したX線源だ。画像の色はX線放出の強さを表し、黒色が低く、黄色が高い。 Credit: C. J. HAILEY ET AL./NATURE

こうした環境での近接連星の寿命も不確かだ。例えば、近接連星を構成する天体を、やがては1つの天体に合体させる既知の効果が2つある。1つ目の効果は、他の星との近接した重力的遭遇が、連星の構成天体の距離をその対が合体するまで減少させるものだ。2つ目の効果は、その領域の全ての連星系がその周囲を回っている、銀河系の中心の超大質量ブラックホールが、より短い時間スケールで合体を推し進めるものだ。これは、超大質量ブラックホールの重力が、連星を作っている星の軌道の離心率を徐々に大きくするために起こる。やがて軌道は引き延ばされ、2つの構成天体は接触し、比較的激しい合体を起こす11,12

合体しつつあるブラックホール小質量X線連星は、質量が増加した1つのブラックホールになるだろう。もしも、この新しい天体が別の連星系を形成し、それが合体し、そうした事象の連鎖が続けば、最大で太陽の数十倍の質量のブラックホールを作ることが可能だろう13。この質量は、連星ブラックホールなどの合体による重力波の観測データを説明するために決定された質量範囲にある14。それほど大質量のブラックホールが、非常に大質量の星の1回の超新星爆発で作られ得るかははっきりしていない。Haileyらの発見は、そのような大質量のブラックホールがどのようにして作られ得るかだけではなく、それらが連星系になる過程の解明へも道を開く。

Haileyらは既に、チャンドラの既存の観測データベースの多くを彼らの分析で使ってしまっているため、次の観測結果が待ち遠しい。銀河中心のブラックホールクラスターは、ありふれたものである可能性がある。ブラックホールの中心クラスターを理解するため、近い将来、連星系の動力学的形成と進化の理論的研究が不可欠になるだろう。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180732

原文

Bounteous black holes at the Galactic Centre
  • Nature (2018-04-19) | DOI: 10.1038/d41586-018-04341-8
  • Mark R. Morris
  • Mark R. Morrisは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)に所属。

参考文献

  1. Miralda-Escudé, J. & Gould, A. Astrophys. J. 545, 847–853 (2000).
  2. Morris, M. Astrophys. J. 408, 496–506 (1993).
  3. Freitag, M., Amaro-Seoane, P. & Kalogera, V. Astrophys. J. 649, 91–117 (2006).
  4. Hailey, C. J. et al. Nature 556, 70–73 (2018).
  5. Mauerhan, J. C. et al. Astrophys. J. 703, 30–41 (2009).
  6. Laycock, S. et al. Astrophys. J. 634, L53–L56 (2005).
  7. Raithel, C. A., Sukhbold, T. & Özel, F. Astrophys. J. 856, 35 (2018).
  8. Özel, F. & Freire, P. Annu. Rev. Astron. Astrophys. 54, 401–440 (2016).
  9. Degenaar, N. et al. Astron. Astrophys. 545, A49 (2012).
  10. Generozov, A., Stone, N. C., Metzger, B. D. & Ostriker, J. P. Preprint at https://arxiv.org/abs/1804.01543 (2018).
  11. Naoz, S. Annu. Rev. Astron. Astrophys. 54, 441–489 (2016).
  12. Stephan, A. P. et al. Mon. Not. R. Astron. Soc. 460, 3494–3504 (2016).
  13. Antonini, F. & Rasio, F. A. Astrophys. J. 831, 187 (2016).
  14. Abbott, B. P. et al. Phys. Rev. Lett. 118, 121101 (2017).