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タンパク質は合成と同時に複合体に組み立てられる

小胞体の表面には多数のリボソームが付着している。 Credit: D Spector/Photolibrary/Getty

細胞過程の多くはタンパク質によって実行されている。タンパク質は一般的に、2つ以上の異なるサブユニットを含むヘテロマー複合体に組み立てられる。タンパク質のサブユニットは細胞内で自由に拡散して、無作為に起こる衝突を介して複合体を形成すると長い間考えられていたが、細胞内の環境は極めて混雑していることを考えると、これは事実ではなさそうに思われる。このほどハイデルベルク大学分子生物学センターおよびドイツがん研究センター(共にドイツ・ハイデルベルク)のAyala Shiberらは1、真核生物(動物、植物、菌類が含まれる)では、細胞質のほとんどのタンパク質複合体が翻訳と同時に組み立てられる、つまり、組み立てはサブユニットの少なくとも1つがまだ細胞のリボソーム装置によって合成されている間に起こっている証拠を生細胞内(in vivo)で得たことを、Nature 2018年9月13日号268ページで報告した。

翻訳と同時に起こるタンパク質複合体の形成をin vivoで研究することは、2009年にリボソームプロファイリング2が開発されるまで困難であった。この技術により、メッセンジャーRNA(mRNA)上のリボソームの位置が、RNA断片の塩基配列解読で決定できるようになった。この技術は通常は、翻訳の追跡に用いられる。翻訳とは、リボソームがmRNAを解読し、mRNAを鋳型として用いてタンパク質合成を行う過程である。Shiberらは選択的リボソームプロファイリング3と呼ばれる改良プロトコルを用いた。この方法では、既に別のタンパク質と相互作用している新生タンパク質鎖を合成中のリボソームを単離し、次に、そのリボソームに保護されていたRNA断片の塩基配列解読を行うことで、別のタンパク質と相互作用している新生鎖をコードするmRNAの塩基配列を明らかにする。このような塩基配列解読により、相互作用に関与するタンパク質ドメインも特定できるのは、選択的リボソームプロファイリングでは、選択した相互作用相手分子に結合しているリボソーム–新生鎖複合体(RNC)のみを単離するので、この新生鎖には、完全に露出した相互作用ドメインが含まれているからである。

Shiberらは、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)において、安定で特徴がよく分かっている12のヘテロマー複合体について、それらのタンパク質複合体が翻訳と同時に組み立てられているかどうかを調べた。すると12の複合体のうち9つが翻訳と同時に組み立てられることが分かった。翻訳と同時に組み立てられるタンパク質複合体は一部にすぎないとこれまでは考えられていたため4,5、これが広く行われている過程であるとする今回の結果は驚くべきものだ。また、組み立てが翻訳と同時に行われなかったと考えられた3つのタンパク質複合体は、専用のシャペロンタンパク質が組み立てを補助していた。Shiberらは、シャペロンの重要な機能が、タンパク質を折りたたむ際にタンパク質の誤った折りたたみやランダムな凝集を防ぐことである6ことを考えて、翻訳と同時にタンパク質複合体を組み立てることには同様の目的があるのではないかと仮定した。

Shiberらは次に、翻訳と同時に組み立てられる9つの複合体のうちの6つは、一方向性の組み立て様式であることを見いだした。つまり、1つ目のサブユニットは、2つ目のサブユニットの新生鎖と結合する前に、折りたたみが完了していなければならないが、折りたたみが完了した2つ目のサブユニットは、1つ目のサブユニットの新生鎖には結合できないのだ。これは、2つ目のサブユニットは常に、リボソームで翻訳されて新生鎖として出口トンネルから出るのと同時に組み立てに加わらねばならない、ということである。Shiberらは、折りたたみが不完全なサブユニットが作り出されるよう操作した酵母株を用いて研究を行い、この酵母では2つ目のサブユニットの新生鎖が凝集体を形成することを観察した。この結果は興味深い。つまり、翻訳と同時に組み立てを行うことで、細胞毒性を示す可能性のある凝集体の形成を実際に防いでいることを示している。

Shiberらの知見は、翻訳と同時のタンパク質複合体の組み立てが広く行われていることを示す説得力のある証拠だが、複合体が形成できるほどサブユニット同士を近づける仕組みについては明らかになっていない。これには有望な一般的モデルが2つ提案されているが、この2つのモデルは相互排他的ではない。

1つ目のモデルは、サブユニットをコードする2つのmRNAが互いに近くで翻訳されるとするものである。このような近接性は、2つのmRNAに橋渡しをするRNA結合タンパク質によって達成されると考えられる(図1a)。このようなシナリオは、ヘテロマーのイオンチャネルの組み立てにおいて示唆されている7が、ヒトのRNAとタンパク質の相互作用についてのゲノム規模の解析からは8、2つの異なるmRNAが1つのRNA結合タンパク質で橋渡しされることは稀であることが分かっている。しかし、2つのmRNAを近づけるのに物理的な結合が必須、というわけではない。というのは、ある配列モチーフを共有するmRNAは、顆粒として知られるRNAボディに共局在する可能性があり(図1b)、この状態ならば、細胞内の特定の位置での翻訳が可能だ9

2つ目のモデルは、2つのmRNAは互いに近づかないとするものである。その代わりに、RNA結合タンパク質が、折りたたみが完了したタンパク質サブユニットを、2つ目のサブユニットをコードするmRNAの非翻訳領域(3’ UTR)に誘導する。すると、このようなサブユニットは、2つ目のサブユニットが合成されると、相互作用できるようになる。哺乳類細胞では、mRNAの3’ UTRにはタンパク質が誘導されること、続いて、そのタンパク質はmRNAから新生されたタンパク質と相互作用することが示されている10(図1c)。また出芽酵母では、翻訳中のmRNAに誘導されるタンパク質は、その新生タンパク質鎖に移動する前に、一時的にリボソームに存在することが観察されている(図1d)11

図1 翻訳と同時にタンパク質複合体を組み立てるために、タンパク質サブユニットを集める方法の候補
a RNA結合タンパク質が、直接的(図示していない)あるいは別のタンパク質を介して間接的(図示)に、2つのmRNAの橋渡しをする可能性がある。この場合、1つのmRNA上で形成され、折りたたみが完了したサブユニットがリボソームから解離し(リボソームは解体されている。図示していない)、別のmRNA上の新生タンパク質と相互作用する。mRNAの太線部分は翻訳領域を表している。細線部分は非翻訳領域。
b こうした2つのmRNAは、RNAボディ内でも接近できる可能性がある。
c mRNAの3’非翻訳領域(3’ UTR)として知られる非翻訳領域に、折りたたみが完了したサブユニットがRNA結合タンパク質によって誘導されることで、このmRNAから新生されたタンパク質に近づくことができる。
d cとはわずかに異なる場合として、誘導されたサブユニットは、一時的にリボソームに位置し、次に新生タンパク質に移されることも考えられる。

3’UTRによる相互作用タンパク質の誘導は、細菌における、翻訳と同時のタンパク質複合体形成を連想させる。細菌の場合は、複合体を形成する各タンパク質サブユニットがオペロン(隣接遺伝子群のクラスターで、1つの転写単位として発現する)にコードされていることが多い12,13。そのため細菌では、新生タンパク質と相互作用できる折りたたみが完了したタンパク質は、同一オペロンにコードされているサブユニットのどれかに限られる。それに対し、真核生物における3’UTRの使用では、いくつかの異なる相互作用分子を新生タンパク質に誘導できるので、さまざまなタンパク質複合体を翻訳と同時に組み立てることができる14

相互作用するタンパク質サブユニットが近くに集まる仕組みや、複合体の誤った組み立てを防ぐ仕組みを解明するためにはより多くの実験が必要であるが、Shiberらは、タンパク質複合体の形成が、拡散ではなく誘導機構に依存して、特異的なタンパク質間相互作用を達成していることを実証した。これらの知見は、ほとんどの細胞過程が相互に関係していることを示唆する多数のin vivo観察に付け加えられる。mRNAは、タンパク質をコードするだけでなく、細胞質においてタンパク質の区画化を補助したり、翻訳が起こる場所の局在を調節したりすることで、タンパク質複合体の成熟のための特異性も高めている。哺乳類細胞の安定なタンパク質複合体の大部分が翻訳と同時に組み立てられるかどうかは明らかではないが、恐らくそうだと考えられる。

翻訳:三谷祐貴子

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2018.181236

原文

Protein complexes assemble as they are being made
  • Nature (2018-09-13) | DOI: 10.1038/d41586-018-05905-4
  • Christine Mayr
  • Christine Mayrは、スローン・ケタリング記念がんセンター(米国ニューヨーク)に所属。

参考文献

  1. Shiber, A. et al. Nature 561, 268–272 (2018).
  2. Ingolia, N. T., Ghaemmaghami, S., Newman, J. R. S. & Weissman, J. S. Science 324, 218–223 (2009).
  3. Becker, A. H., Oh, E., Weissman, J. S., Kramer, G. & Bukau, B. Nature Protocols 8, 2212–2239 (2013).
  4. Halbach, A. et al. EMBO J. 28, 2959–2970 (2009).
  5. Duncan, C. D. S. & Mata, J. PLoS Genet. 7, e1002398 (2011).
  6. Ellis, R. J. Adv. Exp. Med. Biol. 594, 1–13 (2007).
  7. Liu, F., Jones, D. K., de Lange, W. J. & Robertson, G. A. Proc. Natl Acad. Sci. USA 113, 4859–4864 (2016).
  8. Sugimoto, Y. et al. Nature 519, 491–494 (2015).
  9. Yasuda, K. et al. J. Cell Biol. 203, 737–746 (2013).
  10. Berkovits, B. D. & Mayr, C. Nature 522, 363–367 (2015).
  11. Chartron, J. W., Hunt, K. C. L. & Frydman, J. Nature 536, 224–228 (2016).
  12. Shieh, Y.-W. et al. Science 350, 678–680 (2015).
  13. Wells, J. N., Bergendahl, L. T. & Marsh, J. A. Cell Rep. 14, 679–685 (2016).
  14. Mayr, C. Annu. Rev. Genet. 51, 171–194 (2017).