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再生能力の秘密を長文で読み解く

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180531

原文:Nature (2018-02-01) | doi: 10.1038/d41586-017-09008-4 | Regeneration writ large

G. Parker Flowers & Craig M. Crews

扁形動物プラナリアと、メキシコサンショウウオのゲノム塩基配列が解読、再構成された。これらの情報から、これらの2種の生物の驚くべき再生特性に関する知見が得られるだろう。

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IMP VIENNA

損傷後に体を再生する能力はヒトでは限られているが、並外れた再生能を有する動物も存在する。プラナリアと呼ばれる小さな扁形動物の場合は、数百片にまで細切れにされても体全体を再生することができる。また、サンショウウオの多くの種も、四肢全体の再生が可能だ。数世紀にわたって、研究者たちはこれらの動物の再生能力を解明しようと試みてきた。その説明書はDNAに書き込まれている。Nature 2月1日号では、マックス・プランク分子細胞生物学・遺伝学研究所(ドイツ・ドレスデン)のMarkus Alexander Grohmeら1はプラナリアの一種Schmidtea mediterraneaのゲノムについて(56ページ)、同研究所および分子病理学研究所ウィーンバイオセンター(オーストリア)、ドレスデン工科大学(ドイツ)に所属するSergej Nowoshilowら2はメキシコサンショウウオの一種(Ambystoma mexicanum、別名アホロートル)のゲノムについて(50ページ)、それぞれ報告している。これらの研究は、再生に関する理解を深めていく上で重要な一歩となるだろう。

プラナリアS. mediterraneaには染色体が4対あり、そのゲノムは約8億塩基からなる。ヒトゲノムに比べるとずいぶん小さいが、この動物種について利用できるゲノムアセンブリーの質はこれまで、より大きなゲノムを持つマウスやニワトリ、ゼブラフィッシュなどの他のモデル生物と比べると低かった。というのも、プラナリアゲノムの大規模アセンブリーには障害が立ちはだかっていたからだ。

読まれた個々の配列(リード配列)の長さが500塩基以下で、それらがごちゃまぜのライブラリーから、数億あるいは数十億塩基対からなるゲノムを再構成することを想像してみてほしい。この問題に、従来型や次世代型の塩基配列解読手法を使う研究者のどちらもが直面してきた。理論上では、個々の配列が十分に重複しているならば、計算アルゴリズムを用いてそれらをつなぎ合わせ、ゲノムを再構築することができる。しかし、S. mediterraneaのゲノムは、レトロポゾンなどのウイルス様の配列をはじめとして、反復配列を多く含んでいる。これらの配列はプラナリアの進化の歴史を通じて、繰り返し組み込まれ、複製されてきたものだ。短いリード(ショートリード)配列の試料では、このような反復配列を見分けることが難しい(図1)。そのような理由から、ショートリード配列に基づいて作製された以前のゲノムアセンブリー3,4は、10万以上の異なるDNA断片に分かれたままだった。

図1 反復配列が多いゲノムの組み立て
プラナリアSchmidtea mediterraneaやアホロートルAmbystoma mexicanumのゲノムは、多くの反復配列領域(長いものが多い)を含んでおり、それらはタンパク質をコードする領域などの、より短い固有の配列により隔てられている。
a 以前、これらのゲノムはショートリード塩基配列法で解読されたが、この方法では、反復領域しか含まない多くのDNA配列が作られることが多く、ゲノム中の相対的な位置を特定することが難しかった。
b 今回の2つのグループ1,2が用いた方法では、10キロ(1万)塩基以上のロングリード配列を読むことができ、反復配列と固有の配列の両方が含まれる場合が多い。それによってプラナリアやアホロートルのゲノムアセンブリー作製が可能になった。 | 拡大する

そこでGrohmeらは、ロングリード(リード長の長い)の1分子リアルタイム(SMRT)塩基配列解読プラットフォームを用い、S. mediterraneaのゲノムを解読した。この手法で、平均長が約1万5000塩基以上のリードが得られた。これらの断片の大部分は、以前のアセンブリー3,4よりも長い。Grohmeらは次に、MARVELという計算アルゴリズムを用いてこれらの配列をまとめた。このアルゴリズムは、GrohmeらとNowoshilowらの研究チームが、反復配列の多いゲノムから得られたロングリード配列の組み立てを改善するために特別に開発したものだ。この手法は、反復配列により生じたアセンブリーのギャップの大半を埋め、平均長100万塩基以上の断片によるゲノムアセンブリーを生成した。そしてその後、より大きな約400万塩基対のスキャフォールドへ並べた。研究チームはこうして原理証明を行った後、同様の手法を使って、より大きく複雑なアホロートルゲノムの解読に取り掛かった。

Nowoshilowらはまず、SMRT塩基配列解読とMARVELを用い、320億塩基対(ヒトゲノムサイズの10倍)のアホロートルゲノムを組み立てた。アホロートルゲノムの約3分の2は反復エレメントからなり、それらの多くは1万塩基対よりも長かった。Nowoshilowらは次に、リード配列を中央値の長さが21万8000塩基の断片に組み立て、平均して約300万塩基対のスキャフォールドへまとめた。これらのスキャフォールド配列の長さと質は非常に優れており、最も複雑なゲノムとされるものでも、この手法で組み立てられることが実証された。

Nowoshilowらのグループは、アホロートルにはタンパク質をコードする遺伝子が約2万3000個あると推定した。この数は、ヒトよりも少し多いが、Grohmeらのプラナリアのアセンブリーで見つかったものより少ない。アホロートルの遺伝子内や遺伝子間のノンコーディング配列は、ヒトや他の脊椎動物よりも圧倒的に長く、その主な原因は反復エレメントの拡張である。またNowoshilowらはアホロートルゲノムの中に、爬虫類、鳥類、哺乳類にはないマイクロRNA配列と遺伝子を見いだした。それらの発現は、再生中の四肢の細胞で非常に高まっていた。これらの候補遺伝子の中に、再生において重要な役割を果たしているものがあるかどうかは、今後の研究での興味深いテーマになるだろう。

次にNowoshilowらは、多くの動物の発生に必須の遺伝子であるPax3が、アホロートルには存在しない証拠を示した。Pax3が失われた理由は、関連遺伝子のPax7Pax3の機能を補償しているためではないかと推測された。実際、遺伝子編集技術によりPax7を不活性化してみると、その変異体では、Pax3Pax7を両方欠失したマウスと同様の発生異常や筋肉の消失が見られた。

カロリンスカ研究所(スウェーデン・ストックホルム)のAhmed Elewaらが2017年12月にNature Communicationsに報告した論文5では、このPax7の補償作用はどうやら、再生を行う有尾両生類の一部にしかないことが示されている。Elewaらのゲノム解析の結果によれば、並外れた再生能を有する有尾両生類イベリアトゲイモリ(Pleurodeles waltl)は、Pax3Pax7のどちらも保持していた。変異解析の結果から、このイモリでは正常な筋肉の発生や再生にPax7は必要ではないが、Pax3は必須であることが分かった。今回報告された方法により、発生や再生における遺伝子の役割を種を超えて調べたり比較したりできるようになった。再生研究のモデル動物を用いた研究は、新たな時代を迎えたのである。

GrohmeらがS. mediterraneaや他のプラナリア種のゲノムを調べたところ、ヒトやマウスでは必須の124個の遺伝子が見つからなかった。その中には、DNA修復に関わる遺伝子や、細胞分裂中の染色体分配のエラーからの保護に必須の役割を担う遺伝子も含まれる。脊椎動物の生存に必須と考えられている構成因子なしに、これらの生物がどのように生きているかは、興味深い問題である。

新たなゲノム編集ツールによって、遺伝子操作は一気に容易になった。こうした技術と、今回開発された新たなゲノムアセンブリーを組み合わせることで、再生研究のモデル動物において、以前には想像もできなかった実験が可能になった。例えば、プラナリアやサンショウウオのゲノムアセンブリーで障害となっていたDNAの反復配列を考えてみよう。どちらの種でも、これらの反復の主な原因はレトロトランスポゾンだ。以前の研究6,7から、レトロトランスポゾンは、胚発生と幹細胞の挙動を形作る重要な生物学的過程に関与することが示唆されている。Elewaらは、レトロトランスポゾンが、イベリアトゲイモリの再生中の四肢で発現しており、遺伝子発現を調節している可能性があることを明らかにした。これらのエレメントは、さまざまな種で再生を導入するために取り込まれてきたのだろうか。そうであるならば、どのようにしてそれが起こったのだろうか。これらの疑問は、今回の研究でアプローチが可能になった、エキサイティングな課題の1つだ。

(翻訳:山崎泰豊)

G. Parker Flowers & Craig M. Crewsは、エール大学(米国コネティカット州ニューヘイブン)に所属。

参考文献

  1. Grohme, M.A. et al. Nature 554, 56–61 (2018).
  2. Nowoshilow, S. et al. Nature 554, 50–55 (2018).
  3. Robb, S.M.C., Gotting, K., Ross, E. & Sánchez Alvarado, A. Genesis 53, 535–546 (2015).
  4. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/assembly/GCA_000691995.1#/st
  5. Elewa, A. et al. Nature Commun. 8, 2286 (2017).
  6. Fort, A. et al. Nature Genet. 46, 558–566 (2014).
  7. Magiorkinis, G., Katzourakis, A. & Lagiou, P. Trends Microbiol. 25, 876–877 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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