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大きさも量も大規模化したDNA自己集合

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180332

原文:Nature (2017-12-07) | doi: 10.1038/d41586-017-07690-y | DNA self-assembly scaled up

Fei Zhang & Hao Yan

DNAは、自己集合によって目的の形状の物体を形成するよう設計することができる。しかし、形成できる物体のサイズと量は限られており、そのコストも高かった。今回、この問題を克服する方法が見いだされた。

自然界には、タンパク質折りたたみや脂質二重層の形成から、地球の生物系全体の確立に至るまで、さまざまな形の自己集合プロセスが存在している1。科学者らは長い間、研究用、工学用、医療用の人工細胞機械の構築を目指して、細胞や細胞小器官と同等の大きさ・複雑さを持つ人工物体を、自己集合によって作り上げたいと熱望してきた。このほど、こうした目標に向けた大きな進展が見られた。DNAでできたデザイナー自己集合ナノ構造体の大型化方法と大量生産方法に関する4編の論文2-5が、Nature 2017年12月7日号に掲載されたのである。

DNA、RNA、タンパク質などの生体高分子は、ナノスケールのデザイナー構造体を構成するビルディングブロック(構成要素)として用いられてきた。こうした構造体は、相互作用可能な生物模倣系を設計したり6生体機能を調節したりする7ことを目的として用いられてきた。中でもDNAは、相補鎖の塩基間で予測可能かつ安定な対が形成されるために「プログラム可能性」という特長を持ち、最も有用なナノスケール構成要素となっている。さらに、DNAは構造的に安定で、その二重らせん構造の幾何学的特徴が十分研究されており、他の生体分子との相性が良いので、複雑な機能を有する「ヘテロ生体分子」を構築できる。これまで、さまざまなDNA自己集合法が開発され、非常に複雑な幾何形状とナノレベルの精密さを備えた人工構造体が構築されてきた8

DNAナノテクノロジーにおける画期的出来事の1つは、DNA折り紙の発明である9。DNA折り紙とは、「ステープル」と呼ばれる短いDNA鎖を数百本用いて、長い1本鎖DNAを折りたたむことで目的の形状を作り上げるユニークな手法だ。ステープル鎖は、DNAの特定の長い領域と相補的になるよう設計されているため、折りたたみ過程を制御する役割を担う。これまでに、DNA折り紙法を用いて、多種多様な二次元(2D)および3Dのナノ物体が作製されてきた。これらの物体の多くは完全にアドレス可能10である。つまり、将来の応用に向けて、選択した箇所を必要に応じて修飾することができる。だが、個々のDNA折り紙ナノ構造体のサイズは、それを構成する足場DNAの長さによって制限される。例えば、広く用いられている足場鎖の1つは、およそ7200ヌクレオチド長のゲノムDNA9だが、これを折りたたんで折り紙構造体を作っても直径100nmほどにしかならない9,10

DNAナノテクノロジーにおけるもう1つの重要な設計戦略は、一本鎖タイル(SST)集合だ11。SSTは一本鎖DNAから作られたナノメートルスケールの2D長方形や3Dレンガであり、この戦略では、SST間にDNA二本鎖を形成させるよう設計してSST同士を連結させる。従って、SSTを多数集合させることで2Dシートや3Dブロックを形成でき、特定のSSTを取り入れたり排除したりするだけで、さまざまなパターンや形状を選択的に「造形」して作り上げることができる12。しかし、こうして作られたDNA構造体のほとんどは、折り紙ナノ構造体と同程度のサイズで、より大型の構造体を得ようとするとその収率は低かった。今回の一連の論文では、SST法と折り紙法を土台として、マイクロメートルサイズのDNA構造体の作製と、DNA構造体の大量生産化が報告されている。

Tikhomirovら2は、表面パターンを施した正方形のDNA折り紙を構成単位として用い、一辺がおよそ0.7µmの2D DNA折り紙アレイを作製した(図1a)。表面パターンは、折り紙表面から伸びたDNA鎖で作られており、折り紙と折り紙の間に短いDNA二本鎖を形成することによって折り紙同士が連結する。Tikhomirovらは、正方形折り紙間の相互作用をプログラムするためのフラクタル法を開発した。この方法では、局所的な集合ルールを再帰的に用いることで、正方形折り紙アレイを階層的多段階プロセスによってどんどん大きくしていく。また、専門家でなくてもDNA配列や実験手順を開発して大型DNAパターンを作ることができる「FracTile Compiler」という設計ソフトも制作した。Tikhomirovらは、DNAを用いてモナ・リザ、雄鶏、チェス盤などの「絵」を描き、この自動設計プロセスの有効性を実証した。

Wagenbauerら3は、また別の階層的自己集合法を用いて最大でマイクロメートルスケールの大きさの3D DNA折り紙構造体を作製した(図1b)。彼らは基本構成要素として、V字型のDNA折り紙ブロックを用いた。ブロックのVの角度は可変であり、幾何形状とブロック間相互作用を制御することによって、より高次の集合体を構築できる。Wagenbauerらは、直径350nm未満の平面リングを積み重ねた長さ約1µmのチューブ(一部の細菌と同等のサイズ)や、3種類の多面体(最大で直径450nm)を構築することで、この手法の有効性を実証した。

Ongら4は、マイクロメートルスケールの3D SST DNA構造物を作る方法を報告している(図1c)。第一世代のSST系の原理を拡張することで、13ヌクレオチドからなる結合ドメインを4つ含む52ヌクレオチドで構成されるレンガ型DNAビルディングブロックを設計した。結合ドメインによってレンガ同士を結び付けることで、大型の構造物を形成できる。第一世代のDNAレンガは、8ヌクレオチドで構成された結合ドメイン4つによって構成されていたが、それと比較すると、今回の手法はDNAレンガの結合ドメインが長いために、大型集合構造体の収率と安定性が向上している。Ongらは、「Nanobricks」というソフトを開発して、目的の3D物体の作製に必要なレンガ鎖を設計し、一連のさまざまな複雑構造体を合成した。

図1 マイクロメートルスケールのDNA構造体を作る方法
a. Tikhomirovら2は、DNA折り紙法(短い「ステープル」DNA鎖を用いて長いDNA鎖を折りたたんでいく手法)を用いて正方形を作製した。さらに、これらの正方形を集合させて、所望の表面パターンを有する8 × 8アレイを作製した。
b. Wagenbauerら3は、DNA折り紙を用いてV字形の3Dブロックを作製し、これを階層的に集合させて多面体を作製した。
c. Ongら4は、一本鎖タイル集合法という方法に基づいて、52ヌクレオチドを含む一本鎖からなるDNAレンガを作製した。各鎖には4つの結合ドメインが存在するため、レンガを集合させてより大きな構造物を形成できる。数千個のレンガを自己集合させて複雑な空洞を有する直方体を形成するようプログラムすることも可能である。 | 拡大する

Praetoriusら5は、DNA折り紙によく用いられる数百のステープル鎖の作製コストを、バイオテクノロジーによって大幅に削減できることを報告している。Praetoriusらは、バクテリオファージとして知られるウイルスを用いて、数百のステープル鎖配列を含む一本鎖前駆体DNAを作製した。この前駆体DNA中では、それぞれのステープル鎖配列が「DNAザイム」配列によって隔てられており、この配列の所で自らを切断する。そこで切断されてできた生成物が、自己集合して指定のDNA折り紙形状を形成する。注目すべきことは、この方法での折りたたまれたDNA折り紙構造体の製造コストであり、1mg当たり約200ドル(2万2000円)から約20セント(22円)まで下がる。この方法によって、スケーラブルで効率的なDNA折り紙構造体やSST構造体が安価かつ大量に生産可能になるため、治療、薬物送達系、ナノエレクトロニクスデバイスなどへの大規模応用の実現が見込まれる。

今回の一連の論文では、生体分子工学分野における長年の課題に対する解決策が示されている。つまり補完的な「トップダウン」型手法(バルク材料から構造体を削り出していく手法)を用いて作られた物体に組み込むことのできる大きさの自己集合構造体を、小さな構成要素から低コストで作製できることになるわけだ。さらに、報告されたDNA構造体は、治療用に細胞と相互作用するデバイスを製造したり、合成ポリマーの合成や細胞間相互作用のプログラムを行う精巧な分子機械や組み立てラインを作製したりするのに十分な大きさである。そうした自己集合構造体を人工細胞小器官に使えば、生細胞内の生物学的過程を検知・モニター・調節可能なシステムを構築できるようになるかもしれない。

(翻訳:藤野正美)

Fei Zhang & Hao Yanは、アリゾナ州立大学(米国)に所属。

参考文献

  1. Whitesides, G. M. & Grzybowski, B. Science 295, 2418–2421 (2002).
  2. Tikhomirov, G. et al. Nature 552, 67–71 (2017).
  3. Wagenbauer, K. F. et al. Nature 552, 78–83 (2017).
  4. Ong, L. L. et al. Nature 552, 72–77 (2017).
  5. Praetorius, F. et al. Nature 552, 84–87 (2017).
  6. Chen, Y.-J., Groves, B., Muscat, R. A. & Seelig, G. Nature Nanotechnol. 10, 748–760 (2015).
  7. Li, J., Green, A. A., Yan, H. & Fan, C. Nature Chem. 9, 1056–1067 (2017).
  8. Zheng, J. et al. Nature 461, 74–77 (2009).
  9. Rothemund, P. W. K. Nature 440, 297–302 (2006).
  10. Douglas, S. M. et al. Nature 459, 414–418 (2009).
  11. Wei, B., Dai, M. & Yin, P. Nature 485, 623–626 (2012).
  12. Ke, Y., Ong, L. L., Shih, W. M. & Yin, P. Science 338, 1177–1183 (2012).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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