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超巨大家系図が解き明かす寿命を左右する要因

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180506

原文:Nature (2018-03-01) | doi: 10.1038/d41586-018-02596-9 | Colossal family tree reveals environment’s influence on lifespan

Erika Check Hayden

このほど、家系図作成用ソーシャルメディアの膨大なデータを基に、1300万人からなる超巨大な家系図が作成された。

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Nathan Benn/Corbis via Getty Images

コロンビア大学(米国ニューヨーク)の計算生物学者Yaniv Erlichらは、家系図作成を目的としたソーシャルネットワークサービスに登録された膨大なデータを用いて、大規模な家系図を作成し、2018年3月1日にScienceに報告した1。中でも最大のものは、単一の家系図に1300万人が含まれ、共通祖先から子孫まで平均して11世代にわたっており、これまでに検証された家系図情報としては最大規模と考えられる。

Erlichの研究チームは、家系図に含まれる人々の出生日と死亡日を正確に調べ、近縁度と死亡時の年齢との間に相関性があるかどうかを計算した。その結果、遺伝要因では人々の寿命の差異を約16%しか説明できない、と結論付けた。寿命の差異の大部分は、居住地や生活様式など、他の要因に左右されていたのだ。

メリーランド大学医学系大学院(米国メリーランド州ボルティモア)の遺伝疫学者Braxton Mitchellは、「今回の研究はまさに『大作』」だと語る。「公的に利用可能な大規模データセットを活用して興味深い研究を行った、素晴らしい例です」。

長寿と繁栄を

研究者たちは以前から、人の寿命に大きな影響を及ぼすのは、遺伝子よりも環境ではないかと考えていた。2001年にMitchellらが発表した論文2をはじめ、過去の複数の研究では、人々の寿命の多様性のうち遺伝子によって生じるものは約4分の1と見積もられていた。

Erlichらは今回、遺伝子の役割はこうした予想よりさらに小さいと推測している。「この論文は、非常に大規模な家系図、つまり系譜学の検出力を証明しています。この種の情報源は、将来、遺伝学研究の一端を強力に推し進めていくでしょう」と、ユタ大学医学系大学院(米国ユタ州ソルトレークシティ)の遺伝学者Lisa Cannon-Albrightは話す。

Erlichによれば、「良い」遺伝子は寿命を平均5年延長する可能性があるという。しかし、一部の環境要因が寿命に与える影響はそれよりもはるかに大きく、例えば喫煙は、寿命を10年単位で短縮し得る。

遺伝学者は長年にわたり、家系図を用いて、遺伝要因が疾患リスクなどの多くの形質に影響を及ぼす仕組みを研究してきた。しかし、膨大な人数からなる家系の記録をデータベースに取りまとめるのは困難で、費用もかかるだろう。Erlichらのように、デジタル記録から非常に大規模な家系図を作成する研究は他にも多数進行しており3, 4、このような研究から、がんやアルツハイマー病5などの病気に関連する遺伝子も見つかっている。

データの洪水

Erlichらの研究は、オンライン家系図作成ツール「Geni.com」のデータを用いている。彼はGeniの親会社MyHeritage(イスラエル・オルイェフダ)の研究部門の責任者なのだ。解析には、Geniユーザーがアップロードした約8600万人分の登録データが利用された。これは、最大規模の消費者向け遺伝子検査サービスのデータベース登録者数より1桁多い。

「この参加者数はすごいですね! クラウドソーシングでなければ、このようなデータセットは得られないでしょう。本当に素晴らしいと思います」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)の計算ゲノミクス研究者Atul Butteは驚きを語る。

Erlichらは、Geniの登録データを用いて、人々の転居や結婚のパターンも解析している。例えば、このデータベースに含まれる欧米人の大部分は、1750年以前には、出生地からせいぜい10 km以内に住む人と結婚していた。だが、1950年になる頃には、配偶者を求めて、故郷の町から少なくとも100 kmは旅しなければならなかったようだ。

あなたは、両親の誕生日を毎年忘れずに祝っているだろうか。あなたの両親は、今の家族を始めるために、おそらく祖先の誰よりも遠くまで旅したのだろうから、両親の誕生日ぐらいは忘れないでいてほしい。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Kaplanis, J. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.aam9309 (2018).
  2. Mitchell, B. D. et al. Am. J. Med. Genet. 102, 346–352 (2001).
  3. Polubriaginof, F. et al. Preprint on bioRxiv at http://dx.doi.org/10.1101/066068 (2016).
  4. Cannon-Albright, L. A. et al. Genet. Med. 15, 541–547 (2013).
  5. Ridge, P. G. et al. Genome Med. 9, 100 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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