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目を持たないクモヒトデが周囲を「見る」方法

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180406

原文:Nature (2018-01-24) | doi: 10.1038/d41586-018-01065-7 | How brittlestars ‘see’ without eyes

Giorgia Guglielmi

ヒトデの仲間のクモヒトデは、環境を感知するのに骨格表面のレンズに似た結晶構造を使っていると長年考えられてきたが、そうではないようだ。

光を感知するOphiocoma wendtiiの骨格は、マイクロレンズのような結晶構造に覆われているため、この骨格構造が目の役目を果たすと思われていた。 | 拡大する

Lauren Sumner-Rooney

物を「見る」のに、いつも目が必要とは限らない。ヒトデの仲間であるクモヒトデは、中央の円盤から5本の腕が伸びる形態をした、サンゴ礁に生息する動物で、脳を持たないが、中には光を感知し、光から遠ざかるように移動するものがいる。2018年1月24日にProceedings of the Royal Society B1に発表された研究で、クモヒトデが周囲を見るやり方についての長年の仮説が覆された。クモヒトデ類のOphiocoma wendtiiは海底を探査する際、骨格表面の「目に似た構造」ではなく、体表を覆う一層の薄い皮全体に散在する光感受性細胞を使っていることが示されたのだ。

クモヒトデの骨格の表面は、小球が連なったような結晶構造に覆われている。科学者たちは、この構造が全体として大きな複眼のような働きをすると考えていた。骨格表面の「マイクロレンズ」の下には神経束が走っていて、びっしり並んだ結晶構造一つ一つから光が神経束に集められて像が作り出されるのだろう、と思われていた2

しかしこのほど、進化生物学者の研究チームが複数種のクモヒトデの骨格を詳細に調べたところ、小さな結晶構造はおそらく視覚とは関係ないことが判明した。この最新の研究は、これまでの解釈を否定する「衝撃的な証拠」を示したと、ロサンゼルス郡立自然史博物館(米国カリフォルニア州)の動物学者Gordon Hendlerは言う。彼は、クモヒトデには複眼があるという説を考えついた最初の科学者の1人だ。

「自然界は驚異に満ちていることを示す好例です。詳しく見れば見るほど、予想外なことがさらに多く発見されるものなのです」と、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(米国)の進化生物学者Todd Oakleyは付け加える。彼はこの研究に関わっていない。

皮の表面で

研究者たちは、まず、クモヒトデが視覚的な合図に反応できることを確認した。「クモヒトデは、光から遠ざかるだけでなく、約40cmも離れた暗い陰を見つけることができて、そこへ非常に素早く近づくことができます」と、この研究を率いたオックスフォード大学(英国)の神経生物学者Lauren Sumner-Rooneyは言う。

研究チームがクモヒトデの体を顕微鏡で観察したところ、神経束は予想に反して、結晶構造の下ではなく結晶構造の間に走っていることが分かった。結晶構造と神経束の位置関係からすると、これまで考えられていたように「結晶が神経に光を集める」ということはなさそうだと、Sumner-Rooneyは言う。

研究チームはさらに、クモヒトデの腕の骨格を覆っている皮には光感受性分子が詰まった細胞がたくさん存在していることを見つけたが、そのような細胞は、骨格の結晶構造の底部には見つからなかった。これらの光感受性細胞は神経束に緊密に接触しているので、それらが視覚的合図の検出と神経に沿った信号送信に関与しているものなのかもしれないと、Sumner-Rooneyは言う。

クモヒトデが自身の腕の1本を光から遠ざけるように動かすといった反応を、神経がどのように生み出すのか、その正確な仕組みはまだ分かっていないと、エール大学(米国コネチカット州ニューヘイブン)の進化生物学者Elizabeth Clarkは言う。

より大きな疑問は、クモヒトデが形を識別できるかどうかだ。研究者たちは、クモヒトデも目を持つ動物と同じように、形を識別できることを示唆する実験を行っている最中だと、Sumner-Rooneyは言う。

ほら、目はいらないんだ!

「目や目のような構造なしに物を見る能力を眼外光受容といいますが、眼外光受容能を有する生物は私たちが思っているよりも広く見られることを示す知見が増えています」と、クイーンズ大学ベルファスト校(英国)の進化生物学者で、ある研究の共著者のJulia Sigwartは言う。ウニやいくつかの小型甲殻類など、多くの動物が、このメカニズムを使用して周囲の様子を感知する3。クモヒトデはそうしたリストに加わった最新の動物にすぎない。

「環境を感知して、その信号がはるばる脳まで届くのを待つことなく刺激に反応することで、たくさんの時間を節約できます」とSigwartは言う。そして、この考え方は、中央制御システムに依存しないロボットや画像認識技術を開発する際のヒントになるかもしれない、と彼女は言い足す。

Sigwartは、これまでマイクロレンズの役目を果たすと考えられていた結晶構造に関しては、「骨格の一部にすぎません」と述べる。さらに彼女は、それらが透明であることや光を集められることは「完全に偶然です」とも言う。

しかし、Hendlerは意見を異にする。「それでも、結晶構造はやはり骨格に光を伝えているのかもしれません。私は、結晶構造が光に関連する何らかの機能を持っているという可能性を除外するつもりはありません」。

(翻訳:古川奈々子)

参考文献

  1. Sumner-Rooney, L., Rahman, I. A., Sigwart, J. D. & Ullrich-Lúter, E. Proc. R. Soc. B http://dx.doi.org/10.1098/rspb.2017.2590 (2018).
  2. Aizenberg, J., Tkachenko, A., Weiner, S., Addadi, L. & Hendler, G. Nature 412, 819-822 (2001).
  3. Porter, M. L. Integr. Comp. Biol. 56, 842-852 (2016).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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