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「第二の地球」のレシピを求めて

スーパーアースの地質は地球と似ているのだろうか? この画像は、スーパーアース「HD 85512 b」の想像図。欧州南天天文台の観測装置HARPSにより2011年に発見された太陽系外惑星で、その軌道はハビタブルゾーンの限界付近に位置している。 Credit: M. KORNMESSER/NICK RISINGER/ESO

Yingwei Fei(費英偉)らが苦労して作った高密度のケイ酸塩のサンプルは、円形をしていて、厚さは1mmもなく、きらきらと光っていた。2017年11月初旬、1カ月がかりで作ったこのサンプルに別れを告げる時が来た。Feiはサンプルと数個のバックアップを丁寧に包んで発泡スチロールの容器に入れ、カーネギー研究所(米国ワシントンD.C.)からサンディア国立研究所(米国ニューメキシコ州アルバカーキ)へと発送した。この研究所のZパルスパワー施設(Zマシン)で、26メガアンペアの電流から発生する強力なX線を使い、各サンプルを高温・高圧にして粉砕してもらうためだ。

太陽系外惑星の組成を研究するために利用されたZマシン。 Credit: RANDY MONTOYA

Zマシンは、爆発する核兵器の内部の極限条件を再現できる装置である。しかし、カーネギー研究所の地球物理学研究室の高圧実験地質学者であるFeiは、はるか遠い世界のことを考えている。彼の目標は、地球の深部で見られるケイ酸塩ペロフスカイトという鉱物が、太陽系外にある地球より大きい岩石惑星の内部の高温・高圧条件下で、どのように振る舞うかを解き明かすことにある。

このような研究は「惑星地質学(exogeology)」と呼ばれる。惑星地質学は、太陽系外惑星が地質学的に見てどのような天体であるかを研究する学問分野で、天文学者、惑星科学者、地質学者が参入している。多くの科学者にとって惑星地質学は、生命を育むことのできる惑星を探す研究の自然な延長線上にある。天文学者はすでに数千個の太陽系外惑星を発見し、その質量や半径などの基本的なデータを収集している。主星の周りのハビタブルゾーン(その軌道を回る惑星の表面に液体の水が存在できるような温和な領域)にある惑星は、特に生命の居住に適していると考えられている。ハビタブルゾーンは、童話『三匹のクマ』で「適度なもの」を求めて物色する少女にちなんで「ゴルディロックスゾーン」とも呼ばれる。

しかし、アリゾナ州立大学(米国テンピー)の惑星地質学者であるCayman Unterbornは、地球は大きさや質量、好ましい軌道以上の「好条件」に恵まれていると指摘する。例えば、地球の溶融コアは流動によって磁場を発生・維持しており、この磁場が、壊れやすい地球の大気を太陽風から保護している。また、テクトニックプレートの運動は、岩石と大気の間で二酸化炭素を循環させて、地球全体の温度を調節するのに役立っている。近年、太陽系外惑星の発見が相次いでいる。けれども天文学者たちは「今になってようやく、『ちょっと待て。私たちは切手でも集めるように太陽系外惑星を集めているが、もっと興味があるのは、こうした天体を理解することではないのか?』と気付き始めたのです」とUnterbornは言う。「そこに地質学者を引き込んで研究を進めるのは、ごく自然な流れです」。

研究者たちは、シミュレーションやFeiがZマシンで行っているような実験により、地球に似た地質を持っている太陽系外惑星はどのようなものかを明らかにしようとしている。この研究は、優先的に調査を進めるべき太陽系外惑星を決める際にも役立つかもしれない。

しかし、プレート運動がいつ、どのようにして始まったかなど、地球の地質の多くがいまだに謎に包まれていることもあり、惑星地質学はいくつかの困難に直面している。カーネギー研究所の地球化学者Richard Carlsonは、「プレート運動は、地質学を根底から変えた、重要な発見です。けれども私たちはまだ、プレート運動が生じる仕組みを知らないのです」と言う。さらに、太陽系外惑星が実際に地球に似た地質を持つかどうかを確認するのは難しいかもしれない。天文学者が太陽系外惑星を直接観察できることはめったにない上、観察できた場合でも、画像中の1画素分にしかならない可能性があるからだ。

地質活動の間接的な証拠やごく小さな示唆でさえ、はるか彼方の惑星について、より一貫した描像を研究者に与え、生命の兆候を探すのに最適な太陽系外惑星を示すことができる。マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の天体物理学者Sara Seagerは、「証拠がほとんどない大きな事件の現場に当たったようなものです」と言う。「わずかな証拠を丹念にかき集め、それらを組み合わせることによって、全貌を明らかにしていくしかありません」。

スーパーアースの謎

太陽系外惑星の科学の対象の中でも特に興味深い天体に、地球の数倍の質量を持つ岩石惑星「スーパーアース」がある。スーパーアースには地球の10倍の質量を持つものもあり、このような天体は太陽系には存在しないが、銀河系ではごく一般的な天体であることが分かっている。その多くはかなり大きいため、地球サイズの惑星よりも詳細に観測しやすいかもしれない。

約10年前に発表されたスーパーアースの地質に関する初期の研究は、スーパーアースが単純に地球を大きくしただけの天体であった場合にどのようなものになるかを考察していた。しかし、2004年に発見された超高温のスーパーアース「かに座55番星e」の分析で、スーパーアースが地球とは全く異なる天体である可能性が高まった。2011年の観察から、この惑星が地球の約2倍の半径1と8倍強の質量2を持つことが明らかになったのだ。

この結果は不可解であった。というのも、これだと平均密度は地球よりわずかに高いだけ、ということになる。かに座55番星eが地球のように鉄のコアとケイ酸塩のマントルを持っているなら、この大きさではもっと質量があるはずだ。ここで、惑星全体を海洋が覆っていると考えると、密度を地球並みに下げることができる。しかし、この惑星は主星に非常に近い軌道を公転していて、昼の側の温度が約2500ケルビンにもなるため、液体の水が長期にわたって存在することはできない。

かに座55番星eの密度を巡る謎は、エール大学(米国コネチカット州ニューヘイブン)の天文学者Nikku Madhusudhanらの新しいアプローチによって、2012年に解決された。それまでの研究から、かに座55番星eの主星の炭素/酸素比が、太陽に比べて大幅に高いことが示唆されていた。主星と惑星は塵とガスが渦を巻く同じ円盤から作られるため、かに座55番星eも炭素を豊富に含むと仮定することは理にかなっているように思われた。Madhusudhanが惑星の内部のモデルにこの炭素の割合を使用すると、かに座55番星eの質量と半径とよく一致する結果が得られた3。現在はケンブリッジ大学(英国)に所属するMadhusudhanは、「あれは啓示でした」と振り返る。炭素を豊富に含む惑星は、地球とは全く違った天体になる。Madhusudhanは、かに座55番星eの地殻の主成分はグラファイトかもしれないと考えている。その内部では、膨大な量の炭素が高圧下で圧縮されてダイヤモンドに変わっているかもしれない。「太陽系の岩石惑星に比べると、かなりすごいものになっているでしょう」と彼は言う。

ダイヤモンドでできた惑星は私たちの想像力を大いに刺激するが、かに座55番星eの主星に含まれる炭素は、現在考えられているほど多くはない可能性がある。天文学者たちは、たとえ主星が多くの炭素を含んでいたとしても、惑星の組成が主星と一致していると単純に仮定するべきではないと言う。Seagerは、このような仮定では太陽系の惑星の多様性をうまく説明することができないと指摘する。エール大学の天文学者Gregory Laughlinも、「現時点では合理的な推測だと思いますが、完璧ではないことを忘れてはいけません」と言う。

太陽系外惑星を実験室で再現する

惑星地質学者は、この不確実性を受け入れ、遠方の惑星がどのように形成され、進化してきたかを解明しようと最善を尽くしている。科学者が出発元素のリストから地質学に到達するためには、どのような鉱物が形成され、いつ溶融し、圧力や温度に伴い、その密度がどのように変化するかを知っておく必要がある。こうしたデータを利用して、未分化の溶融したボールから層構造を持つ惑星が進化し、惑星が冷却するにつれて鉱物が形成され、沈み込んだり浮かび上がったりする過程をシミュレーションすることができる。アムステルダム自由大学(オランダ)の地質学者Wim van Westrenenは、「初期の惑星については、鉱物学的な『タマネギの皮』モデルを構築できます」と言う。それから数値モデルを使って、その惑星がどのように進化したか、物質の移動がプレートテクトニクスを駆動させるのに十分であるか否かを予想することができる。

これらのモデルに供給する情報を収集するため、地質学者たちは、Feiらのように、合成した岩石を高温・高圧にさらして太陽系外惑星の内部を再現する実験を行うようになった。実験の目標は新しいが、手法自体は新しいものではない。実験岩石学者たちは何十年も前から、表面下数cmの深さから地球のコアまで、地球内部のあらゆる深さの条件をシミュレーションするための装置を製作してきた。多くは、ダイヤモンドアンビルセル(diamond anvil cell)という装置を使う(Nature ダイジェスト 2016年9月号「地球の内核と磁場形成に新たな議論!」参照)。この装置は、宝石レベルの品質のダイヤモンドを2つ使い、平らに研磨したそれぞれの先端同士を押し付けてサンプルに高圧をかける。圧力をかけている間に、レーザーを使って加熱することもできる。同時に、サンプルにX線を照射して結晶構造を調べ、高温・高圧になった物質がどのように変化するかを調べることもできる。

アリゾナ州立大学の鉱物物理学者Sang-Heon Dan Shimらのグループは、この手法を用いて、かに座55番星eの組成を再現していると考えられる、炭素を豊富に含むサンプルに圧力をかけてみた。その結果4、炭素の化合物である炭化物を多く含む惑星がどのようにして熱を輸送するかや、ケイ酸塩を多く含む地球のような惑星とどのように違っているかが明らかになった。

注目されている元素は炭素だけではない。Unterbornが「ビッグ3」として挙げるマグネシウム、ケイ素、鉄は、惑星全体の構造に影響を及ぼす他、マントル中の熱の流れを変化させてプレートテクトニクスの有無を決定したり、惑星のコアの相対的な大きさを変化させて惑星全体の磁場の有無を決定したりする。これらの元素の存在比は恒星ごとに大きく異なる。太陽はケイ素原子1個につき1個のマグネシウム原子があるが、他の恒星では、マグネシウム原子の数は0.5から2までばらつきがある。それほど大きな違いには見えないかもしれないが、同じ存在比の惑星が見つかったとなれば、地質学に大きな影響を及ぼす可能性がある。

ほとんどの教科書は、マグネシウムを豊富に含む岩石はケイ素を豊富に含む岩石よりも軟らかいとしている。だとすると、マグネシウムを豊富に含む惑星の表面を歩くときには、泥の上を歩いているような感じがするのかもしれない。Shimがダイヤモンドアンビルセルを使ってさまざまなマグネシウム/ケイ素比を持つ岩石を調べた結果、マグネシウムを豊富に含む惑星のマグマだまりは、ケイ素を豊富に含む惑星より深く、壊滅的な被害をもたらす火山が多いことが示唆された。しかしShimは、鉱物中の水分濃度など、他のパラメーターも考慮しないと正確な予想はできないと注意する。

さらなる高圧を求めて

Shimがダイヤモンドアンビルセルを使ってサンプルにかけられる圧力は400ギガパスカルまでで、これは地球のコアの圧力より少し高い程度である。スーパーアースの内部を探るため、彼はSLAC国立加速器研究所(米国カリフォルニア州メンロパーク)にあるLCLS(Linac Coherent Light Source:ライナックコヒーレント光源)という世界最高輝度のX線レーザーを利用した。この装置はサンプルの内部に衝撃を与え、600ギガパスカルという高圧をかけることができる。これは、地球の2倍の質量を持つ惑星のコアをシミュレーションするのに十分な圧力だ。

地質学者たちは、他の大規模施設も利用して、太陽系外惑星の組成を探ろうとしている。Zマシンは1000ギガパスカル(地球の3倍近い質量の惑星の内部で予想される条件)の圧力を発生させることができる。フランスのエコール・ポリテクニーク(パレゾー)のLULI2000レーザーや、大阪大学レーザー科学研究所の「激光II号」レーザーシステムも、これに匹敵する圧力を発生させることができる。ローレンスリバモア国立研究所(米国カリフォルニア州リバモア)の国立点火施設に頼った研究者もいる。ここは核融合の研究に利用される施設で、サンプルに木星深部の圧力に匹敵する5000ギガパスカルもの高圧をかけることができる。こうした施設では利用時間を巡る研究者間の競争が激しく、各種の基礎化合物のデータをゆっくりとしか蓄積できない。そのため、実験はまだ予備的な段階にある。

惑星地質学者たちの最終的な目標は、地球に似た地質を持つ太陽系外惑星がどのような元素の組み合わせからできているかを解明することにある。オハイオ州立大学(米国コロンバス)の地質学者Wendy Paneroは、「組成のゴルディロックスゾーンを特定したいのです」と言う。「軟らかすぎず、硬すぎないハビタブルゾーンの岩石の組成とは、どのようなものでしょうか?」。

明快な答えは出ないかもしれない。組成が完全に分かっていたとしても、惑星地質学者が惑星の状態について話せることは多くはない可能性がある。地球を例にとっても、現在の地球にはプレートテクトニクスがあるが、初期にはなく、今後も存在し続けるとは考えられていない。すぐ隣の軌道を公転する金星は、惑星進化の幅の大きさを痛感させる天体だ。地球と金星の質量、半径、組成、太陽からの距離はよく似ているが、地球には生命がいるのに、金星は二酸化炭素の靄に包まれた灼熱の死の世界だ。コロラド大学ボルダー校(米国)の地質学者Stephen Mojzsisは、地球のプレートテクトニクスがなくなれば、最終的には金星と似た天体になるだろうと考えている。「それは必然です。ただ、いつそうなるかは分かりません」とMojzsis。惑星地質学者が構築した初期の太陽系外惑星モデルのほとんどが組成に注目したものになっているが、こうした点を考慮すると、最終的には数十億年に及ぶ惑星の進化などの要素を追加する必要があるかもしれない。

惑星地質学的な研究から、天文学者が地球外生命探査の標的惑星を決定するのに役立つ情報が得られることを期待する人々もいる。惑星が何十億年も磁場を保持するのに必要な条件や、マントル対流を駆動するのに必要な元素の割合が明らかになれば、そうした基準を満たす惑星を詳細に調べるように助言することができるからだ。助言を受けた天文学者は、2019年に打ち上げが計画されているNASA(米航空宇宙局)のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などの強力な望遠鏡を使って惑星の大気を調べ、地球外生命の存在を示唆する特徴を探すことができるだろう。

地球にいながらにして、太陽系外惑星の地質学活動を発見できる可能性もある。例えば、大気中の硫黄濃度が一時的に急上昇するのは、活火山の存在を示す間接的な証拠なのかもしれない。また、惑星の自転に伴い反射率が変化するのは、大陸と海洋の存在、ひいてはテクトニック活動の存在を示唆しているのかもしれない。

実はすでに、かに座55番星eの火山活動を検知した可能性がある。2016年、ベルン大学(スイス)の天文学者Brice-Olivier Demoryらは、NASAのスピッツァー赤外線宇宙望遠鏡を使って、この惑星の最初の熱地図を発表している5。この惑星は自転と公転が同期する潮汐ロックという現象により常に主星に同じ面を向けているため、一方の半球は永遠に光を浴び、他方の半球は暗いままだ。それなら、惑星の表面で最も高温になっている場所は主星に最も近いところであるはずだが、Demoryらはそこからずれていることを明らかにし、溶岩流が熱を輸送しているのではないかと推測している(より最近の研究6では、溶岩ではなく風が原因である可能性が示唆されている)。

かに座55番星eが生命の居住に適した場所でないことは明らかだ。しかし、他の太陽系外惑星は、もっと生命に優しいかもしれない。Unterbornは2017年に、太陽に似た恒星1000個以上の元素組成を調べる研究を完成させた7。彼はこの組成を利用して、自分が調べた恒星の3分の1に、マントル中に沈み込めるだけの密度のある(つまり、数十億年にわたってプレートテクトニクスを起こすことができる)地殻を持つ惑星が存在する可能性があると推定している。

研究者たちが太陽系外惑星の地質を調べるようになってからまだ日は浅いが、Carlsonによると、惑星が元の軌道から大きく移動したように見える証拠8をつかんだことなど、意外な発見がすでにいくつもあるという。この発見は、太陽系の進化について天文学者に再考を促し、同様の移動が、地球に氷などを運んでくるのに役立っていたとする理論の構築につながった。

「人間の想像力も創造性も、自然には到底及ばないと、私は思っています」とCarlsonは言う。「宇宙に存在する天体の多様性を理解することで、私たちの目は、これまで考えつかなかった可能性に向かって開かれるのです。そうした可能性が、私たちの置かれた状況をよりよく理解するのを助けてくれるのです」。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180315

原文

The labs that forge distant planets here on Earth
  • Nature (2017-12-07) | DOI: 10.1038/d41586-017-07844-y
  • Shannon Hall
  • Shannon Hallは、米国ニューハンプシャー州ハノーバー在住のフリーランスのジャーナリスト。

参考文献

  1. Endl, M. et al. Astrophys. J. 759, 19 (2012).

  2. Gillon, M. et al. Astron. Astrophys. 539, A28 (2012).

  3. Madhusudhan, N., Lee, K. K. M. & Mousis, O. Astrophys. J. 759, L40 (2012).

  4. Nisr, C. et al. J. Geophys. Res. Planets 122, 124–133 (2017).

  5. Demory, B.-O. et al. Nature 532, 207–209 (2016).

  6. Angelo, I. & Hu, R. Astron. J. 154, 232 (2017).

  7. Unterborn, C. T. et al. Preprint available at https://arxiv.org/abs/1706.10282 (2017).
  8. Triaud, A. Nature 537, 596–597 (2016).