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色で身を隠していた羽毛恐竜

シノサウロプテリクスの想像図 Credit: ROBERT NICHOLLS

1996年、中国遼寧省で羽毛の痕跡を有する小型肉食恐竜の化石が発見された。シノサウロプテリクス(Sinosauropteryx)と命名されたこの獣脚類は、非鳥類型恐竜として初めて羽毛に覆われていたことが示された恐竜となった。その後、2010年に尾が褐色と白色の縞模様であったことが示され1、今度は初めて体色が特定された恐竜の1種となった。そして今回、新たな分析から、この輝かしい経歴を持つシノサウロプテリクスの全身の体色パターンが再現され、背部が暗くて腹部が明るい「カウンターシェイディング」と呼ばれる隠蔽色をしていたことが明らかになった。顔には、目の周りにアライグマのような「盗賊マスク」模様もあったという。この成果は、Current Biology 2017年11月6日号2に掲載された。

ブリストル大学(英国)の純古生物学者Jakob Vintherらは今回、羽毛の痕跡と微量の色素とが残された極めて保存状態の良いシノサウロプテリクスの化石標本3体について、高解像度の写真技術を使って羽衣の生え方や色の詳細を調べた。その結果、顔にはちょうど目を囲むように帯状の褐色の模様があり、尾の縞模様は先端にいくほど幅が広くなっていて、胴体は体の側面の上から約3分の2が褐色で残りが白色のカウンターシェイディングパターンをしていたことが明らかになった。

現生動物に見られるカウンターシェイディングは、背景に同化したり体の輪郭をぼかしたりして捕食者などから身を隠すためのものだが、そのパターンは環境によって異なる。太陽の光が直接降り注ぐ開けた土地に生息する動物では、暗色と明色の境界が明瞭で、その境界は体の側面の比較的高い位置にあるのに対し、森林内のように散乱光がさまざまな方向から当たる環境に生息する動物では、暗色から明色へは緩やかなグラデーションになっていて、その推移部は体の側面のより低い位置にある。Vintherらは、シノサウロプテリクスの体色パターンがどのような光環境で最も有効だったかを検証するため、この恐竜の胴部の3Dモデルを作製し、さまざまな照明条件で写真を撮影した。すると、散乱光で生じた影よりも直接光で生じた影の方が、モデルのカウンターシェイディングパターンとよく一致した。これは、シノサウロプテリクスが開けた環境で生息していたことを示唆しているという。

Vintherらはまた、その特徴的な顔の模様についても考察している。目の周りの帯状の「盗賊マスク」模様は、現生の鳥類や哺乳類に多く見られ、さまざまな機能が提案されている。その1つに眩しさの低減があり、これは直接光に照らされた環境では特に有用と考えられる。シノサウロプテリクスの化石が発見された湖畔環境では、水面からの反射で眩しさが増すため、この模様が役立っていた可能性がある。

「最近の顕微鏡技術や写真技術、3D画像化技術の大きな進展で、古生物学界に大改革がもたらされています」と語るのは、中国地質大学(北京)の古生物学者Lida Xing(邢立達)だ。彼はまた、今回のような研究によって、前期白亜紀(約1億3300万~1億2000万年前)の中国東北部の生態系がどんどん解明されている、と話す。

香港大学の古脊椎動物学者Michael Pittmanは、Vintherらが提唱するカウンターシェイディング仮説を非常に興味深いとした上で、「シノサウロプテリクスの別の標本や、他の獣脚類でも同様のパターンが見られるかどうかが知りたいところです」と語る。

Vintherは、小型の草食恐竜であるプシッタコサウルス(Psittacosaurus)や、体重1.3tほどの曲竜類ボレアロペルタ(Borealopelta)など、他の種類の恐竜でも類似のカウンターシェイディングパターンが見られたことを示した研究(Nature ダイジェスト2017年11月号6ページ「『鎧竜』の鋭い突起はディスプレイ用だった?」参照)にも関与している。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180212

原文

Camouflage plumage patterns offer clue to dinosaur’s habitat
  • Nature (2017-11-02) | DOI: 10.1038/nature.2017.22891
  • John Pickrell

参考文献

  1. Zhang, F. et al. Nature 463, 1075–1078 (2010).
  2. Smithwick, F. M., Nicholls, R., Cuthill, I. C. & Vinther, J. Curr. Biol. http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2017.09.032 (2017).