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TOOLBOX: 研究者の広報活動を支援するツール

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180428

原文:Nature (2016-08-01) | doi: 10.1038/536113a | ‘Kudos’ promises to help scientists promote their papers to new audiences

Jeffrey Perkel

Kudosは、研究者が論文をPRするのに役立つオンラインサービスを提供している。このサービスを利用することで、論文をより多くの人に読んでもらい、その影響力を大きくできる可能性がある。

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ILLUSTRATION BY THE PROJECT TWINS

Michele Tobiasの研究分野について聞いたことがある人はほとんどいない。その研究者となると、さらに少ない。彼女はカリフォルニア州立公園(米国サクラメント)の環境科学者だが、余暇を利用して、生物が風景に及ぼす影響を調べる生物地形学(biogeomorphology)の研究もしている。今は、カリフォルニア沿岸の砂丘の発達に植物が影響を及ぼす仕組みを調べている。「私が知る限り、この現象を研究している科学者は私しかいません」と彼女は言う。

「カリフォルニア沿岸の管理について何らかの決定をする立場にいる人は、私の研究を気に掛けるべきだ」と考えているTobiasは、彼女の論文に多くの人々の目が向くようにソーシャルメディアを活用しているうちに、メッセージを投稿するのが上手になった。「科学出版の分野では、私のような若手研究者は、積極的に情報を発信して読者を獲得する必要があります。論文を出版して、誰かが読んでくれるのを手をこまぬいて待っているのは嫌なのです」と彼女は言う。

ノースカロライナ州立大学(米国ローリー)の研究広報課長であるMatt Shipmanは、「『広報に熟練すること』は、研究者の仕事ではありません。だから各大学には広報課があるのです」と言うが、研究者自身が広報活動をすることも推奨する。あらゆる分野の科学者が、徐々に同じ結論に達している。彼らの需要から生まれたのが、科学者が自身の広報活動を管理するための無料オンラインツール「Kudos(キュードス)」(www.growkudos.com)だ。その目的は、研究者がソーシャルメディア上で共有する論文に、より多くの人目を引きつけ、その影響力を高めることと、研究者自身が広報活動の効果を評価するのを手助けすることにある。

TobiasはKudosのファンだ。他にもファンは多い。Kudosの共同設立者のCharlie Rappleによると、2014年5月にサービスの提供が始まって以来、2016年8月時点のユーザーは10万人を超え、毎月約4000人が新規に登録しているという(訳注:2017年12月末の登録者数は19万人を超えている)。スタッフのほとんどは、Rappleと同じく英国オックスフォード在住である。

幅広い読者を獲得する

「以前よりはるかに多くの研究があり、はるかに多くの論文が出版されている今日、従来の広報システムでは、あなたの論文に関心がある人にそれが届く保証はありません」とRappleは言う。「Kudosの目的は、研究を発見されやすくすることと、科学者の研究がもっと認められ、研究成果の影響力をさらに大きくすることにあります」。Kudosは、個々の研究論文に専用のプロフィールページを与えている。ユーザーはここに、論文の内容を平易な言葉で説明する要約、外部の資料、レビュー、プレゼンテーションなどの情報を追加することができる。Tobiasは、Kudosに載せたある論文の要約は、830人以上に読まれたと話す。また、YouTube動画へリンクを張った論文もあるという。彼女はコンテンポラリー・ダンスのチームに参加していて、砂丘の形成における植物の役割を表現する即興のダンスをチームで踊ったのだそうだ。「論文と関係があるので、Resourcesのセクションに動画へのリンクを張りました」。

同じくKudosのユーザーである米国立計算毒性学センター(ノースカロライナ州リサーチトライアングルパーク)のAntony Williamsは、このサイトが論文出版後の解説や関連記事へリンクするフォーラムを提供している点を気に入っている。ユーザーは個人のプロフィールページを作成して、そこにORCIDなどの研究プロフィールサービスのデータを自動的に追加するように設定することもできる。

Kudosの情報が見られる場所はKudosのサイトだけではない。Kudosが学術出版社などのサードパーティーに提供する「ウィジェット」を利用して、外部サイトの論文の横に小さなボックスを表示することができる。例えば、国際結晶学連合の構造生物学ジャーナルActa Crystallographica Section Dでは、論文要旨の下にKudosのプロフィールが表示される。

研究者による論文の宣伝を補助するため、Kudosはユーザーに追跡可能なURLを提供している。ユーザーは、このURLを電子メールやTwitter、Facebookなどのソーシャルメディア・プラットフォームを介して送ることができる。こうしたURLがクリックされた回数はKudosによって記録されていて、大学の広報課や資金提供機関だけでなく研究者自身も、投資に対して最良の収益を得たアウトプットがどれかを調べることができると、Rappleは説明する。Kudosは、トムソン・ロイター社(米国ニューヨーク)の論文被引用数に関するデータや、学術出版社の論文のダウンロード数の他、主流メディアやソーシャルメディアによる論文の引用を発見するAltmetric.comのデータも集めている。

コンサルティング会社ScholarNext(米国カリフォルニア州)のオーナーとして学術コミュニケーションや学術技術の問題に取り組むGreg Tananbaumは、Kudosが提供するサービスの一部は他のサイトにもあるが、Kudosはそれらを1つのサイトに統合している点でユニークだと指摘する。例えば、キャリア中・後期の学者はソーシャルメディアへの警戒心が強いことが多いが、Kudosを利用すれば、ソーシャルメディア・プラットフォームを利用した広報活動の効果を簡単に評価できるため、こうした層にとりわけ有効である。「ソーシャルメディアでの広報活動に参入しやすい仕組みを作った点で、今までにないサービスです」とTananbaum。

Kudosの維持費は、同サービスの顧客となっている学術研究機関や学会、出版社やその他の企業が負担するため、研究者はサイトを無料で利用できる。顧客機関にとってKudosは、所属研究者(出版社の場合は著者)を追跡・評価し、より強固な関係を育むのに役立つとRappleは説明する。また、Kudosは、研究者自身による広報活動を促すため、研究者の所属機関や、著作物を出版した学術出版社を間接的に宣伝することにもなるという。Rappleは、出版社や学術研究機関がKudosのデータベースから各種広報活動の効果について価値ある情報を得ることができると考えている。Kudosはこれまでに、ワイリーやテイラー&フランシスなどの有名企業を含む約65の出版社と提携している(訳注:2017年12月時点で提携する出版社は80社を超えた)。

平易な言葉で論文を説明

研究者はKudosを利用することで、論文の要約を平易な言葉で書くことのできる場が得られ、論文をより幅広い読者に読んでもらうことができる。Tananbaumは、この機能を特に便利に感じている。例えば、がん患者の家族にとっては、公開されている論文のアブストラクトよりも簡潔な説明の方が、医学研究の背景や重要性を理解しやすいだろうと言う。Tobiasも、自分の論文のために書いた要約が政策立案者や資源管理者の目に留まることを期待している。

また、隣接分野の研究者も、そうした要約から恩恵を受けることがあるかもしれないと、欧州分子生物学研究所(フランス・グルノーブル)の科学者でKudosのユーザーであるMatthew Bowlerは言う。平易な言葉を用いているため、隣接分野の研究者にとっても研究の背景や重要性が理解しやすく、また、研究論文が一般的なキーワード検索を通じて発見されやすくなる。

とはいえ、Kudosでの広報活動を成功させるには手間暇を要するとShipmanは言う。自分の研究成果を他の分野の専門家に説明することさえ容易ではないのに、一般市民に説明するのは並大抵のことではない。「あなたの研究を生き生きとした物語として発表できる場が得られるのは素晴らしいことです。けれどもKudosは、あなたの語り手としての能力を向上させるわけではないですし、同様に、あなたの物語に関心のある人に届けたり、そうした人を見つけ出したりするために何かしてくれるわけではないのです」と彼は言う。平易な言葉を使っていても説明が下手なら、その要約は論文要旨と同じくらい宣伝の役に立たない。

一部の学術誌は既に、専門家ではない読者のために、平易な言葉で書いた要約を提供している。だが、これらは論文著者本人ではなく編集者が書いていることが多い。Natureも2016年6月から試験的に、著者自身が書いた要約の提供を開始した(ただし、出版前に同誌のスタッフが編集している)。Natureの編集ディレクターRitu Dhandは、同年6月から7月にかけて、以前発表された12編の記事につき、500ワードでの要約を公開したと話す。また、eLifeの特集編集委員Stuart Kingによると、同誌は読者層を広げるために、平易な言葉で要約を書くライターを雇い入れている上、人気のブログプラットフォーム「Medium」に、同誌のダイジェスト版の約10%を投稿しているという。

論文の宣伝に掛けるべき時間

研究者は、自身の研究をソーシャルメディアで宣伝するのにどのくらいの時間を費やすかを、自ら決める必要がある。「自己宣伝を賢明に利用すれば、研究が人々の目に留まりやすくなり、これにより論文の被引用数が増え、優秀な大学院生やポスドクを研究室に呼び込むことができます。ただし、ソーシャルメディアの世界に出入りするだけで大きな影響を与えられると期待してはいけません」とShipmanは言う。「どんな関係についても言えることですが、オンラインのネットワークを構築し、維持するためには、時間と骨折りが必要です」。

米国内外で科学者向けのソーシャルメディアセミナーを開催しているWilliamsは、ソーシャルメディアの世界の広大さにひるんでしまっている研究者のために、ごくシンプルな助言をしている。ソーシャルメディア・プラットフォームを2つか3つ選び、設定に必要な時間を投資する。後は、1カ月に2時間ほどかけて最新の情報を追加していく。それが無理なら、最低限、オンライン履歴書としてLinkedInのプロフィールを作り、ORCID IDを取得・更新し、Publons.comで査読活動を記録することを勧めている。

研究の最終産物である論文には、膨大な時間とエネルギーが投資されている。1編の論文が世に出るまでには、数千時間の研究とデータ分析の他、執筆、査読が必要だ。「そのメッセージが然るべき人に届くように、少なくとも10~20時間は作業をするべきではないでしょうか?」とWilliamsは話す。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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