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よみがえる謎の超新星

1954年にパロマー天文台が撮影した画像(左)は、iPTF14hlsと同じ場所で爆発が起こっていたことを示している。1993年の画像(右)には爆発は見られない。 Credit: POSS/DSS/LCO/S. Wilkinson.

太陽の約8倍以上の質量を持つ星が死ぬとき、その星はつぶれてブラックホールになるか、超新星爆発を起こす1。超新星爆発を起こす場合には通常、中性子星と呼ばれる星の残り物が形成されることにより、星の中心で爆発が起こり、周囲の物質を高速で排出する。この物質の拡大が閉じ込められていたエネルギーを解放し、太陽の約1億倍に相当する、おおむね一定の光度を約100日間保った後、衰える。130日以上、光が持続する超新星は極めてまれだ2。今回、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(米国)のIair Arcaviらは、iPTF14hlsと名付けられた超新星が600日以上も輝き、これまでに観測された中で最も長続きした超新星になったことをNature 2017年11月9日号210ページで報告した3

超新星iPTF14hlsは2014年9月、パロマー天文台(米国カリフォルニア州サンディエゴ)で行われているサーベイ計画「中間パロマー過渡現象ファクトリー」(Intermediate Palomar Transient Factory)で発見された。iPTF14hlsは当初、すでに爆発過程がかなり進んだ段階の通常の超新星のように見えた。iPTF14hlsは、その後数カ月間に何回か観測され、結局、2015年1月にII-P型と呼ばれるありふれたタイプの超新星に分類された4。しかし、その後、iPTF14hlsの光が衰えないため、Arcaviらはこの超新星に注目し始めた。

iPTF14hlsは光が衰えないだけではなかった。その持続期間が数カ月どころか年単位に延びるうちに、まるで何度も爆発しているかのように明るさが不規則な時間スケールで50%も変化した。iPTF14hlsは、これまでに観測された最も明るい超新星の1つというわけではなかったが、通常のII-P型超新星よりも明るく、また、長く続くことによって、通常のII-P型超新星よりもずっと多くのエネルギーを放射した。

iPTF14hls(黄色)と通常の超新星(青色)の明るさの時間変化。iPTF14hlsは、発見から600日にわたって輝き、明るさのピークは少なくとも5回あった。通常の超新星は、100日ほど明るさを保った後、暗くなる。 Credit: LCO/S. Wilkinson.

iPTF14hlsは、その光の明るさが衰えない上に、光のスペクトルも変化が少なかった。通常、超新星が拡大するとき、中心により近い場所にある、より速度の遅い物質が見えるようになり、スペクトル線は狭くなる。しかし、iPTF14hlsの場合、光放出領域は超新星の持続期間を通じて同じ速度を維持したことをArcaviらは見いだした。

この観測結果は、排出された物質が作る、1つの「殻」からの放出を観測したのであればおかしくはないかもしれない。しかし、そうした殻の半径は時間と共に大きくなるはずだ。放射理論によると、何かが大きくなりつつもその光度を保つならば、その温度は下がらなければならない。iPTF14hlsの観測結果は、予想に反して、光放出領域は同じ温度(約6000ケルビン)にとどまり、領域の半径はおおよそ一定であることを示した。いったい何が起こっていたのだろうか?

超新星が輝く原因は、次の4つのうちの1つだ5。つまり、(1)放射性崩壊、(2)大質量星の衝撃波で加熱された外層が拡大し、冷えるときに外層から放出される放射(通常のII-P型超新星)、(3)運動エネルギーを光に変える、殻同士の衝突(IIn型超新星)、(4)マグネターなどの中心のコンパクトな恒星状天体からの放射、だ。iPTF14hlsの場合、今回の放射を適切に説明するような寿命を持つ同位体は、この爆発には十分には存在しないため、放射性崩壊は除外できる。同様に、衝撃波によって加熱された外層からの放射だとしたら、星の進化に関する私たちの理解と矛盾するような、外層質量と爆発エネルギーが必要になる。

このため、iPTF14hlsを説明できるのは、マグネターあるいは殻同士の衝突ということになる。Arcaviらは、両者の可能性を調べ、これらの最も単純なモデルも除外した。Arcaviらは、今回の事象には適してはいない可能性がある標準的な公式を使い、マグネターの初期の光度はあまりに高く、観測結果を説明できないと結論した。また、IIn型超新星の典型的な殻同士の衝突であれば、iPTF14hlsでは観測されなかったX線と電波の放出を生み、観測されたよりも狭いスペクトル線を作るはずだ。

標準的な理論モデルの全てを除外したArcaviらは、これらとは別のシナリオなら説明できるのではないかと考えた。脈動性対不安定型と呼ばれる超新星だ6。このモデルでは、極めて大質量の星が死ぬ過程で、核融合の最終段階での激しい熱核不安定性が超新星に似たアウトバースト(急激な増光現象)の繰り返しを引き起こす。それぞれのアウトバーストは、太陽質量の数倍の物質をパルス状に排出し、星を破壊することのないまま、長期間、パルス状排出を続ける。太陽質量の105倍に近い質量で生まれた星の場合、アウトバーストは約2年続くことが可能であり、iPTF14hlsの時間スケールと一致している。

このモデルは、この星が激しいパルスの前の恒星風と、今回の爆発以前に起こったパルスで、その質量の半分ほどを失うことも予測する。Arcaviらは、60年前の1954年に、iPTF14hlsと同じ場所で、以前のパルスに相当する可能性のある爆発が起こっていたことを指摘している。最初のパルスでは太陽質量の約10倍の質量が排出される。複数回のパルスの後、残りの太陽質量の40倍ほどの質量がブラックホールへつぶれる。逃れそびれた物質が降着して追加の光度をもたらすかもしれない。

脈動性対不安定型超新星は、決定的な形で観測されたことはないが、理論的には、殻同士の衝突の結果として放射が生じる(図1)。これらの殻は、IIn型超新星の殻よりも速く運動し、最初のパルスで最も高速の物質が排出される。その結果、殻は源から遠くで衝突し、放出された放射は、超新星が拡大する際に閉じ込められて冷却されることなく、容易に逃れることができる。そうした多数の殻を合わせた運動エネルギー(ほぼ1051エルグ)は、iPTF14hlsから放射された合計エネルギーを説明できる。

図1 脈動性対不安定型超新星
超新星(大質量星の爆発的な死)の明るさは通常は数カ月で衰えるはずだ。しかし、今回、ある超新星が2年を超えて明るく輝き続けたことをArcaviらは報告した3。彼らは、この事象は、脈動性対不安定型超新星6と呼ばれるモデルで説明できるかもしれないと提案する。このモデルでは、星の水素に富む表層(赤色)が最初に排出される。物質のこの「殻」は、その後約1年間で約2000天文単位(AU、1AUは地球・太陽間の平均距離に相当する)を進む。その後、別の殻(青色と緑色)が排出される。各殻はある範囲の速度分布を持つ物質を含んでいて、最も高速の物質が外側にある。超新星(殻)が拡大するとき(緑色の矢印)、1つの殻の前縁は、以前に排出された殻の内側に、超新星の中心から約200AUの距離で衝突する。これが放射を生み出し、放射の一部は、最終的に外へ出て行く前に周囲の物質に散乱される。この星は、やがてブラックホールにつぶれる(図には示されていない)。

しかし、このシナリオにはいくつかの問題がある。例えば、このモデルは、超新星の温度が一定である理由を説明しない。さらにArcaviらは、観測されたいくつかのスペクトル線を説明するには、太陽質量の数十倍の質量の高速の排出が必要だと見積もる。そのような排出には、脈動性対不安定型超新星で供給され得るエネルギーの約20倍のエネルギーが必要だろう6。しかし、Arcaviらの見積もりは不確かであり、超新星が常に黒体として放射を出す(特定のスペクトルの光を放出する)ことを仮定している。実際、殻同士の衝突は、余分な電離放射線を供給した可能性があり、これは必要なエネルギーを小さくするが、そのような放射は検出されなかった。

今のところ、iPTF14hlsの観測された放射と一定の温度を説明できる詳細なモデルは発表されておらず、まして、今回の超新星の60年前に起こった爆発を説明するモデルはない。iPTF14hlsをより深く理解できれば、最も大質量の星の進化や、最も明るい超新星の発生、さらには、初めて直接検出された重力波の源のように7、太陽質量の40倍に近い質量を持つブラックホールの誕生に関する理解が進む可能性がある。超新星は今、天文学者たちが最高にわくわくする対象、つまり、「彼らが理解していないもの」となっている。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180234

原文

The star that would not die
  • Nature (2017-11-09) | DOI: 10.1038/551173a
  • Stan Woosley
  • Stan Woosleyは、カリフォルニア大学サンタクルーズ校天文学・宇宙物理学科に所属。

参考文献

  1. Smartt, S. J. Annu. Rev. Astron. Astrophys. 47, 63–106 (2009).
  2. Anderson, J. P. et al. Astrophys. J. 786, 67 (2014).
  3. Arcavi, I. et al. Nature 551, 210–213 (2017).
  4. Li, W., Wang, X. & Zhang, T. Astron. Telegr. 6898 (2015).
  5. Sukhbold, T. & Woosley, S. E. Astrophys. J. 820, L38 (2016).
  6. Woosley, S. E. Astrophys. J. 836, 244–279 (2017).
  7. Abbott, B. P. et al. (LIGO Scientific Collaboration and Virgo Collaboration) Phys. Rev. Lett. 116, 061102 (2016).