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「歩行の起源」が軟骨魚類までさかのぼった!

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180405

原文:Nature (2018-02-08) | doi: 10.1038/d41586-018-01700-3 | Primitive fish's sea-floor shuffle illuminates the origins of walking

Giorgia Guglielmi

軟骨魚類の一種であるガンギエイには、左右の腹鰭を器用に交互に動かし、まるで歩くようにして海底を進むものがいる。この鰭を詳しく調べると、哺乳類の歩行と同じ神経ネットワークで制御されていることが明らかになった。

イボガンギエイRaja clavataの幼魚。脚そっくりの腹鰭が見える。 | 拡大する

David Fleetham/VW PICS/UIG via Getty Images

ガンギエイは、サメや他のエイと同じ軟骨魚類に属する、比較的原始的な魚だ。ガンギエイの一種Leucoraja erinaceaは鰭を使って、まるで歩いているように、海底をはって移動することが知られている。そこで、ある神経科学者の研究チームが詳しく調べたところ、ガンギエイの「歩行」を制御する神経細胞や遺伝子は、哺乳類の歩行で使われるものと同じであることが明らかになった。2018年2月8日付でCell1に掲載されたこの研究成果は、「歩行を制御する神経ネットワークが4億2000万年以上前に初めて魚類に出現した」とする仮説を支持するものだ。これは、四肢動物の直接の祖先と見なされる魚が海から陸上へとはい出してきた年代よりも2000万年以上早い2

今回の分析から、歩行のための神経細胞が脊椎動物の上陸以前に生じていたことを示す直接的な証拠が複数もたらされた。ラトガース大学ピスカタウェイ校(米国ニュージャージー州)の進化生物学者である中村哲也によれば、骨や歯などの硬組織は化石記録によく保存されるが、筋肉や神経などの軟組織は急速に分解されるため、時間とともに失われる場合が多いという。そのため、古代動物の移動運動を制御する神経を研究しようとすると、その生物によく似ていると見なされている現生生物に目を向けることが多い。

コーネル大学(米国ニューヨーク州イサカ)の神経科学者Joseph Fetchoは、「これは、四肢を制御する神経回路の起源について深く探索した、初めての研究です」と話す。海底を歩行する、哺乳類にもっと近縁な魚は何種か知られている3が、比較的原始的なガンギエイ類がヒトと同じように鰭を動かせるとは「本当に興味深い」、とFetchoは語る。「我々ヒトは、自分たちが思っているほど特別なものではないのですね」。

小さな1歩

ガンギエイ類は、何億年も前に海洋に生息していた祖先からほとんど変化していないと考えられている。この魚は、大きな鰭のセットを使って泳ぎ、それとは別の小さな鰭のセットを使って海底を歩く。今回の研究論文の共著者であるニューヨーク大学医学系大学院(米国ニューヨーク)の神経科学者Jeremy Dasenは、「歩いているガンギエイの映像を見ると、小さな鰭の外見はまるで『脚』のようです」と話す。「動きも脚によく似ています。この魚がはって進むときには、鰭を左右交互に動かし、まさに人間が走っているときのように曲げたり伸ばしたりするのです」。

これは単なる偶然ではない。研究チームは、哺乳類の四肢を曲げたり伸ばしたりするための筋肉を制御する神経細胞が、ガンギエイ類にも存在することを明らかにした。Dasenらはさらに、ガンギエイの移動に寄与する神経細胞で発現している遺伝子群を調べ、その多くが哺乳類にも認められることも突き止めた。

Leucoraja hatchling walking, videoed from underneath.

Jung, Baek, Dasen et al./Cell

こうした類似性から、研究チームは「歩行に必要な神経ネットワークは約4億2000万年前のガンギエイ類と哺乳類の共通祖先にすでに備わっていた可能性がある」と結論付けた。しかし、ガンギエイ類とヒトが二足歩行能力を進化させてきた過程は、依然として謎に包まれている。この研究の中心メンバーで、現在はスタンフォード大学(米国カリフォルニア州)に所属する神経科学者Heekyung Jungは、ガンギエイ類とヒトは共通する遺伝子と神経細胞のセットを利用しているが、それぞれ独自に二足歩行能力を発達させたのではないかと考えている。

しかし、この結果の解釈に注意を促す研究者もいる。シカゴ大学(米国イリノイ州)の進化生物学者Michael Coatesは、「どんな生物であれ、現生の生物群を調べるときも、それが祖先的な状態を表していると考えるときも、大いに慎重であるべきです」と話す。ガンギエイ類とヒトの共通祖先が歩行のための遺伝子と神経細胞のセットを備えていたことを確認するためには、哺乳類にさらに近縁な魚を含めた多数の生物種についても調べる必要がある、とCoatesは説く。

それでもDasenは、この研究の流れがさらに大きな成果につながる可能性があると期待を寄せている。「ガンギエイは歩行用の鰭1つ当たり、筋群を6つしか使いません。構造が単純なガンギエイ類を研究することにより、移動に何百もの筋肉を使うマウスやヒトをはじめ、さらに構造が複雑な生物の歩行を制御する神経ネットワークの配線の仕組みを明らかにできる可能性があるのです」とDasenは語る。いずれはこうした知識が、脊髄損傷で傷ついた回路を修復する方法や、移動能力を損なう神経障害を治療する方法などの形で、臨床の現場で役立つことも考えられる。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Jung, H. et al. Cell http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2018.01.013 (2018).
  2. Niedz´wiedzki, G., Szrek, P., Narkiewicz, K., Narkiewicz, M. & Ahlberg, P. E. Nature 463, 43–48 (2010).
  3. King, H. M., Shubin, N. H., Coates, M. I. & Hale, M. E. Proc. Natl Acad. Sci. USA 108, 21146–21151 (2011).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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