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米国の科学関連省庁に思いがけず潤沢な予算

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180511

原文:Nature (2018-03-29) | doi: 10.1038/d41586-018-03700-9 | US science agencies set to win big in budget deal

Lauren Morello & Giorgia Guglielmi

米国の2018年度歳出法が成立した。科学関連省庁の予算を大幅削減したトランプ大統領の予算教書は却下され、研究開発予算は歴史的に高い水準となった。

広視野赤外線サーベイ望遠鏡(WFIRST)のイメージ画像。 | 拡大する

NASA's Goddard Space Flight Center/Conceptual Image Lab​

2018年3月23日、米連邦議会は2018会計年度(2017年10月~2018年9月)の1.3兆ドル(約140兆円)の予算配分を定めた歳出法案を可決し、ほぼ全ての科学関連省庁で予算が増額されることが決まった。議会はドナルド・トランプ大統領がもくろんだ大幅な予算カットを却下した。

歳出法の成立により、国立衛生研究所(NIH)の予算は前年度の水準より30億ドル多い370億ドル(約3.9兆円)に増額された。国立科学財団(NSF)の予算は前年度より2億9500万ドル多い78億ドル(約8200億円)となり、NASAの予算は11億ドル多い207億ドル(約2.2兆円)となる。

全体の増額傾向から外れているのは環境保護庁(EPA)の予算で、前年度と同じ81億ドル(約8500億円)とされている。けれどもこれも、ある意味、勝利と言えるかもしれない。トランプ大統領は、EPAの予算を前年度より30%以上削減し、57億ドル(約6000億円)にすることを提案していたからだ。

米国生化学・分子生物学会(メリーランド州ロックビル)の広報責任者Benjamin Corbは、「うまい予算折衝のおかげで、非常にうれしい数字になりました」と言う(「思いがけない予算増額」参照)。米国科学振興協会(AAAS;ワシントンD.C.)の分析によると、今回の歳出法の成立により米国の2018年度の研究開発への財政支出は歴史的に高い水準となる。

思いがけない予算増額
トランプ大統領は 2018年度予算教書で科学関連省庁の予算の大幅な削減を提案したが、連邦議会の予算配分はこれを無視するものになった。 | 拡大する

SOURCE: AAAS

NIHの代表的なプログラムの予算も増額された。BRAINイニシアチブの予算は、前年度より1億4000万ドル多い4億ドル(約420億円)に増額される。そして、100万人の米国人の健康状態を10年にわたって追跡するAll of Us研究プログラム(かつてのプレシジョン・メディシン・イニシアチブ)の予算は、前年度より6000万ドル多い2億9000万ドル(約300億円)となる。

銃関連研究を巡る議論

疾病管理予防センター(CDC)の予算も、前年度の水準より11億ドル多い83億ドル(約8700億円)に増額された。CDCは以前からディッキー修正条項(Dickey Amendment)により銃規制を擁護または奨励することを禁じられている。この条項は広い解釈がなされ、CDCが銃関連の研究に資金を提供したり自ら研究を行ったりすることを禁じると考えられてきた。今回、ディッキー修正条項を撤廃するべきかどうか連邦議会議員が議論したと報道されているが、歳出法案の同条項は撤廃されず、CDCや他の省庁が銃規制を擁護または奨励する活動への資金提供を禁じる文言が含まれている。ただし、同法に添えられる公式な報告書には「保健福祉長官は、CDCには銃による暴力の原因についての研究を行う権利があると明言した」と記された。

ハーバード大学(マサチューセッツ州ボストン)のハーバード損傷予防研究センターのディレクターである経済学者のDavid Hemenwayは、「これは何の役にも立ちません。ディッキー修正条項は、CDCが連邦政府の資金を銃関連研究に提供することを禁じていないと、誰でも知っているからです」と言う。同時にCDCの職員は、銃関連の研究に資金を提供すれば「自分たちがひどい目に遭う」ことも知っているのだ。

NASAの全予算207億ドル(約2.2兆円)のうち科学研究予算は62億ドル(約6500億円)で、前年度の水準より4億5700万ドル(約480億円)増額された。木星の衛星エウロパの探査に関しては、トランプ大統領の予算教書ではエウロパへの接近通過プロジェクトに4億2500万ドル(約450億円)が割り当てられていたが、歳出法ではエウロパに周回機と着陸機を送り込むプロジェクトに5億9500万ドル(約620億円)が与えられることになった。宇宙から大気中の二酸化炭素濃度を測定する軌道上炭素観測衛星OCO-3など、トランプ大統領が削減しようとした4つの地球科学プログラムにも予算が計上された。

太陽系外惑星や暗黒物質(ダークマター)を探す広視野赤外線サーベイ望遠鏡(WFIRST)は、米国で2010年に実施された「今後10年間で優先的に行うべき科学研究に関する調査」で、天文学者たちが最優先事項に選んだプロジェクトである。トランプ大統領はこのプロジェクトを廃止しようとしていたが、議会によって阻止された。

トランプ大統領はエネルギー省(DOE)科学局の予算を45億ドル(約4700億円)弱まで削減しようとしていたが、成立した予算は2017年度の水準より8億6800万ドル多い62億ドル(約6500億円)となった。大統領はまた、大きな成果が期待できるがリスクも大きい研究を助成するエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)の予算を2000万ドル(約21億円)に削減することも提案していたが、連邦議会はこれも拒否し、歳出法で3億5300万ドル(約370億円)の予算を与えた。

このように、2018年度予算は科学関連省庁に思いがけない潤沢な予算を与えるものとなったが、ニューヨーク市立大学シティ・カレッジの物理学者Michael Lubellは、「来年も同じように大幅な増額があると期待してはいけません」と言う。今回、科学関連省庁の予算が大幅に増額されたのは、連邦議会が2月に2018年度と2019年度の義務的経費を抑制したからだ。これにより今年度の予算は全体で630億ドル(約6.6兆円)増えたが、2019年度の増額は680億ドル(約7.1兆円)で、微増にとどまる見込みだ。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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