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協力を支えるのは単純な道徳律である

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180634

原文:Nature (2018-03-08) | doi: 10.1038/d41586-018-02621-x | Simple moral code supports cooperation

Charles Efferson & Ernst Fehr

協力の進化は、頻繁に議論されているテーマだ。人々の行動が互いの評判によって左右されるモデルを評価した研究から、協力の進化を促進するには単純な道徳的規則で事足りることが示された。

協力の進化は、協力する者同士が共有する「協力で得られる利益」によって左右されることが分かっている1。リスボン大学(ポルトガル)のFernando P. SantosらはNature 2018年3月8日号242ページ2、コンピューターによるモデリング解析を利用して協力の進化を調べ、協力を促進する特に強固な系の基盤となる道徳的判断にはどのような規則が必要かを明らかにした。

協力とは、助力を提供する個人にはコストがかかるが、それを上回る利益を社会全体にもたらす行動として定義される。例えば、Angelaがサンドイッチを持っていて、それが自分よりもEmmanuelにとって価値あるものだった場合、Angelaは自分のサンドイッチをEmmanuelにあげることで、社会全体の幸福度を高めることができる。Angelaがサンドイッチ好きであった場合、Angelaには犠牲を求めることになる。そうした状況で非協力的な人への助力を避けるため、援助の供与者(Angela)は、互恵性に照らして判断を下す。Angelaが以前にEmmanuelと関わったことがあり、Emmanuelが協力的な人だと知っていた場合、Angelaの互恵性は直接的である。一方、Emmanuelが協力的な人であることを他者から聞いていた場合、その互恵性は間接的である。間接互恵性は、人間社会に特に深く関わるメカニズムと考えられている3

援助者が被援助者に協力するかどうかを決定するために用いる規則を、「戦略」という。協力を支える互恵的戦略の進化は、個人が処理する情報量に極めて大きく依存する。Santosらは、間接互恵性による協力の進化を評価するモデルを開発した。このモデルの中で個人は、先行研究で用いられているよりも相対的に多くの情報を考慮することができる。

個人が考慮する情報量の多さは、少なくとも以下の2つの理由で重要だ。第一に、直接互恵性のモデルでは、情報量が多いほど多様な戦略を取れるようになり、それが逆説的に、協力を抑制し得ることが示されている4。間接互恵性でも同様のことが起こるのかは、明らかではない。第二に、間接互恵性では、個人が互いについての信頼できる情報を評価して、拡散することが必要となる。これは、処理される情報量が過剰でなければ、現実世界の状況を説明するメカニズムとして最も説得力がある。以上の2点を踏まえると、間接互恵性のモデルとして最も信頼性の高いものとは、単純かつ、多くの選択肢が存在する状況でも協力を支える、という条件を備えたものと考えられる。

Santosらは、今回のモデルにおいて、援助者(ドナー)・被援助者(レシピエント)・傍観者(バイスタンダー)という3人の個人からなる社会的相互作用を設定した。援助者は、被援助者に協力して被援助者の利益を生み出すために犠牲を払うかどうかを、戦略を用いて決める。傍観者はこれに立ち会い、「規範」と呼ばれる規則を用いて援助者を評価し、その評判を集団内の他者に伝える。この評判は、その後の社会的相互作用において、援助者が被援助者に転じたときに、協力の利益を受けるかどうかに影響を与える。

このような社会的相互作用のタイプの1つに、「1次系」と呼ばれるものがある。1次系では、援助者には協力か非協力の2通りの戦略がある。傍観者は、規範を用いて援助者の協力・非協力を考慮し、評判の良し悪しを決める。

しかし、このような単純な系でも、傍観者が用い得る規範は4通りある。①常に「良い評判」を与える、②常に「悪い評判」を与える、③援助者が協力した場合に「良い評判」を、協力しなかった場合に「悪い評判」を与える、④援助者が協力した場合に「悪い評判」を、協力しなかった場合に「良い評判」を与える、の4つだ。これらの規範は、複雑度が異なる。前の2つは、援助者の行動と評判は無関係なため、複雑度は低い。一方、後の2つは、援助者の行動に依存して評判が変化するため、複雑度は相対的に高い。

このことは、一般的なパターンを反映している。傍観者に一定の情報を与えると、複雑度のレベルは用い得る規範によって変わることがあるのだ。さらに、「最も複雑な規範」の複雑度は、利用可能な情報量に応じて上昇し、その複雑度の上昇幅も極めて大きい。「2次系」では、この相互作用に別の要素が加わる。援助者と傍観者が共に被援助者の評判を考慮する、というのがその1例だ。これにより、取り得る戦略は4通り、用い得る規範は16通りとなる。「3次系」では、さらに援助者の評判も加わり、取り得る戦略は16通り、用い得る規範は256通りとなる5

Santosらが今回用いた「4次系」では、過去に援助者または被援助者だったときの評判に関する情報をも考慮させる。過去も組み込むことで、援助者の評判は単一時点だけに依存しなくなる。この場合、実に、256通りの戦略と6万5536通りの規範という膨大な可能性が考えられる。

複雑度に十分な余裕を持たせた上で、Santosらはそれぞれの規範を個別に検討し、取り得る戦略を進化させた(各戦略が用いられる頻度は、場合によって経時的に変化する)。特定の規範の下でよく用いられる戦略は、生じる協力の量に影響を及ぼす。シミュレーションの結果、考え得る膨大な規範の中で、「stern-judging」と呼ばれる規範は、協力の進化を促進する可能性が高く、かつ複雑度が比較的低い規範として、際立って優れていることが明らかになった。

stern-judgingという規範は、良い被援助者に協力し、悪い被援助者に協力しない援助者には「良い評判」を与え、良い被援助者に協力せず、悪い被援助者に協力する援助者には「悪い評判」を与える、というものだ(図1)。これは、単純かつ高度に協力的な戦略の進化を支えるシンプルな2次規範であり、その上、高次の系で検証しても同様に機能する。考え得る規範の数は膨大だが、少なくともSantosらが調べた4次系までにおいては、これよりも複雑な規範が協力の進化を促進することはなかった。このことから、間接互恵性の促進には、情報の処理と拡散についても相応に単純に行えるような、比較的シンプルな規範で十分であると考えられる。

図1 stern-judgingのルール
Santosら2は、コンピューターモデリング方式を用いて、協力がどのように進化するのかを調べた。研究では、援助者が戦略を用いて被援助者への協力・非協力を選択するモデルが検討された。援助者の行動は、傍観者によって評価される。傍観者は、「規範」と呼ばれる規則によって援助者の行動を評価し、その評判を同じ社会に属する他のメンバーに伝える。Santosらはこの系を用い、協力の進化を促進する可能性に関して6万5536通り規範を調べた。その結果、複雑度の低さと協力の進化を促進する可能性の高さの両面で際立っていた規範が、stern-judgingだ。この図は、傍観者が援助者の行動の評価にstern-judging規範をどう用い、それによって援助者に与える評判をどう判断しているのかを示している。 | 拡大する

この知見は、今後に向けてさらなる問題を提起している。これほど多数の規範が考えられる中で、なぜstern-judgingが用いられるのだろうか。Santosらの系では、戦略は進化するが、規範は進化しない。しかし実際には、戦略と規範は共に進化する6。人々がどう行動し(戦略)、その行動をどう評価するか(規範)は、いずれも時間と共に変化し、この変化の過程に遺伝的要素と文化的要素の両方が関わっていることはほぼ間違いない7。文化的要素をも織り混ぜた戦略と規範の共進化を、4次系で調べるのはなかなか難しいが、実現すれば、人々が互恵性の規範を効果的に用いて協力を進化させるところを観察可能かどうかが分かるだろうし、それがいつ頃になるかについても理解を深めることができるだろう。

また、Santosらの研究では、任意のシミュレーション集団内の全ての傍観者が、同一の規範を用いている。しかし、実際の社会では多くの場合、社会的状況を評価する細かさのレベルは人によるだろう。この種のばらつきによって、傍観者がそれぞれ複雑度の異なる規範を用い、結果として評価の仕方に不一致が生じるかもしれない8。こうした不一致がある場合、それがどの程度になると、間接互恵性による協力が破綻するのだろうか。

最後に、人間社会では大規模な協力関係が生じるが9、これらの進化を巡る研究では、たびたび論争が巻き起こっている。それは、相互に整合性のあるメカニズムが、時として「完全な選択肢」として扱われるためかもしれない。おそらく、この問題を解決するのに必要な次のステップは、間接互恵性を含む複数のメカニズムを系統的に組み合わせ4、協力の進化を特に促進する特定のメカニズムの組み合わせがあるかどうかを調べることだろう。

(翻訳:小林盛方)

Charles Efferson & Ernst Fehrは、Charles Effersonはロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校(英国)、Ernst Fehrはチューリヒ大学(スイス)に所属。

参考文献

  1. Henrich, J. J. Econ. Behav. Org. 53, 3–35 (2004).
  2. Santos, F. P., Santos, F. C. & Pacheco, J. M. Nature 555, 242–245 (2018).
  3. Alexander, R. D. The Biology of Moral Systems (Routledge, 1987).
  4. van Veelen, M., García, J., Rand, D. G. & Nowak, M. A. Proc. Natl Acad. Sci. USA 109, 9929–9934 (2012).
  5. Ohtsuki, H. & Iwasa, Y. J. Theor. Biol. 239, 435–444 (2006).
  6. Pacheco, J. M., Santos, F. C. & Chalub, F. A. C. C. PLoS Comput. Biol. 2, e178 (2006).
  7. Richerson, P. J. & Boyd, R. Not by Genes Alone: How Culture Transformed Human Evolution (Univ. Chicago Press, 2005).
  8. Uchida, S. & Sigmund, K. J. Theor. Biol. 263, 13–19 (2010).
  9. Richerson, P. et al. Behav. Brain Sci. 39, e30 (2016).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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