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2018年、科学界はどう動く?

宇宙観測

カナダ・ブリティッシュコロンビア州に建設された電波望遠鏡「CHIME」(カナダ水素強度マッピング実験)が2018年、フル稼働し始める予定だ。その観測により、原因不明の現象、高速電波バーストが今ほど謎めいた現象ではなくなる可能性がある。高速電波バーストはミリ秒レベルのごく短時間の電波が観測される現象で、2007年に発見されたが、観測例は全部で数十例にすぎない。天文学者たちは、CHIMEを使って1日当たり数十例を観測したい考えだ。4月には、欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「ガイア」の2番目の観測データセットが公表される予定で、天文学者たちはすぐに解析に取り掛かるだろう。ガイアは、銀河系の10億個以上の星の位置と運動を精密に調べる計画であり、新たなデータは、銀河系の渦巻き形状に関する理解を進める可能性がある。

先史時代のアメリカ人

人類が南北米大陸にどのように広がったかに関し、古代のゲノムの研究結果が2018年にいくつも明らかにされる見込みで、その詳細が判明するかもしれない。南北米大陸への人類の拡散は、1万5000年ほど前に始まったと考えられているが、科学者たちはそれがいつ、どのように進んだかの見積もりを狭め、その後の移動のタイミングとルートも明らかにしたいと考えている。こうした研究は、現在のアメリカ先住民集団に見られる遺伝的多様性を説明することにも寄与するかもしれない。

単位の再定義

数十年の地道な研究結果をもとに、アンペア、キログラム、ケルビン、モルの4つの測定単位の再定義が2018年末に行われる見通しだ。11月に国際度量衡総会が開かれ、58カ国の代表が新定義の採用について投票を行う。新たな定義は、人工物による定義や抽象的な定義ではなく、基礎物理定数の正確な値に基づいている。新たな定義は、同総会で承認されれば2019年5月に発効する。

月とその先へ

ドナルド・トランプ米大統領は2017年12月、月に再び宇宙飛行士を送ることを米航空宇宙局(NASA)に指示した。一方で、インドと中国も月面に無人ローバー(探査車)を着陸させる計画を進めている。インドの月探査計画「チャンドラヤーン2号」は2018年初めに、同国初の宇宙での軟着陸を月で試みる。12月には、中国の月探査計画「嫦娥)4号」が世界初の月の裏側への軟着陸を行う。太陽系では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ2」が、始原的な小惑星リュウグウに7月までに到着する予定だ。NASAの探査機「オシリス・レックス」も、2018年後半に小惑星ベンヌに達する見込みだ。両者は2020年代に小惑星サンプルを地球に持ち帰る。

はやぶさ2を搭載したH-IIAロケットは2014年12月3日、種子島宇宙センターから打ち上げられた。 Credit: The Asahi Shimbun via Getty Images

がんをゲノムから明らかに

がんの全ゲノム解読結果を多数のがん種を横断して解析する、国際共同研究計画「PCAWG」(PanCancer Analysis of Whole Genomes)の結果から、がんを制御する遺伝子に関する新たな知見が2018年に得られる可能性がある。大規模ながんゲノム解読計画「がんゲノムアトラス」も、33種の腫瘍のタンパク質コード領域(エキソームと呼ばれる)の分析結果を公開する。

CO2削減目標の引き上げ

2015年のパリ協定に署名した国々は2018年、自国が約束した温室効果ガス排出量削減目標の引き上げを目指す「促進的対話」を行う。パリ協定は、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5~2℃に抑えることを目標にしている。一方、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は、1.5℃の温度上昇の影響を説明する特別報告書を公開する。9月には、米国カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事が、パリ協定を支持する立場から大規模な気候変動対策会議を主催する。

高温高圧下での画像撮影

原子レベルの波長を持つX線自由電子レーザーが、米国、日本、韓国に続き、2017年にはドイツ・ハンブルクでも稼働し始めた。X線自由電子レーザーを使えば、高温、高圧下で変化する試料の画像撮影が可能になる。惑星の中心核のような極端な条件下で、物質がどのように振る舞うかについて、多くの研究成果が得られるだろう。また、新たな仕組みを使った卓上型X線源が、ドイツ電子シンクロトロン(DESY;ハンブルク)やアリゾナ州立大学(米国テンピー)で稼働すれば、生物学的反応や化学的反応の研究をより低予算で行えるようになるかもしれない。

中間選挙とEU離脱

米国の中間選挙が11月に予定されている。歴史を振り返ると、ホワイトハウスをコントロールしている党(現在は共和党)は、議会で議席を失う可能性が高い。しかし、民主党が、下院あるいは上院のどちらかで多数を占めることができるかどうかは分からない。また、記録的な数の科学者たちが、地方、州、連邦レベルの選挙に立候補しようとしていて、これも注目を集めるだろう。英国は、2019年の欧州連合(EU)離脱に関する交渉の第二段階に入り、離脱後のEUとの科学研究協力について話し合う。

宇宙産業の争い

初の民間資金による月面無人探査を競う、賞金総額3000万ドル(約33億円)の「グーグル・ルナ・エックスプライズ」が開催されている。勝ち残った5つのチームは、3月31日までにローバーを月に着陸させて走行させ、画像を地球に送り返さなければならない(勝者なく終了の見通し)。一方、米民間企業のボーイング社とスペースX社は、NASAの依頼により、宇宙飛行士を乗せて国際宇宙ステーションに向かう有人ロケットを打ち上げる。両社はそれぞれ、2018年内の打ち上げを目指している。

遺伝子編集とiPS細胞

CRISPR/Cas9などの遺伝子編集ツールを、臨床応用する取り組みが増えている。CRISPRのヒトでの初めての第一相臨床試験(肺がん治療のために免疫細胞を編集する)は4月に終了する。ローカス・バイオサイエンシズ社(Locus Biosciences;米国ノースカロライナ州リサーチ・トライアングル・パーク)やエリゴ・バイオサイエンス社(Eligo Bioscience;フランス・パリ)などは、バクテリオファージと呼ばれるウイルスを遺伝子操作し、CRISPRシステムを利用して抗生物質耐性菌をたたく治療を臨床試験に持ち込もうとしている。一方、京都大学は、ヒトのiPS細胞から作った神経前駆細胞でパーキンソン病を治療する臨床試験を2018年度中にも始めることを目指している。

粒子のサーフィン加速

プラズマの波の上で電子を加速するプラズマ航跡場加速にとって勝負の時がやってきた。2016年、欧州原子核共同研究機関(CERN;スイス・ジュネーブ近郊)で、プラズマ航跡場加速の原理を検証する「AWAKE」実験の第一段階が行われ、陽子ビームで航跡場が形成されることが確認された。実験の第二段階、外部から電子を注入して1ギガ電子ボルトに加速する実験が始まりつつある。成功すれば、より小さく、より安価な加速器が実現する可能性がある。

オープンアクセス

ドイツの科学者たちと巨大出版社エルゼビア(本社オランダ・アムステルダム)とが、にらみ合っている。先に折れるのはどちらだろうか? 約200のドイツの研究機関は、購読価格に関するエルゼビア社との長期の争いが合意に達するまで、エルゼビア社の論文誌へのアクセスを2018年1月1日から失う。オープンアクセスの支持者たちは、ウェブサイト「Sci-Hub」の運命にも注目している。Sci-Hubは、有料購読者のみにアクセスが許された、膨大な数の論文を無許可で無料でダウンロードできるようにしたサイトで、米国の裁判所はそのドメインの一部を閉鎖する命令を2017年11月に下した。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180313

原文

What to expect in 2018: science in the new year
  • Nature (2018-01-04) | DOI: 10.1038/d41586-018-00009-5
  • Elizabeth Gibney