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10万年さかのぼった初期人類の文化の起源

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180614

原文:Nature (2018-03-22) | doi: 10.1038/d41586-018-03244-y | Advances in human behaviour came surprisingly early in Stone Age

Jeff Tollefson

現生人類の文化の起源が従来の説よりも古いことを示す石器が発見された。それらはさらに、初期人類の技術や文化の発達が、気候の急激な変化や大地震と関連している可能性を示しているという。

ケニアのオロルゲサイリー盆地では、単純な道具(左)が小型で複雑な道具(右)に取って代わられた。 | 拡大する

HUMAN ORIGINS PROGRAMME, SMITHSONIAN

アフリカ東部の初期人類による高度な道具の製作やその他の複雑な行動の出現は、従来の想定よりも何万年か早かった。そう主張する論文が、3月15日付でScienceに3編掲載された1–3。これらの論文によれば、初期人類の文化に大きな変化が見られた時期は、気候や景観の大変動が起こった時期と重なっており、地球環境の変化が文化を発達させた可能性もあるという。

この主張のもととなった証拠は、ケニア南部のオロルゲサイリー盆地で発見された。かつて120万年も前の現生人類の近縁種の痕跡が発見された場所だ(「複雑な生活」参照)。オロルゲサイリー盆地の各地で見つかった多数の石器から、初期人類は約32万年以上前のある時点で一連の大変化を経験したようだ。この頃の初期人類は、単純な握斧を捨て、遠くの産地から入手した黒曜石などの素材でできた小型の先進的な石刃を選んでいる。使用する道具が急激に変わったことから、この地に居住していた初期人類が交易のネットワークを築き上げていた、つまり、行動の複雑化が進んでいたことが示唆される。また、黒色や赤色の岩石や鉱物には、のみのようなもので削られた跡も発見されており、当時オロルゲサイリーの住人たちがこれらの鉱物を素材として染料を作り、場合によっては色を使って地位やアイデンティティを象徴するなど、コミュニケーションの道具として使用していた可能性もあることを示している。

複雑な生活
ケニアのオロルゲサイリー盆地で得られた証拠は、気候の変動性が増していった時期に、初期人類が交易のネットワークを構築し、その他の複雑な行動を発達させたことを示唆している。 | 拡大する

変化の時代

人間の行動に大きな変化が見られた時期の全てが、長期にわたる環境の激動期に一致している。この頃のケニア南部は、大規模な地震があったことに加え、変動度が高く乾燥した気候へと移行したとされている。さらに、大型動物が消滅して小型の生き物が取って代わったことも分かっている。スミソニアン研究所(米国ワシントンDC)の「人類起源プログラム(Human Origins Programme)」の指導者として今回の研究を率いたRick Pottsは、「地殻変動と気候変動のダブルパンチでした。進化が起こる要因にもなるほどの大きな変化です」と話す。人類の文化的な行動の起源については近年、かつて考えられていた以上に古く、また大規模であったことが数々の証拠から示唆されている。今回の一連の研究は、人類の文化的な行動の起源が約10万年さかのぼることを示しており、そうした証拠群に新たに加わるものといえる。

マックス・プランク人類史研究所(ドイツ・イエナ)の人類学者Nick Blegenは、今回オロルゲサイリーで得られた知見について、「気候変動が人類の行動にどのような影響を与えたかという問題を解決するには不十分だと思います」と話す。しかし、これまでに発見されているホモ・サピエンスに関する最古の証拠に先立つ、人類の複雑な行動への移行を示す確かな証拠ではあるという。従来、ホモ・サピエンスは約20万年前に出現したと考えられてきたが、その年代は、モロッコで発見された化石によって30万年以上前までさかのぼる可能性が出てきている4Nature ダイジェスト 2017年8月号「ホモ・サピエンスの歴史を書き換える化石を発見か」)参照)。

Blegenは、約20万年前にケニア中央部で黒曜石が運ばれていたことを明らかにしている5。現在は、同じ場所で得られた黒曜石の記録が39万6000年前までさかのぼることを発表するための、新たな論文も準備中だ。そうした複雑な行動の記録はさらに古い年代にまで及ぶ可能性があるというが、環境が人類の行動を形成しているのか、あるいは人類の行動の発達が高リスク環境での居住を可能にしているかについては不明だ。

複雑な道具

オロルゲサイリー盆地での発掘は、ルイス・リーキーとメアリー・リーキーの夫妻が1940年代に現地での研究の先駆けとなった。以来この地では、石器時代の人工物の発見が続いている。しかし、32万年以上前の遺跡であるこの場所で、中期旧石器時代(5万~2万5000年前)の典型的な特徴を備えた進んだ道具や行動の形跡が見つかったのは初めてだと、今回の人工物の年代測定と分析を指揮したジョージ・ワシントン大学(米国ワシントンDC)の人類学者Alison Brooksは言う。

石器の年代特定には同位体年代測定法が用いられた。また研究チームは、素材である黒曜石の産地も突き止めた。その多くは、さまざまな方角に25~50 km離れた場所だった。この結果について、それほど大昔に「素材の交易が行われていたことを示す史上最高の証拠だ」とBrooksは言う。

アリゾナ大学(米国テンピ)の古人類学者Curtis Mareanは、この発見を交易の証拠として受け入れることはできないと話す。「大規模な社会的ネットワークが存在したと主張するには、複数種類の人工物の素材が100 km規模で定常的かつ組織的に運ばれていたことを示してほしいものです」と彼は語る。

こうした変化が起こったのが32万年以上前のいつごろの時代であるかについては、研究チームは厳密に示すことができていない。長期にわたる侵食により、現地では49万9000~32万年前の考古学的記録が消失しているためだ。

現在複数のプロジェクトがケニアとエチオピアの古代湖底を掘削して周辺地域の環境的・生態学的変化に関する詳細な記録を収集しており、何らかの情報を得られる可能性がある6。Pottsらは、オロルゲサイリー盆地の南部で湖底コア(湖底堆積物の柱状サンプル)を2本採取しており、Pottsは、このコアで考古学的記録の抜けている年代を全て網羅できると説明する。アフリカ東部の別の場所で採取されたコアと比較すれば、局地的に起こった事象とさらに広域の気候傾向とが区別されるだろう。

「掘削コアが事態を打開してくれると期待しています。堆積物には環境が正確に記録されていますし、うまくいけば正確な年代を測定できる可能性もあります」とPottsは語る。そうなると、今度は変化する環境に対して動物や人々がどのように反応したのかを知るための研究が重要になってくる、とPottsは話す。「そういった研究によって初めて、気候が人類の進化に対し、実際にはどのような影響を与えているのかということを語れるようになるのです」。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Potts, R. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.aao2200 (2018).
  2. Deino, A. L. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.aao2216 (2018).
  3. Brooks, A. S. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.aao2646 (2018).
  4. Hublin, J.-J. et al. Nature 546, 289–292 (2017).
  5. Blegen, N. J. Hum. Evol. 103, 1–19 (2017).
  6. Cohen, A. et al. Sci. Dril. 21, 1–16 (2016).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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