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細胞内の「相分離」に注目

細胞の内容物が水と油のように分離する現象で、細胞内の組織化や疾患が説明できるかもしれない。

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OIL ART: STEVE PAVLOVSKY/LIQUID LIGHT LAB

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180624

原文:Nature (2018-03-15) | doi: 10.1038/d41586-018-03070-2 | What lava lamps and vinaigrette can teach us about cell biology

Elie Dolgin

当時大学院生だったDavid CoursonとLindsay Mooreが、夏期実習のためにウッズホール海洋生物学研究所(米国マサチューセッツ州)に到着すると、2人は指導教員らから、線虫の胚で「P顆粒」がどのように形成されるかを調べるように言われた。RNAとタンパク質からなる微小構造であるP顆粒は、生物学者を25年以上にわたって困惑させてきた。それを考えると、これは無理難題といえるものだった。ところが2人は、P顆粒の形成過程の映像を撮り始めてすぐ、顕微鏡下で意外な現象を目撃した。P顆粒は、インテリア照明器具「ラバライト」の中で浮遊する液体のように、ぶつかり合って融合したのだ。

こうした現象は液体のみで起こり得ることだ。P顆粒は、多くの研究者が考えていたような固い粒ではないのだと、CoursonとMoore、そして指導教員らは気付いた。P顆粒は、よく振ったフレンチドレッシング瓶の中の油滴のように振る舞い、最初は分散していた小滴が素早く融合して、より大きい液滴を形成したのである。

この過程は「液–液相分離(LLPS)」と呼ばれ、工学や化学、物理学の分野では基本的な概念である。液–液相分離は、水の表面に油が浮かぶように、2つの液体を押し離す力があればいつでも起こる。相分離は自然界に広く見られ、多くの工業過程で極めて重要な役割を果たしている。しかしCoursonは、最初に観察したときにそこまで思い至らなかった。「液体のように融合するP顆粒を見るのは実に素晴らしい瞬間でした。でも私はそのとき、この現象が影響を及ぼす範囲や影響の大きさを分かっていなかったのです」と彼は回想する。Coursonは現在、細胞生物学者としてオールドドミニオン大学(米国バージニア州ノーフォーク)で研究している。

夏期実習は短く、相分離過程をそれ以上詳しく調べる時間はなかったが、2人の指導教員だった細胞生物学者Tony Hymanと彼のところの博士研究員だった生物物理学者Cliff Brangwynneは、マックス・プランク分子細胞生物学・遺伝学研究所(MPI-CBG;ドイツ・ドレスデン)の研究室に戻ってから、さらに実験を行った。P顆粒の詰まった線虫生殖腺を2枚の薄いガラス板でぎゅっと挟み、ガラス板を擦り合わせた。この擦り合わせで剪断応力がかかり、固体であれば崩れるはずだが、P顆粒は次々と融合して玉のような液滴になった。

これを見てHymanとBrangwynneは発見の重大さを強く認識した。相分離は、細胞内の混み合ったカオス状態の中で、特定の分子を集合させつつ他の分子を排除して秩序を作り出す方法の1つなのかもしれない。このような「組織化の妙技」は、生物学の型通りの定量的な方法では考えが及ばなかっただろうとHymanは言う。「これまで人々が提起しようと思わなかった問題の1つでした」とHyman。彼はBrangwynneと、この研究成果を2009年に発表した1

それから10年、今では世界中の科学者がこの説に注目している。細胞が内部を浮遊する分子をどのように分離・分配しているかを説明できる可能性があるからだ。細胞内に生じた液滴が「るつぼ」の役目をして、反応の速度を上昇させたり、望まない因子や不要な因子を締め出したりしているのではないか、というわけだ。「考えてみれば道理だと、聞いた瞬間に大いに納得のいく直観的な仮説です」と、ニューヨーク市立大学先端科学研究センター(米国)の生物物理学者Shana Elbaum-Garfinkleは話す。

相分離は直観的なだけでなく、普遍的に存在するようである。タンパク質とRNAからなる小滴は、細菌や真菌、植物や動物に広く見られる。相分離が誤った場所や時期に起こると、神経変性疾患に関連する分子凝集体が形成される恐れがあり、また、小滴の形成不足はがんに関係したり、加齢過程の説明に役立ったりする可能性がある(「細胞の中の相分離」参照)。「相分離は、細胞生物学全般の理解を大きく変革させる新たなパラダイムです」とElbaum-Garfinkleは言う。

細胞の中の相分離
細胞内の物質は、さまざまな機能を果たすために、相分離と呼ばれる過程によって隔離されていると考えられる。ただし、相分離の異常が疾患の原因になる可能性もある。 | 拡大する

NIK SPENCER/NATURE

しかし研究者の中には、相分離が細胞内の組織化や疾患の発生に主要な役割を果たしていると断定するのは時期尚早だとする意見もある。相分離は化学的相互作用の副次的影響にすぎず、細胞内機構にはほとんど影響しないだろうと彼らは考えているのだ。細胞が相分離を使っている可能性があると考察できても、それが間違いなく起こっているということにはならないと、ハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の細胞生物学者Tim Mitchisonは話す。「今はまだ仮説に過すぎないのです。実際に証明されたわけではありません」。

一滴また一滴

1899年、米国の細胞生物学者Edmund Beecher Wilsonは、細胞の大部分を占める細胞質には、「『液体の混合物』が含まれており、さまざまな化学的性質を持つ液滴が浮遊している」と予想した2。やがて1990年代には、相分離が疾患に関係しているのではないか、あるいは、相分離は細胞内の組織化の一般的原理なのではないかとする考え方が登場してきた。

しかし、こうした理論は異端視されたままだった。生物学者の中には、例えばX線結晶構造解析のためにタンパク質を調整しているときなど、特定の人工環境下で相分離を観察した者もいたが、この現象に強く興味を持ったり、膜で仕切られない細胞内区画の形成にこの現象がどう関係しているかを考察したりした研究者はほとんどいなかった。

そのため、線虫のP顆粒に関するHymanとBrangwynneの報告は驚きを持って迎えられ、当初の反応もさまざまだった。線虫研究者の反応は、全くのでたらめだとする意見から、P顆粒の本質をついに記述したという捉え方まで幅広く、また線虫研究に関わっていない大半の科学者は、この報告を基本的に無視した。

しかし、やがてすぐに、細胞内で相分離が実際に起こっているという確かな証拠が見つかった。2011年、HymanとMitchisonとBrangwynneは、核小体も小滴様の挙動を示すことを明らかにしたのだ3(この年、Brangwynneは米国ニュージャージー州のプリンストン大学に自身の研究室を構えた)。核小体は細胞核内にあって、遺伝物質とタンパク質が集合した高密度領域である。その1年後、テキサス大学サウスウェスタン医療センター(米国ダラス)の構造生物学者Michael Rosenのチームと、同じ医療センターの生化学者Steven McKnightのチームがそれぞれ独立に、試験管内でタンパク質とRNA分子の集合体を調べ、これらの分子が互いに弱く引きつけ合って小滴やゼリー状の液滴を形成することを見つけた4,5

この2012年の研究2件は、それ以前のBrangwynneとHymanの研究とは異なり、かなり単純な生化学レシピを用いて試験管中で相分離を再現できることを示したものだ。こうして実験研究がたやすくできるようになったことで、「相分離の研究は爆発的に拡大していった」のだとRosenは話す。

2015年に入って間もなく、「相分離ブーム」に火がついた。トロント小児病院(カナダ・バンクーバー)の構造生物学者Julie Forman-Kayのチームが、精子の機能に重要なタンパク質がヒト細胞内で小滴を形成することを示したのだ6。この年が終わるまでに、5件以上の研究チームがそれぞれ得意とする種類のタンパク質を使い、相分離が起こることを報告した。その1つに、当時Brangwynneの研究室の博士研究員であったElbaum-Garfinkleの論文7もある。

これらの論文で取り上げられたタンパク質のいくつかは、疾患発症に関係するものだった。研究者らが目星を付けたのは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)という運動ニューロン疾患だ。ALSは、動作を制御する神経細胞にタンパク質の凝集塊が見られる神経変性疾患である。研究から、凝集塊の形成過程は、これらのタンパク質が他の分子と合わさり、周囲の細胞質から分かれて小滴を形成するところから始まることが分かった8,9。これらの液滴は徐々に粘着性を増し、最終的には岩のように固くなる。「ちょうど、室温下のハチミツを冷蔵庫に入れると固くなるような感じです」と、聖ジュード小児研究病院(米国テネシー州メンフィス)の分子神経遺伝学者Paul Taylorは説明する。彼は、ALSに関連する4種類のタンパク質で相分離が見られることを示した。

これらの論文は、液体から固体へ転換する異常な相分離が疾患を引き起こす可能性があることを明確に示した最初の証拠の一端だったと、ペンシルベニア大学(米国フィラデルフィア)のタンパク質生化学者Jim Shorterは話す。この過程は細胞内の区画化に必要なのだろうが、やり過ぎると、「より安定で固くて元に戻りにくい構造を形成し、厄介な状況に陥るリスクが出てくるのだろう」とShorter。

相分離の異常

誤った相分離に起因しそうな疾患は、他にも数種類ある。2018年2月、マサチューセッツ総合病院(MGH;米国チャールストン)の分子生物物理学者Susanne Wegmannのチームは、タウと呼ばれるタンパク質の相分離を報告した10。このタンパク質は、アルツハイマー病患者の脳内で凝集して繊維状の塊を形成している。「相分離は、タンパク質凝集の最初の引き金なのかもしれません。この知見は、こうしたさまざまな神経変性疾患の関連性を探るための出発点になります」とWegmannは言う。

一部のがんも、相分離過程の異常によって誘発される可能性がある。2017年、マサチューセッツ総合病院の分子病理学者Miguel Riveraのチームは、ユーイング肉腫に関係するとみられるタンパク質を特定した11。このタンパク質は、腫瘍形成と関連付けられているゲノム領域の近くに集まると、がん原因遺伝子を活性化させる。相分離の異常によって、このタンパク質はそうしたゲノム領域に集積できるようになる。また、2018年2月に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された生物物理学会の年次総会で、聖ジュード小児研究病院の構造生物学者Tanja Mittagは、通常であればがん誘発分子を小滴内に隔離して破壊するタンパク質が、変異すると小滴を形成できなくなるために、がんを引き起こしてしまうという仕組みを概説した。またHymanも、がんや神経変性症と相分離との関連性を示唆するさまざまな報告を基に、2016年にMPI-CBGの生化学者Simon Albertiと共に、細胞が相分離の制御を失い始めたときに事実上全ての加齢関連疾患が開始するのではないかと提案している12

ただし、相分離は細胞にダメージを与えるだけでなく、適応の助けにもなる。HymanとAlbertiは2018年に、酵母細胞が低pHのストレス状態下にある場合に、それに対応するため、細胞に必須なタンパク質の1つを使って、小滴を形成して細胞を守る仕組みを発達させてきたことを明らかにした13。この半固体の液滴は、pHが上昇して正常な細胞機能を復旧できるようになると消散する。この知見は、シカゴ大学(米国イリノイ州)の分子進化生物学者Allan Drummondによる以前の報告と符合する。その報告とは、これとは異なる酵母タンパク質が、高温下での生存戦略として半固体の液滴を形成するというものだ14。従って相分離は、「細胞がストレスの感知と応答の両方に用いる一般的機構なのかもしれない」とDrummondは話す。

ヒト細胞に関していえば、小滴の形成は単に細胞内組織化のための戦略にとどまらないようである。2017年にカリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)の生化学者Geeta Narlikarのチームは、永続的に不活性状態にあって主に構造的機能を担うヒトゲノム領域を格納するために、相分離が役立っていることを報告した15。また、香港科技大学(中国・クリアウォーターベイ)の構造生物学者Mingjie Zhangのチームは、脳細胞がシグナルを受け取るのを助ける細胞装置の一部が、相分離を利用して組み立てられることを見いだした16

光を当てる

近年のこうした研究から、細胞内の液滴の機能について手掛かりが少しずつ得られ始めている。ただし、相分離を示す成分もあれば示さない成分もあり、その理由がまだうまく説明できない現状を、Hymanをはじめとする研究者は歯がゆく思っている。「相分離を引き起こす『分子の文法』を明らかにしなければなりません」と彼は話す。それには、生きた細胞でこの過程を調べ、制御し、操作してこちらの意思に従わせる手段が必要となる。つまり「ツールが必要」なのだと、Brangwynneは言う。

プリンストン大学の博士課程学生でBrangwynneの研究室に所属するLian Zhuは、窓がなく暗い部屋で顕微鏡をのぞいていた。彼女のコンピューター・ディスプレーには、赤い液滴が斑点状に散在するヒト細胞が明るく映し出されている。それぞれの斑点は、相分離を起こして核小体を形成したタンパク質凝集体である。彼女が細胞の1点に青色レーザーを当てると数秒で、黒く映し出された空間から新しい液滴が生じてきた。この細胞の核小体由来タンパク質には、ある植物タンパク質が融合されていて、蛍光標識が施してある。この植物タンパクは青色光が当たるとくっつきだし、集合が特定の閾値を超えると、相分離が起こり始める仕組みだ。赤い斑点は、ディスプレー上のあちこちに現れては移動し、やがて他の斑点と合体し始める。「手品のようです」とZhu。

Brangwynneのチームが2016年に発表した「optoDroplet」というツール17は、このように、照射する光の量を変えて、生きた細胞内のさまざまな液状区画を固くしたり緩めたりすることで、小滴を出現させたり消失させたりできる。ZhuはoptoDropletを使って、核小体の小滴が形成される条件を調べ、相分離が核の一部で起こるが別の部分では起こらない仕組みを明らかにした。Brangwynneは、「この技術で、相分離について実際に、非生物材料における標準的なレベルまで詳しく調べることができます。そうしたレベルで、実際に何が起きているかを定量的に解明できるのです」と話す。そうなれば、基礎生物学研究を大きく進展させることになるだろう。また、細胞内での小滴の発生や破壊にどの程度の操作が必要かを明らかにできれば、薬剤の開発にも役立つかもしれない。

相分離を標的にして病態を緩和するというアイデアを実現しようと、すでにいくつか企業が作られている。例えば、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の細胞生物学者Ron Valeが2018年の初めに設立した新興企業は、運動ニューロン疾患やハンチントン病などの神経変性疾患に関連するRNA小滴を破壊する薬剤を探すという名目で、開業資金を手に入れた。一方Taylorは現在、未発表のツール「Optogranule」を使って薬剤標的を見つけ出す会社を興そうと、投資家と話し合っている。Optogranuleは、細胞内の相分離と関連する病的状態を再現できるツールだ。これを使えば、数時間のうちに、ペトリ皿で起こる神経変性過程を観察できる。

他にも、薬剤標的を定めずに病態緩和を目指すチームもある。例えばMPI-CBGではHymanとAlbertiが、タンパク質凝集体を緩くする化学物質を探して、小規模な承認薬化合物ライブラリーのスクリーニングを行っていて、すでに約50種の候補物質を特定している。

小滴やジェル状の液滴ができる仕組みを支配する原理や、それらを制御する方法を突き止めるには、技術の進歩が必要だろうとBrangwynneは話す。「相分離を研究するための技術を、もう一段引き上げる必要があるのです」。

(翻訳:船田晶子)

Elie Dolginは、米国マサチューセッツ州サマービル在住の科学ジャーナリスト。

参考文献

  1. Brangwynne, C. P. et al. Science 324, 1729–1732 (2009).
  2. Wilson, E. B. Science 10, 33–45 (1899).
  3. Brangwynne, C. P., Mitchison, T. J. & Hyman, A. A. Proc. Natl Acad. Sci. USA 108, 4334–4339 (2011).
  4. Li, P. et al. Nature 483, 336–340 (2012).
  5. Kato, M. et al. Cell 149, 753–767 (2012).
  6. Nott, T. J. et al. Mol. Cell. 57, 936–947 (2015).
  7. Elbaum-Garfinkle, S. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 112, 7189–7194 (2015).
  8. Patel, A. et al. Cell 162, 1066–1077 (2015).
  9. Molliex, A. et al. Cell 163, 123–133 (2015).
  10. Wegmann, S. et al. EMBO J. e98049 (2018).
  11. Boulay, G. et al. Cell 171, 163–178.e19 (2017).
  12. Alberti, S. & Hyman, A. A. Bioessays 38, 959–968 (2016).
  13. Franzmann, T. M. et al. Science 359, eaao5654 (2018).
  14. Riback, J. A. et al. Cell 168, 1028–1040.e19 (2017).
  15. Larson, A. G. et al. Nature 547, 236–240 (2017).
  16. Zeng, M. et al. Cell 166, 1163–1175.e12 (2016).
  17. Shin, Y. et al. Cell 168, 159–171.e14 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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