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パンケーキ形の奇妙な化石は最古の動物だった

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2018.181202

原文:Nature (2018-09-20) | doi: 10.1038/d41586-018-06767-6 | World’s first animal was a pancake-shaped prehistoric ocean dweller

Jeremy Rehm

太古の海生生物の化石から、動物がどのように大型化し複雑化したかに関する長年の疑問を解明するための足掛かりが得られた。

5億5800万年前に海に生息していたディッキンソニアという奇妙な生物の化石。 | 拡大する

Ilya Bobrovskiy/Australian National University

キノコのかさの裏側のような多数のひだが印象的なパンケーキ形の化石は、知られるうちで地球史上最古の「動物」の痕跡であるとする報告が、Science 2018年9月21日号に掲載された1。この研究結果は、化石に残存する脂質分子の化学分析に基づいたもので、動物や他の複雑な生物が出現した経緯に関する現在の見方を変える可能性がある。

この化石はディッキンソニア(Dickinsonia)と呼ばれる分類群で、最初に発見されたのは1940年代後半のことだ。この種は、エディアカラ紀に当たる5億5800万年前の地球で海洋に最も広く生息していた生物の1つだった。当時の生物の大きさは大半が微視的サイズから長さ数mmまでだったが、ディッキンソニアは成長して長さ1.4mにもなるものがあった。

ディッキンソニアの大きさは科学者らの困惑の種となってきた。というのも、この生物が生息していた年代は、生物が大型化し大半の主要な動物分類群が出現した5億4100万年前の「カンブリア爆発」より数千万年も前なのだ(2016年5月号「カンブリア爆発の『火種』」参照)。そのため、ディッキンソニアの正体は原始的な動物なのか、それとも原生動物と呼ばれる巨大な単細胞生物や、細菌コロニー、あるいは全く別の何かなのだろうかと、化石の発見以来ずっと議論されてきた。

化石に残る脂質

今回の研究成果を報告したオーストラリア国立大学(キャンベラ)の古生物地球化学者Jochen Brocksのチームは、化石に残存する環状の脂質分子ステロールを調べた。この分子は、細胞を包む膜に組み込まれて膜の柔軟性や流動性を維持する役目をする。植物や動物、菌類、細菌は全てステロールを含むが、大勢を占めるステロールの種類は分類群ごとに異なっている。動物は主にコレステロールを作り、岩の表面などに見られる彩り豊かな堅い地衣体を作る菌類(地衣類と呼ばれる)はエルゴステロールのみを持つ。ステロールは適切な条件下であれば数百万年にわたって残存可能なので、化石化した生物の進化上の類縁関係を決定する際に役に立つ。

このように残存するステロールを含む化石は稀にしかない。しかし、ロシア北西部の白海沿岸には、エディアカラ紀の生物が散在している地層があり、代表的な生物であるディッキンソニアなどの化石が、化石化した藻類マットに埋もれ、有機物や脂質が完全に保存された状態で薄層として残っていた。「ディッキンソニアのミイラのようなものです。これらの化石を見つけられたのは信じられないほど幸運なことでした」とBrocksは話す。

Brocksのチームがディッキンソニアや藻類マットなどの化石を解析してみると、バイオマーカー試料の組成に劇的な違いが見つかった。周囲の岩石や藻類マットではコレステロールが約10%のみで、緑藻に広く見られる別種のステロールが75%含まれていたが、ディッキンソニア化石にはコレステロールが93%も含まれていた。これは、ディッキンソニアがカンブリア爆発より1700万年前に生息していた太古の動物であったことを物語っている。

残存脂質を利用したBrocksらの解析手法は、ディッキンソニアの進化系統樹上の位置を決定する方法として従来と全く異なるものであり、「実に独創的だと思います」とクイーンズ大学キングストン校(カナダ)の古生物学者Guy Narbonneは話す。化学分析に基づいた今回の知見は、ディッキンソニアが原始的な動物であったことを示す他の証拠を補強するものだと彼は言う。他の証拠とは、ディッキンソニアが餌を求めてあちこちへ動いたことを示す「移動の痕跡」の化石や、現在の大半の動物のものと一致する成長パターンなどだ。

今回の最新の研究は、先カンブリア時代(エディアカラ紀を含む)からカンブリア紀への移行が、ある動物群集が別の動物群集に置き換わるだけの普通の生物絶滅事象であったことも示唆しているとBrocksは話す。「ただし現在のところ、ディッキンソニア以外の全ての奇妙な生物たちについては正体が絞り込めていません」。

現存する生物のDNAを比較し、それらの進化系統樹をさかのぼって追跡した解析から、動物はカンブリア紀より1億年以上前に出現したことが示唆されている2。この年代はディッキンソニアの生息年代よりかなり前だ。しかし、そうした太古の動物と考えられる化石を見つけることも、また、それらが動物であると証明することも、いまだに難しい。

例えば、フラクタル状に分枝する管を備えたエディアカラ紀の奇妙なシダ様生物「ランゲオモルフ」は、現生生物との類縁関係がはっきりせず、いまだに謎に包まれた生物分類群である。「我々の次の重要な研究課題はこの生物です」とBrocksは話す。「これらの奇妙な生物の化石を手に入れて、その正体を解き明かそうと思っています」。

(翻訳:船田晶子)

参考文献

  1. Bobrovskiy, I. et al. Science 361, 1246–1249 (2018).
  2. dos Reis, M. et al. Curr. Biol. 25, 2939–2950 (2015).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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