がん免疫学者2氏にノーベル医学・生理学賞
2018年のノーベル医学・生理学賞は、がん治療の新しい道を切り開いた、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのジェームズ・アリソン(James Allison)と京都大学の本庶佑(ほんじょ・たすく)に贈られる。2氏は、免疫細胞の表面にあるタンパク質を利用することで、免疫系ががん細胞を攻撃できるようにする方法を示した。こうした取り組みから、がん患者の余命を大きく延ばすことのできる治療薬が誕生した。中には、この種の薬剤によって、進行がんの患者でがんの徴候が全て消えてしまった例もある。
「自分の研究が実際に人々の役に立つことは、私の願望の1つであり、誰もが夢見ることです」と、アリソンは10月1日の記者会見で述べている。同日、賞金900万スウェーデンクローナ(約1億1000万円)が2氏に等分して贈られることが発表された。
1990年代、アリソンはカリフォルニア大学バークレー校(米国)で、T細胞と呼ばれる免疫細胞の表面にあって免疫応答のブレーキ役(「免疫チェックポイント」と呼ばれる)として働くCTLA-4というタンパク質を研究していた。彼は同僚らとCTLA-4をブロックする抗体を作り、1997年には、その抗体によりT細胞の抑制が解かれ、がんを攻撃できるようになることをマウスで示した。やがて2010年の臨床試験で、CTLA-4の抗体が、皮膚がんの一種である悪性黒色腫の患者に著しい効果があることが明らかになった1。
1992年、本庶はアリソンとは独立に、やはり免疫系のブレーキ役として働く別のT細胞タンパク質PD-1を発見した。ただし、働く仕組みはCTLA-4とは異なっている。ヒトでの臨床研究から、PD-1を特異的にブロックする抗体は肺がんなど数種類のがんに極めて有効であることが明らかになった2。この治療を受けた転移がん患者の中には、寛解状態が長く続き、治癒したと考えられる例もあるほどだ。
以来、「免疫チェックポイント療法」の臨床研究は急速に進んだ。PD-1を阻害する治療薬は、肺がんや腎臓がん、リンパ腫、悪性黒色腫に有効なことが明らかになった。また悪性黒色腫患者では、CTLA-4とPD-1の2つを標的とする併用療法が、CTLA-4のみを標的とした場合よりも有効な場合があることも分かった3。現在、免疫チェックポイント療法の有効性を評価するための臨床試験が、ほとんどの種類のがんを対象に進行中であり、また、標的となる他のチェックポイントタンパク質の探索も行われているところだ。
この分野の初期に重要な発見をした研究者は他にもいると、ダナ・ファーバーがん研究所(米国マサチューセッツ州ボストン)の免疫学者Gordon Freemanは話し、自らの貢献が認められなかったことを残念がっている。Freemanも、ハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の免疫学者Arlene Sharpeやエール大学(米国コネティカット州ニューヘイブン)の免疫学者Lieping Chenと共に、複数のチェックポイントタンパク質や、PD-1に結合する分子「PD-L1」について研究してきたからだ。PD-1やPD-L1を標的とする薬剤は、既に米国食品医薬品局(FDA)によっていくつか承認されている。
しかし、フランスの国立保健医学研究機関であるINSERM(パリ)の免疫学者Jerome Galonは、「第一候補を選ぶなら、明らかに本庶とアリソンの2人だ」と述べている。
がんの免疫チェックポイント療法が実現に至るまでの道のりは長かった。アリソンが最初、製薬会社に関心を持ってもらおうと試みた際には、まるで相手にしてもらえなかったのだ。しかし2012年になって、PD-1阻害剤が肺がんに有効なことが明らかになり、この領域は一気に盛り上がった。
免疫チェックポイント療法という領域が発展するのをワクワクしながら見てきたと、Freemanは話す。「これほど多くのがん患者が良くなっている。素晴らしいことです」。
翻訳:船田晶子
Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 12
DOI: 10.1038/ndigest.2018.181207
原文
Cancer immunologists scoop medicine Nobel prize- Nature (2018-10-01) | DOI: 10.1038/d41586-018-06751-0
- Heidi Ledford, Holly Else and Matthew Warren
参考文献
- Hodi, F. S. et al. N. Engl. J. Med. 363, 711–723 (2010).
- Topalian, S. L. et al. N. Engl. J. Med. 366, 2443–2454 (2012).
- Larkin, J. et al. N. Engl. J. Med. 373, 23–34 (2015).