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ペイウォールをなくすための過激な計画

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2018.181216

原文:Nature (2018-09-04) | doi: 10.1038/d41586-018-06178-7 | Radical open-access plan could spell end to journal subscriptions

Holly Else

欧州を代表する研究助成機関が、全ての科学論文を出版と同時に無料で読めるようにするための「プランS」を発表した。

欧州委員会のオープンアクセス担当特使Robert-Jan Smits。急進的なオープンアクセスイニシアチブ「cOAlition S」を推進する役割を担う。 | 拡大する

Nikolay Doychinov/EU2018BG

2018年9月4日、フランス、英国、オランダなど欧州の11カ国の研究助成機関が急進的なオープンアクセスイニシアチブ「cOAlition S」の発足を宣言した。このイニシアチブはわずか2年で科学出版の様相を一変させる可能性があり、発表の途端、学術出版社から抗議の声が上がった。

毎年総額1兆円以上の研究助成金を支出しているこの11機関は、2020年1月1日以降、自分たちが助成する科学者に対し、研究成果である論文を、出版と同時に無料で読めるようにすることを要求するという。つまり著者は、論文に「自由出版許諾(liberal publishing license)」を与え、誰でも論文をダウンロードでき、翻訳でき、またその他の方法でも再利用できるようにしなければならない。このイニシアチブの発足と同時に、その原則をまとめた「プランS(Plan S)」が発表され、そこには「いかなる科学もペイウォール(課金の壁)の後ろにしまい込まれてはならない!」という文言を含む前文が付されている。

ロンドン大学インペリアルカレッジ(英国)の構造生物学者でオープンアクセス擁護派であるStephen Curryは、「非常に強力な宣言です。論争を呼び、人々の感情を強く揺さぶることでしょう」と評価する。科学論文をオンライン上で自由に利用できるようにしようとするオープンアクセス運動の進捗は遅いが、このイニシアチブのポリシーは「重大な変化」を引き起こすだろう。

「プランS」の発効後は、研究者は即時オープンアクセスではない学術誌で論文を出版することができなくなる。そうした学術誌は全体の85%に上り、その中には、NatureScience などの影響力の大きいものも含まれている。2017年の分析によれば、即時オープンアクセス方式をとる学術誌は約15%にすぎず、そうした学術誌は、著者に論文掲載料を課すか、著者の研究助成機関と交渉して一般的なオープンパブリッシング契約を結ぶなどして資金を得ている(「さまざまな出版形式」参照)。

現在でも3分の1以上の学術誌がペイウォールの後ろで論文を出版していて、典型的には、出版から半年以上経過した論文のみ、無料で読めるバージョンをオンラインで公開することを許可している。半数よりもやや少ない学術誌は、著者が希望すれば即時オープンアクセスとすることができるが、ほとんどの論文はペイウォールの向こうにあるという「ハイブリッド」出版モデルを採用している。けれどもプランSの下では、短い移行期間を過ぎたら、科学者たちはハイブリッド型学術誌で論文を出版することはできなくなる。プランSは、研究助成機関が負担するオープンアクセス出版費用に上限を設けるとしているが、どこを上限とするかは明記していない。

さまざまな出版形式
2012~2016年の間に、世界中で購読型のみの学術誌*の割合が減少し、オープンアクセス誌とハイブリッド型学術誌の割合が増加している。
*Scopusデータベースより。ハイブリッド型学術誌は購読誌だが、著者が自分の論文の掲載料を支払うことで、論文ごとにオープンアクセス化ができる。数字は四捨五入してあるため、合計は100%にはならない。 | 拡大する

SOURCE: UNIVERSITIES UK

イニシアチブを立ち上げたのは欧州の研究助成機関と研究実施機関の擁護団体サイエンス・ヨーロッパ(Science Europe)で、欧州委員会のオープンアクセス担当特使Robert-Jan Smitsがこれを率いる。Smitsによると、プランSの「S」は、「科学、スピード、ソリューション、ショック(science、speed、solution、shock)」を表すという。プランSには、オーストリア、アイルランド、ルクセンブルク、ノルウェー、ポーランド、スロベニアの国家機関の他、スウェーデンとイタリアの研究助成機関も署名している(註:9月24日にはフィンランド、10月9日にはスウェーデンのもう1つの助成機関が加わり、イニシアチブに参加する国立研究助成機関は12カ国の13機関となった。また、11月5日には慈善団体としてゲイツ財団と英国のウェルカムトラストも加わった)。

SmitsはプランSの策定に当たり、世界的な慈善団体ビル&メリンダ・ゲイツ財団(米国ワシントン州シアトル)のオープンアクセスポリシーを参考にしたという。ゲイツ財団のポリシーも即時オープンアクセスでの出版を要請しているが、プランSはハイブリッド出版を禁じている上、複数の研究助成機関が関わっているため、その影響ははるかに広範に及ぶことになる。

上述のとおりSmitsは欧州委員会の人間だが、欧州委員会自体はプランSに署名していない。しかしSmitsは、将来的には欧州委員会からの研究助成金にもこの要請が付されることを期待していると言う。彼はまた、より多くの研究助成機関の参加を期待しており、10月には米国でもプランSに関する話し合いを持ったと話す。

プランSについてコメントを求められた出版社は、深刻な懸念を持っていると回答した。彼らが特に問題視しているのはハイブリッド型学術誌での出版も禁止されることである。145の科学・技術・医学出版社を代表するSTM国際出版社協会(International Association of Scientific, Technical and Medical Publishers、英国オックスフォード)のスポークスマンは、Nature のニュースチームに対して、査読付き科学論文へのアクセスを拡大しようとする研究助成機関の取り組みは歓迎するが、プランSの一部の項目は「学問の自由に対するあらゆる意図せぬ制限を避ける」ための慎重な配慮を必要とすると語る。中でも、オープンアクセス論文の利用可能性を広げてきたハイブリッド型学術誌を禁止することは「移行を大幅に遅延させる恐れがある」と指摘する。

出版社のエルゼビアは、STMのコメントを支持すると語った。シュプリンガー・ネイチャーのスポークスマンは、「研究助成機関には、相容れない小さなグループとして活動せずに、足並みを揃えてくれることを望みます」と語り、研究者から出版の選択肢を奪うことは、「科学とその対話は国際的なものであることを考えておらず、学術出版システム全体の土台を崩す可能性がある」と言い足した(Nature のニュースチームは同社に対し編集の独立性を保っている)。

Curryは、世界の出版ビジネスモデルが購読からオープンアクセスへと移行する過程で、新たな問題が生じる可能性があると忠告する。貧しい国の科学者が論文をオープンアクセス出版するにはどうすればよいか、という問題だ。「その点についても話し合う必要があります」と彼は言う。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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