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産後うつのメカニズム

米国では毎年約400万人の産婦のうち10~20%が産後うつになる。この症状は母と新生児の絆を妨げ、子どもの発達を青年期まで危うくする恐れがある。的確な治療法はないが、有望な新薬がその状況を変えるかもしれない。

米国ノースカロライナ大学女性気分障害センターの周産期精神医学プログラム長であるSamantha Meltzer-Brodyは最近、この産後うつ治療薬の臨床試験を実施した。出産間もない母親に生じるホルモン変化を標的にした新薬だ。

アロプレグナノロンとGABA受容体

産後うつ患者の多くは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬が処方される。だが、従来の抗うつ薬がどれだけ効くかは定かでない。産後うつでは、神経伝達物質セロトニンの果たす役割は明確でなく、産後うつの原因としては、別の生物学的過程が疑われている。

妊娠すると、生殖ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンが劇的に上昇し、脳ではアロプレグナノロンというステロイドホルモンのレベルも急上昇する。アロプレグナノロンは通常、脳細胞に発火停止の信号を送る神経化学物質GABAの受容体を活性化している。妊娠中はアロプレグナノロンによるGABA受容体の過剰活性化を避けるため、GABA受容体が休眠する。さもないと、妊婦は麻酔がかかったように感覚が麻痺してしまうからだ。出産後、これらはすぐに通常レベルに戻り、続いてGABA受容体の活性レベルも急速に回復するが、一部の産婦ではこの回復に時間がかかり、それが産後うつを引き起こすと考えられている。

受容体の活性回復を支援

セージ・セラピューティクス社が開発した新薬は、アロプレグナノロンのレベルを上げる。これによってGABA受容体を活性化し、健全なレベルに保つわけだ。21人の重度の産後うつ患者を対象に行われた第2相臨床試験では、この薬を投与された患者の70%が寛解した。重要なことに効果は投与直後に表れ、30日間持続した。セージ社はその後、計226人の産後うつ患者を対象に2件の第3相試験を実施しており、暫定的な結果は有望だ。米国食品医薬品局(FDA)は現在、この新薬「ブレキサノロン」を審査中である。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2018.181206b