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学術界サバイバル術入門 — Training 3:英語論文の読み方

Credit: macrovector/iStock/Getty Images Plus/Getty

研究者として成功するには、情報を常に最新に保つことが不可欠です。最新の文献に精通していれば、その分野の傾向をつかむことができ、それを糸口に、あなたの専門分野を進歩させ得る「疑問」を見つけ出すことができます。また、文献を読んでいるうちに最新の技術や方法に慣れ、研究に取り入れることができます。そして、あなた自身の論文の中で最新の技術や方法に関する貴重点を考察すれば、あなたの信頼性が確立され、良い評判につながります。ほとんどの研究者がそれを分かっているのに、皆さん「時間が足りない!」と答えます。そこで今回は、効率的に論文を探し出すための戦略と、効率的に論文を読み解くための戦略をお話しします(過去の無料公開記事はこちら)。

効率的に論文を探し出す

あなたは普段、研究テーマに関連する論文をどうやって見つけますか? ほとんどの研究者は、Web of ScienceScopusPubmedGoogle Scholarなどの索引データベースを利用しています。これらのデータベースの違いを知っておくと、論文を絞り込む際に役立ちます。

このようなデータベースは一般に、2つに分けられます。データベースへの登録に学術誌からの申請が必要なもの(Scopus、PubMed、Web of Scienceなど)と、不要なもの(Google Scholarなど)です。前者は、編集の質と内容について厳しい選抜基準があります。例えば、Scopusの採択率は25~30%、Medlineを介するPubMedは15%、Web of Scienceは10%です。つまり、ある論文がこの3つのデータベース全てで検索できるとしたら、その論文が掲載された学術誌は、3つの独立した外部の評価を受けて質が認められていることを意味します。

一方のGoogle Scholarは、おそらく世界中のさまざまな研究分野全体で最も一般的に使用されているデータベースで、オンラインで発表された学術的な内容のものならここで発見できるでしょう。しかし、ここで見つけた論文が掲載された学術誌が査読者による徹底的な評価を行っているという確信が持てない場合は、論文中のデータをより注意深く精査した方がいいでしょう。とはいえ、Google Scholarの利点は、創刊から間もない学術誌の論文を見つけられること(ほとんどの学術誌は、Scopus、PubMed、またはWeb of Scienceで論文が検索可能になるまで創刊から数年かかる)、そして書籍や学会資料なども検索可能なことです。

1つのデータベースに頼っていては、知識を常に最新に保つことはできません。ScopusやWeb of Scienceのような適度な質と量のデータベースを少なくとも1つ使い、さらに広範囲をカバーするGoogle Scholarも併用することをお勧めします。

役に立つヒントをもう1つお教えしましょう。キーワードを入力して検索するのは、たった一度でいいのです。「え?」と思うかもしれませんね。上記のデータベースで一度キーワード探索を行えば、その検索内容を保存してアラートを設定できるのです。以降は、あなたが検索したキーワードに関連する論文がデータベースに収録されると、メールで知らせてくれます。あとはメールに目を通して、最新情報を仕入れるだけです。

シュプリンガー・ネイチャーは、Recommendedと呼ばれる独自のサービスを無料で提供しています(Recommended:研究者と一次研究論文をつなぐ新サービス参照)。このサービスは、あなたがNature.comかSpringerLinkで最近読んだ100編の論文の傾向に基づいて、4万5000の学術誌全体から(CrossRefを介して)関連があると思われる別の論文をメールで知らせます。

1日に20~30分ほどかけて、メールで送られてきた論文抄録を読み(コーヒーを1杯飲みながら読むと楽しめますよ)、それらの中から全文を読みたいと思う論文を見つけるといいでしょう。

効率的に論文を読み解く

時間が限られている上に非常に忙しい皆さんが、全ての論文を最初から最後まで読み通す時間はおそらくないでしょう。あなたにとって最も重要な内容を確実かつ効率的に見つけるには、まず、「私は何を探しているのか?」と自分に問いかけ、キーワードをはっきりさせることが重要です。あなたは何らかの理由でその論文をダウンロードしました。その論文には、学びたいと考えていた何かがあったはずです。それは何でしょうか? 

次のステップは、論文のどこを読めばその情報が見つかるかを知っておくことです。どの論文も、「Introduction(緒言)」「Methods(方法)」「Results(結果)」「Discussion(考察)」という見出しを使って、読者が効率的に読めるように構成されています。

「Introduction」の大部分は論文を理解するための背景知識的な情報です。あなたがそのテーマに精通しているなら読む必要はないかもしれません。しかし、この研究を行う動機となった「疑問」を知りたい場合は違います。著者がなぜこの研究が必要だと考えたかについては、通常このセクションの最後の方で述べられていて、大抵「however」という単語の後に書かれています。この単語を見つけたら、流し読みをやめて次の文章を注意深く読みましょう。研究の目的を捉えて論文を読み進めることができるでしょう。

次に、図やグラフ、表に目を通しましょう。目を通したら、著者が得たデータを評価するために、図表の説明文を検討します。このとき、もしこのデータがあなた自身のものなら、どのように解釈するか考えてみましょう。①次に何をするか? ②そうした追加実験は行われているか? ③もし行われていないなら、その理由は? このような問いから、この研究を足掛かりに、あなた自身が研究をどのように進めていきたいかも見えてくるかもしれません。

特定の傾向や関係性を明確につかみ切れない場合には、「Results」の該当箇所を見てみましょう。ここでは、読者に研究内容をよりよく理解してもらうために、データの傾向がよりはっきりと書かれています。①著者が説明する傾向や関係性に同意できるか? ②論文で説明されていない傾向を見いだしたか? こうした問いもまた、あなた自身の研究計画の基盤となる研究の糸口になるかもしれません。

最後に、「Discussion」(論文によっては「Results-Discussion」としていることも)を通読しましょう。このセクションで著者たちは、すでに知られていることに照らして、今回の研究結果の解釈を述べます。①著者の解釈に同意できるか? ②関連している(とあなたが考える)他の研究が、この論文で議論されているか? ③この研究には方法や分析に制約があり、その影響が及んでいる可能性があるか? 疑問点は、論文の責任著者(Corresponding author)に遠慮なく連絡を取って議論することをお勧めします。彼らは研究に関心を持ってくれたことに感謝するでしょうし、あなたは新たな学問的ネットワークを作り上げることになります。世界中の研究者仲間とネットワークを作り上げることは、評判を上げるための最良の方法の1つです。

専門的知識を築き上げるために本当に重要なものを抽出するには、このように「能動的に」論文を読む必要があります。慣れるまでは、ガイドとして上述の質問を書き留めておき、都度見直すことをお勧めします。訓練を積めば、すぐに自然とこれらの質問が浮かんでくるようになり、さらに効率が上がることでしょう。

まとめ

論文を読むことは、生産的な研究者であるために不可欠な要素です。研究計画の改善に役立つだけではなく、専門的な知識を蓄積することにもなり、名声を築き上げることにつながります。限られた時間の中で貴重な情報を拾うためには、効率的な戦略を実行しましょう。

ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)

ネイチャー・リサーチにて編集開発マネージャーを務める。ペンシルべニア大学でPhD取得後、シンガポールおよび日本の研究所や大学に勤務。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。学術界での20年にわたる経験を生かし、研究者を対象に論文の質の向上や、研究のインパクトを最大にするノウハウを提供することを目的とした「Nature Masterclasses」ワークショップを世界各国で開催している。

翻訳:古川奈々子

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180728