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ノーベル物理学賞は革新的なレーザー技術に

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2018.181208

原文:Nature (2018-10-02) | doi: 10.1038/d41586-018-06752-z | Physics Nobel won by laser wizardry — laureates include first woman in 55 years

Davide Castelvecchi, Elizabeth Gibney & Matthew Warre

女性がノーベル物理学賞を受賞するのは55年ぶりだ。

今年のノーベル物理学賞の受賞者を発表するノーベル委員会のメンバーたち。 | 拡大する

HANNAH FRANZEN/AFP/GETTY

2018年のノーベル物理学賞は、強力なレーザー光線を利用して超高速プロセスを捉えたり微小な物体を操作したりする研究を行った3人のレーザー科学者に授与される。その1人であるワーテルロー大学(カナダ・オンタリオ州)のドナ・ストリックランド(Donna Strickland)は、女性として55年ぶりにノーベル物理学賞を受賞する。

賞金900万スウェーデンクローナ(約1億1000万円)の半分は、ストリックランドと、彼女のかつての指導教員で、現在はエコール・ポリテクニーク(フランス・パレゾー)に所属するジェラール・ムル(Gérard Mourou)が分け合うことになる。残りの半分は、ベル研究所(米国ニュージャージー州ホルムデル)のアーサー・アシュキン(Arthur Ashkin)に授与される。

ストリックランドとムルは、持続時間がこれまでで最も短く、最も高強度の光のパルスを生成する手法を開拓した。こうした超短パルスは、今日の科学の全領域で、かつては瞬間的にしか見えなかったプロセス(例えば原子内の電子の運動)を解明するために利用されている。アシュキンの受賞理由は「光ピンセット」、すなわち、ウイルスや細胞などの微視的な物体をつまんだり制御したりすることができるレーザー光線の開発である。

10月2日に受賞を告げられた時、ストリックランドは「誰だって最初は『まさか』と思いますよね。私もそう思いました。今でもしょっちゅう、これは現実なのだろうかと思います」と語っている。

ストリックランドは、ノーベル物理学賞を受賞した3人目の女性である。2人目の女性受賞者であるマリア・ゲッパート・メイヤー(Maria Goeppert Mayer)の受賞は1963年のことだった。「うまい言葉が見つかりませんが、3人のうちの1人になれて光栄に思います」とストリックランドは言う。スウェーデン王立科学アカデミー(ストックホルム)の事務総長Göran K. Hanssonは、同アカデミーは女性科学者のノミネートを促すための「策を講じている」が、これらの策は今年の賞には影響を及ぼしていないと言う。

強力なパルス

持続時間の短いレーザーパルスは、一瞬で終わってしまうようなプロセスを探ることを可能にする。しかし、ストリックランドとムルの技術が開発されるまでは、そうしたパルスの強度は制限されていた。高強度のパルスを作ろうとすると、それを作るために必要な増幅器が壊れる恐れがあったからだ。2人の手法の画期的な点は、レーザーパルスを時間的に引き伸ばしたことだった。引き伸ばされた光の強度は低くなるため、従来の増幅器を使うことができる。この方法で増幅されたパルスを押し縮めれば、元のパルスを増幅できたことになる。この技術は、チャープ(時間的に周波数を変化させた信号)を操作することからチャープパルス増幅と呼ばれる。持続時間の短いパルスは生体を損傷しにくいので、レーザー眼科手術に応用できることも分かった。フランシュ=コンテ大学(フランス・ブザンソン)の光物理学者John Dudleyは、「ノーベル賞は発見または発明に対して授与されます。今回の研究は、この2つに橋を架けるものです」と言う。

96歳のアシュキンは、これまでで最高齢のノーベル賞受賞者である。彼の受賞理由となった研究は、レーザーが発明された直後の1960年に始まった。レーザーが及ぼす小さな圧力を利用して微小な物体を破壊することなく操作できることに気付いたアシュキンは、µmサイズの球体を使った実験で、光線中の強度が最も高い領域に粒子が引き付けられることを示した。この実験から、レーザーを集光して物体を捕捉したり、宙に浮かせたり、動かしたりする手法が生まれた。アシュキンは、この「光ピンセット」が細菌やウイルスや生きている細胞をつまめることにも気付いた。グラスゴー大学(英国)の光物理学者Miles Padgettは、アシュキンの研究がもたらした影響の大きさは誰もが認めるところだと言う。今日、光ピンセットは、病原体に感染した血液から健康な血液細胞を選り分けたり、ナノスケールの材料を細工したりする際など、無数の用途に応用されている。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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