Editorial

遺伝子ドライブの研究は「安全第一」で

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180340

原文:Nature (2017-12-07) | doi: 10.1038/d41586-017-08214-4 | Gene-drive technology needs thorough scrutiny

科学者は、遺伝子編集が環境に及ぼす危険を指摘する努力を続けなければならない。

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APU GOMES/AFP/Getty Images

2017年12月5日からカナダのモントリオールで開催される会合で、科学者、環境保護活動家などの専門家が、遺伝子編集技術の一種「遺伝子ドライブ」が環境に影響を及ぼす可能性について議論することになっている。そして、遺伝子ドライブの推進派と反対派は、多くの点で意見が一致する傾向にある。遺伝子ドライブは、新しく登場した技術だが、強力な手法となる可能性を秘めており、これによって多大な恩恵がもたらされる可能性がある一方で、大きな被害が発生する恐れもある(Nature ダイジェスト 2015年11月号「『遺伝子ドライブ』の進歩に遅れるな」参照)。必ずリスクを綿密に調べ、その上で慎重に利用するのが望ましいとされる。多くの点で両派の意見が一致することについては、直ちに理解しづらい場合があるかもしれないが、議論において語気を荒らげる推進派と反対派は、こうした共通の基盤を忘れてはならない。

この会合とは、国連生物多様性条約(CBD)締約国会議に勧告を行う専門家グループの会合のことだ。CBD会議は、2016年に遺伝子ドライブ研究の国際的モラトリアムの提案を却下した。ただし、この提案は今後も繰り返される可能性が高い。この会合が開催される数日前、遺伝子ドライブの凍結を求める人々が大成功を収めたと主張した。彼らは、遺伝子ドライブ研究に取り組む米国の科学者が送受信した1000通以上の電子メールを情報公開法によって取得し、報道関係者に発表したのである。さらに、この発表と併せて「遺伝子ドライブの研究者と研究助成機関がPR会社と結託して、国連生物多様性条約の遺伝子編集への取り組みに不当な影響を及ぼしている」と主張した。

これは、関係者にダメージを与え、意見の分裂を図る解釈を生み出そうとする不当な試みだ。これらの電子メールは、ほとんどが研究と会議に関する日常的なやり取りだった。国連での取り組みについて述べた部分では、科学者が遺伝子ドライブの専門知識を共有する方法とその潜在的影響について説明されていた。

遺伝子ドライブの影響を論じることは、ある程度役に立つことであるし、遺伝子ドライブに直接関与する人々と外から遺伝子ドライブを見つめる人々で見方が異なるのも自然なことだ。しかし、活動家が今回行ったように、こうした意見交換を不正行為だと主張することは、議論における意見の分裂をもたらすだけであり、国際的な視点で遺伝子ドライブの影響を考察するために現在利用できる数少ない仕組みの1つである国連の会議での科学者の役割の正当性が認められなくなる恐れもある。

そうなれば、この仕組みは弱体化すると考えられる。遺伝子ドライブは、動物の集団内で遺伝的修飾を急速に広めるため、種全体を改変し、マラリアなどの疾患を撲滅できる可能性を秘めている。そうした目的で遺伝子ドライブを導入された生物は、従来の遺伝子組換え作物や動物と異なり、国境に関係なく移動することになる。CBD会議は、遺伝子ドライブとその他の合成生物学ツールが生物多様性に及ぼす影響について、過去数年間にわたって検討してきた。12月5日からの会合では、翌年に議論をさらに進めるための舞台作りが行われる。

規制が存在しないのは、遺伝子ドライブの実施だけではない。実験室内で遺伝子ドライブ研究を安全に行うための規制も存在しない。そのため、科学者とその他の関係者は、自分たちが遺伝子ドライブを慎重に管理していることを実証したいと考えている。12月1日には、研究助成機関が基本指針に合意したことが発表された(Science 358, 1135–1136;2017)。8月には研究者たちが、自主的なバイオセーフティー規則を取りまとめたことを発表している(Nature Biotechnology 35, 716–717;2017)。

遺伝子ドライブ技術は、各国政府による管理と国際的な管理が実施されるようになる可能性が非常に高い。オランダでは、2016年の報告書で遺伝子ドライブ研究のリスク評価に不十分な点があると指摘され、その後法律が改正された。現在は、遺伝子ドライブの研究を行う研究者は許可を得ることが義務付けられている。遺伝子ドライブ研究と自然界への放出に対する今後の法規制を決める際には、しっかりとした議論と科学者の確実な寄与が求められる。

今回の電子メールの公表は、2009年の国連の重要な会議の前に、ハッカーが気候科学者から盗んだ文書を公表した事件に似ている。そのときは、これらの電子メールに関する解説の大部分は、科学者が良からぬことをたくらんでいるという見方だった。後にそれは誤りと分かったが、それでもダメージは生じ、科学者に対する国民の信頼は低下した。同じ策略が用いられたのであれば残念なことだと言わざるを得ない。遺伝子ドライブに対する懸念の多くは遺伝子ドライブを研究する科学者により表明されてきただけに、なおさらだ。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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