News

1回の血液検査で8種類のがんを診断

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180303

原文:Nature (2018-01-18) | doi: 10.1038/d41586-018-00926-5 | Simple blood test detects eight different kinds of cancer

Heidi Ledford

液体生検の新しい手法が報告された。この方法で8種類の腫瘍と関連する遺伝的変異やタンパク質を血中から探し出すことができる上、塩基配列解析が必要なものに比べ安価に実施できる可能性がある。

より高精度の血液検査法で、肝臓がん(写真)など、がんの早期発見が可能になるだろう。 | 拡大する

DAVID MCCARTHY/SPL/GETTY

1回の血液検査でさまざまな種類のがんを診断できる。そんな日が間もなく来ることを期待させる成果が、最近の予備的臨床試験で得られた。

ここ数年の間に、「液体生検」と呼ばれる実験的な検査法が数多く登場してきた。この検査法は、採血と検査のみで腫瘍の検出や追跡ができると期待されている技術である。液体生検法の多くは、1種類のがんを対象とし、血中に遊離しているDNA塩基配列内で腫瘍関連の有無を調べて診断するよう設計されている(Nature ダイジェスト 2014年10月号「血流が運ぶ情報」、 2017年8月号「がん再発を早期探知できる液体生検」参照)。

ところが、2018年1月18日にScienceで発表された最新の液体生検法は、DNAの変異だけでなく特定タンパク質の量の異常についても検査し、8種類のがんの検出に取り組むという点で異例のものだ1。これによって、診断済みのがん患者1000人余りの約70%でがんを検出することができた。

研究チームは今回の成果が最終的に、より簡便で安価な検査法につながってほしいと考えている。他の液体生検には、塩基配列解析を徹底的に行うものもあるからだ。「彼らの検査の成績は他の検査法と同程度ですが、費用対効果ははるかに高くなりそうです」と、ケンブリッジ大学(英国)のがん研究者Nitzan Rosenfeldは話す。

大海に針をすくう

学術界にしろ医薬品業界にしろ、液体生検を研究するグループは、がんの進行の追跡や、治療計画作成の目安を得ることに重点を置くことが多い。

しかし、ジョンズホプキンス・キンメルがんセンター(米国メリーランド州ボルチモア)のがん専門医Nickolas Papadopoulosと同僚らは、治療がより容易な早期のがんを発見できる検査法を開発したいと考えた。

そのための血液検査法は特に難易度が高い。腫瘍が小さいと、血流中に放出されるDNAの量は大きい腫瘍よりも少なくなるのが一般的だからだ。また、検査対象として健常人の大規模集団を想定すると、偽陽性も懸念材料となる。誤った検査結果が出ることで、被検者がいたずらに過度のストレスを被ったり、不要で害を及ぼしかねない治療を受けたりする可能性があるからだ。研究チームは偽陽性のリスクを上昇させることなく液体生検の精度を上げる方法を模索した。そして彼らが開発したのが、タンパク質8種類の量と、遺伝子16個における変異の存在を調べる「CancerSEEK」という検査法だ。

Papadopoulosらは、この液体生検法を、8種類のがん(卵巣、肝臓、胃、膵臓、食道、直腸、肺、乳房)の1つがあるとすでに診断されている患者の集団で試した。その際、早期がんを重点的に見るために、がんが体の他の部位にまで広がっていた患者は除外した。

CancerSEEKの有効性は、がんの種類によって異なっており、卵巣がんだと98%を検出できたが、乳がんではわずか33%だった。患者の約63%では、がんの定着している臓器を正確に特定できた。ただし、検出の成績は早期がんよりも後期がんの方が良く、ステージIIIの腫瘍では78%を検出できたが、ステージIでは43%にとどまった。

精度の追求

たとえ早期がんの方の成績が劣っていても、これだけの検出率があれば、今後さらに研究を進める理由付けとしては十分だと、液体生検を扱うInivata社(英国ケンブリッジ)の科学部門主任でもあるRosenfeldは話す。「がんの半数を見つけられるだけでも素晴らしいことなのです」。ただし今回の研究では、CancerSEEKが未診断のがんを検出できるかどうかまでは明らかでないと、Rosenfeldは付け加えた。

もう1つの懸念は、一般集団で偽陽性率がもっと高くなる可能性があることだと、モンペリエ大学(フランス)のがん研究者Catherine Alix-Panabièresは話す。一見健康でも、CancerSEEKが検査対象とするタンパク質の量を変化させるような炎症疾患を持っている人がいるかもしれないからだという。

こうした懸念を解消していくには数年を要するかもしれない。しかしPapadopoulosによれば、1万人以上の健常人でCancerSEEKを試験する研究がすでに始まっているという。彼は、組織・液体生検の製品開発を手掛けるパーソナル・ゲノム・ダイアグノスティクス(PGD)社(米国ボルチモア)の顧問も務めている。この研究では、被験者を5年にわたって追跡調査する予定である。

その間にも他の研究チームが、DNA塩基配列解析と他の血液検査法を組み合わせて液体生検をさらに改良してくれるのではないかと、カンディオーロがん研究所(イタリア・トリノ)のがん研究者Alberto Bardelliは期待を込めて話す。「今回の論文は刺激的ですね。全体像の中の一部分だけを見ていてはいけないという事実を突き付けています。血液に含まれる情報の発信源全てに目を向ける必要があるのです」。

(翻訳:船田晶子)

参考文献

  1. Cohen, J. D. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.aar3247 (2018).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度