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圧縮した木材は鋼より強い

この手法で圧縮した天然木材を使って、自動車や建築物の強度を高めることができるかもしれない。 Credit: Jeff Mauritzen/NGC/Getty

木材を化学処理した後に高温圧縮することで、鋼より強い材料に変えることができるという報告が、Nature 2018年2月8日号224ページに掲載された1。軽量だが強度に劣る木材にこうした加工を施すことで、プラスチックや金属の環境に優しい代用品として、自動車の材料や建築材料とすることができるかもしれない。論文の責任著者の1人で、メリーランド大学カレッジパーク校(米国)の機械工学者Li Tengは、「大きな可能性を秘めた、新しい材料です」と言う。

木材の強度を高める研究は数十年前から行われている。一部の研究者は、セルロース(硬い天然高分子で、植物の道管を形成する細胞に含まれている)のナノファイバーを抽出して新材料を合成する研究に取り組んでいる。

Liのチームのアプローチはそれとは異なり、天然木材の多孔質構造を改変することに主眼を置いている。彼らはまず、オーク材(ナラ、カシなど)など各種の木材のブロックを、水酸化ナトリウムと亜硫酸ナトリウムの溶液中で7時間煮沸した。硬いセルロースはこの処理の影響をほとんど受けなかったが、セルロースの周囲のリグニンやヘミセルロース(植物細胞壁を構成する多糖類のうち、アルカリに可溶なもの)の一部が除去されて、木材の構造中により多くの空洞ができた。

次に、このブロックを100℃で1日圧縮した。その結果、ブロックの厚さは元の5分の1になり、密度は天然木材の3倍、強度は11.5倍になった。ちなみに、木材を緻密化しようとするこれまでの研究では、強度は3~4倍にするのが限界であった2

圧縮したブロックを走査型電子顕微鏡で観察すると、一連の処理によりセルロースの管状構造が押しつぶされ、絡まり合っていることが分かった。

この材料の靭性を検証するため、軍用車両の衝撃耐性の検証に用いられるエアガンでペレットを撃ち込んだところ、薄板状の材料を5層重ねると(それでも厚さはわずか3mm)、秒速約30mで飛んできた重さ46gの鋼製飛翔体を止めることできた。

強度はどこから?

一部の研究者は、従来の緻密化手法を改良することで強度向上を目指すこのグループの知見には、あまり興味が持てないと言う。オレゴン州立大学(米国コーバリス)のFred Kamkeは、リグニンを除去しなくても、もっと高い温度にしたり、処理の前に木材を蒸気にさらしたり、樹脂で処理したりすることで、今回報告されたような性能のほとんどを実現できると指摘する。

マックス・プランク・コロイド界面研究所(ドイツ・ポツダム)の植物バイオメカニクス研究者のMichaela Ederは、木が圧縮されて密度が高くなれば自然と強度が増すはずであり、ナノファイバーの絡み合いが強度の増加にどれだけ寄与しているかは分からないと指摘する。これに対してLiらは、シミュレーションから、強度の増加は、ナノファイバーが絡み合うときに形成される水素結合の効果と整合性があると考えられると反論する。強度の向上は、セルロースファイバー同士の結合によるというのが彼らの見方だ。

今回の論文のもう1人の責任著者であるHu Liangbingは、自分たちの発見で最も重要なのは、木材の性能を最大限に高めるカギがリグニンの除去量にあることを明らかにした点だと言う。彼のチームの実験では、リグニンを除去しすぎると、密度の低い、もろい木材になってしまった。これは、除去されなかったリグニンが、高温圧縮の際にセルロースファイバーを束ねるのに役立つことを示唆している。木材の強度が最大になったのは、リグニンの約45%を除去したときだった。

Ederはこうした成果について、「この方向の研究には大きな可能性があると思います。私は、彼らが木材の本来の性質を利用しようとしているところに好感を持ちました。木材は、研究のしがいも改良のしがいもある、素晴らしい材料です」と言う。

翻訳:三枝小夜子、要約:編集部

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180404

原文

Crushed wood is stronger than steel
  • Nature (2018-02-07) | DOI: 10.1038/d41586-018-01600-6
  • Mark Zastrow

参考文献

  1. Song, J. et al. Nature 554, 224–228 (2018).
  2. Erickson, E. Mechanical Properties of Laminated Modified Wood (US Dept Agriculture, 1965).