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グラフェンをずらして重ねると超伝導体に!

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180607

原文:Nature (2018-03-08) | doi: 10.1038/d41586-018-02773-w | Surprise graphene discovery could unlock secrets of superconductivity

Elizabeth Gibney

2枚のグラフェンシートを、「魔法角」と呼ばれる特定の角度だけ回転させて積層すると、抵抗なく電子が移動するようになることが明らかになった。

炭素原子1個分の厚さの二次元材料であるグラフェンは、2枚のシートを特定の角度だけずらして重ねると超伝導を発現することが明らかになった。 | 拡大する

Laguna Design/Getty

大抵の超伝導体は、絶対零度に近い温度でのみ超伝導を発現する。近年次々と報告されている「高温」超伝導体でも、抵抗なく電気を通すようになる温度(転移温度)は、大気圧の場合は最高でも約133K(-140℃)だ。そのため、室温で超伝導を示す材料が発見されれば、コストのかかる冷却が不要になり、エネルギー伝送や医療用スキャナー、輸送などの分野に革命をもたらす可能性がある。マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の物理学者Pablo Jarillo-Herreroらは今回、原子1個分の厚さの二次元材料であるグラフェンシート2枚を、互いの結晶格子の方向が約1.1度という「魔法の」角度だけずれるように重ねて配置すると、超伝導が現れることを明らかにした。さらには、この二層グラフェンの電気的特性に関する実験的な検証も行い、それらの結果をNature 2018年4月5日号43ページ80ページで報告した1,2。Jarillo-Herreroらの「魔法角グラフェン超格子」も、超伝導転移温度は1.7K(-271.45℃)と極低温だが、既知の高温超伝導体に似た超伝導の特徴がいくつも観測されたことで、物理学者たちを沸かせている。

「さらなる裏付けが得られれば、今回の成果は、高温超伝導の理解において極めて重要なものとなるでしょう」と語るのは、マドリード材料科学研究所(スペイン)の物理学者Elena Basconesだ。

超伝導体には、大きく分けて2つのタイプがある。超伝導の機構が、格子振動を介した電子対の形成という主流の超伝導理論で説明できる「従来型超伝導体」と、この理論では説明できない「非従来型超伝導体」だ。今回の研究では、グラフェンの超伝導挙動が非従来型で、代表的な非従来型超伝導体である銅酸化物超伝導体の挙動と似ていることが示唆された。銅酸化物超伝導体は、転移温度が最高で133Kと極めて高いことから、さらに高温での超伝導の発現を求めて30年間にわたり研究されてきた。しかしこの系は非常に複雑で、その根底にある機構はまだ解明されていない。

一方、グラフェンは比較的単純な材料であるため理解が進んでいて、すでにいくつもの興味深い特性が知られている。鋼鉄よりも機械的強度が高く、銅よりも電気伝導率が優れている他、2枚のグラフェンシート間にカルシウム原子を挿入すると超伝導を発現するようにもなる3。ただし、こうして現れる超伝導挙動は、従来型の超伝導で説明できるものだった。

実は、Jarillo-Herreroのチームは今回、超伝導を探索するつもりで実験を計画したのではなかったという。彼らは、「魔法角」と呼ばれる特殊なねじれ角での積層が、グラフェンにどのような影響を及ぼし得るかを調べようとしていた。魔法角とは、2枚のグラフェンシートをその角度だけ回転させて重ねるとシート間の結合が強まって特殊な電子特性が現れる、と理論的に予測されている角度である。しかし、そうした特殊な電子特性が具体的にどのようなものであるかは分かっていなかった。

実験を始めたチームはすぐに、この系が意外な挙動を示すことに気付いた。魔法角で重ねた二層グラフェンはモット絶縁体に似た絶縁体状態にあることが、測定結果から示唆されたのである2。モット絶縁体とは、電子間の強い相互作用によって電子が身動きできなくなる絶縁体のことをいう。次に、この状態のグラフェンに静電場を印加してわずかに電荷キャリアを注入したところ、この系が超伝導体となることが見いだされた1。絶縁状態の近傍に超伝導が存在するのは、銅酸化物などの非従来型超伝導体の特徴だとされている。

「グラフェンが銅酸化物と同じ挙動を示すということは、銅酸化物の超伝導もそもそも単純なものである可能性があります。これは大きな驚きです」とスタンフォード大学(米国カリフォルニア州)の物理学者Robert Laughlinは言う。

グラフェンの転移温度は極めて低いものの、同じ転移温度を持つ従来型超伝導体と比べると、わずか1万分の1のキャリア密度で超伝導を発現する。従来型超伝導体では、超伝導理論にもあるように、格子振動によって電子が対を形成して安定化することで、電子は抵抗なく移動できる。つまり、利用できる電子が非常に少ないグラフェンでこうした対が形成されるという事実は、この系で働く相互作用が従来型超伝導体のものよりもはるかに強いことを示唆している。

グラフェンに基づくデバイスは銅酸化物系よりも研究しやすいため、超伝導研究の有用なプラットフォームとなるだろうと、Basconesは予想する。例えば、銅酸化物を「調整」しながらさまざまな挙動を調べるには、異なる種類の銅酸化物試料を大量に成長させて研究する必要があるが、グラフェンを使えば、単に印加する電場を微調整することで同じ結果を得ることができる。

とはいえ、まだ、グラフェンと銅酸化物の超伝導機構が全く同じであると断定されたわけではない。銅酸化物超伝導体に見られる全ての挙動がグラフェンでも起きているかどうかは、まだ明らかになっていないとLaughlinは指摘する。「ですが、今回の一連の実験では、銅酸化物の超伝導挙動の多くがグラフェンでも存在することが示されています。慎重を期するべきですが、十分称賛に値します」。

(翻訳:藤野正美)

参考文献

  1. Cao, Y. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature26160 (2018).
  2. Cao, Y. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature26154 (2018).
  3. Ichinokura, S., Sugawara, K., Takayama, A., Takahashi, T. & Hasegawa, S. ACS Nano 10, 2761–2765 (2016).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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