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学術界サバイバル術入門 — Training 5:学術英語 ②

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前回1は、論文執筆で重要な3つの原則(認知負荷理論、認知バイアス、そして読者の予想)について説明しました。今回も、あなたの考えの影響力を最大にするために、明快な論文を書く旅を続けましょう。(過去の無料公開記事はこちら

重要なのは、論文を書くときに、常に読者を念頭に置くことです。読者はたいていの場合、研究室か居室で周囲の状況に注意をそがれつつ、非常に忙しい時間の合間を縫って、学術論文を読んでいます。誰もが手早く論文の内容を頭に入れたいと思っているので、あなたは読みやすい論文を書く有能な伝達者にならねばなりません。

ではこれから2回に分けて、論文の読みやすさを改善するのに役に立つヒントをいくつかお話しします。今回は①能動態と②強い動詞について、次回は③難しい単語を避けることと、④よく見かける誤りについて考えていきましょう。

①能動態

伝統的に、学者は受動態で書くようにと教えられてきました。受動態の方がより正式で客観的であると考えられていたためです。しかし、時代は変わりました! 現在は、ほとんどの学術誌が能動態で書くことを推奨しています。例えば、Nature はこのように述べています。「Nature は、著者に能動態で書くことを勧める。直接的な表現は、概念や結果を読者により明確に伝えられることが経験で示されているからだ」2。さらに、さまざまな分野の学会でも現在、その文体ガイドで能動態の使用を勧めています。そうした学会には、米国医師会、米国心理学会、および米国化学会(ACS)などがあります3,4,5

では、能動態を使用することの利点は何でしょう? 簡単に言えば、能動態の方が理解しやすいのです。それを支持する証拠が研究でも得られています6,7。Jennifer E. Mackらは、受動態の文章を読むときには能動態の文章を読むときよりも多くの脳活動が起こるということを実際に示しました7。ですから、読みやすさを向上させるには、能動態を多用する必要があります。

とはいえ、常に受動態を避けるべき、と勧めているわけではありません。次に挙げる4つの状況では、私は能動態よりも受動態の使用を推奨しています。

1. 反復を避けるため

反復があると、読者は退屈と感じる場合があります。退屈すると、論文を読むのを止めてしまうでしょう。そうならないためには、文章の中に受動態を混ぜて文章の幅を広げることが有効です。

2. 対象が不明瞭な場合

例えば、相関関係を示す結果などについて書くときは受動態を使いましょう。被験者の間で、地中海料理を食べていることと、LDLコレステロール値が低いことに相関関係が観察されたとしましょう。これは地中海料理がLDLコレステロール値の低下を引き起こしたことを意味するでしょうか? いいえ、これは単なる相関関係にすぎません。現段階では、何が低下を引き起こしたかは明確ではありません。被験者の生活習慣の他の側面に関連している可能性もあります。何が低下を引き起こしたかが分かっていない場合、受動態を使って文の主語(原因物質)を述べるのを避けることができます。「LDL cholesterol was decreased among participants who consumed a Mediterranean diet.(地中海料理を食べている被験者の間ではLDLコレステロール値の低下が見られた)」。

3. 論文の「methods(方法)」のセクション

ここでは、テクニックを実施した研究者よりも、実施されたテクニックを強調したいので、受動態を使った方がより適切かもしれません。例えば、「Atomic force microscopy was performed using……(……を用いて、原子間力顕微鏡法が実行された)」のように書きます。

4. 文章の論理的な流れを維持するため

論理的な流れの重要性については前回説明しました。1つの文章のストレスポジションを次の文章のトピックポジションにリンクさせるのです。いくつかのケースでは、これを行うのに受動態が役に立つかもしれません。例えば、

The reduced catalytic activity was likely due to the reaction being conducted in an aqueous environment. Evaluating additional solvents to improve this activity is currently being investigated.

触媒活性の低下は、反応が水性環境で引き起こされるためである可能性が高い。この活性を改善するための追加溶剤の評価は、現在研究中である。

後ろの文で受動態を使用することによって、前の文のストレスポジション(水性環境)と後ろの文のトピックポジション(追加溶剤)との強いリンクを維持できます。

全般に、読みやすさを改善するためには能動態と受動態を3:1のバランスにして論文を書くことをお勧めします。

②強い動詞

あなたの論文で読みやすさを改善するもう1つ別の方法は、より強い動詞を使用することです。強い動詞とは何でしょうか? 慎重で動作に方向性のある動詞です。しかし、よく見かける問題は、学者たちが時折、これらの動詞の代わりに、名詞化された単語を使いたがることです。

著者が学術論文でよく使用する名詞化には以下のようなものがあります。
避けたい名詞化 推奨される動詞
Assessment(評価) Assess(評価する)
Estimation(推定) Estimate(推定する)
Correlation(相関) Correlate(相関する)
Confirmation(確認) Confirm(確認する)

名詞化された単語を使うことは何がいけないのでしょうか? 3つの問題点が挙げられます。直接性が薄くなること、文章が長くなること、そして、退屈な文章になってしまうことです。実際、名詞化された単語はしばしばゾンビ名詞と呼ばれます。あなたの文章から全ての精気を奪い取り、読者の興味をそいでしまうからです8,9

以下の例を見てみましょう。

We performed an investigation to determine if TiO2 surface modification led to an improvement in catalytic efficiency and resulted in a reduction in cost.

TiO2表面修飾が触媒効率の改善につながり、コストの低減をもたらすかどうかについて、私たちは調査を実行した。

この文章の英語に悪いところは全くありませんが、名詞化された単語(赤で示す)とそれを補助する動詞(青で示す)のせいで、明快でも、直接的でもありません。代わりに強い動詞を使えば、もっとシンプルに伝えられます。

We investigated if TiO2 surface modification improved catalytic activity and reduced cost.

TiO2表面修飾が触媒作用を改善し、コストを低減するかどうかについて、私たちは調査した。

こうすれば、同じ考えをより直接的に、より簡潔に(単語数が24から12へ)に伝えられます。動詞を名詞化した単語を使っていたら、それを強い動詞に置き換えて、あなたの考えの影響力を最大にすることをお勧めします。

ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)

ネイチャー・リサーチにて編集開発マネージャーを務める。ペンシルべニア大学でPhD取得後、シンガポールおよび日本の研究所や大学に勤務。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。学術界での20年にわたる経験を生かし、研究者を対象に論文の質の向上や、研究のインパクトを最大にするノウハウを提供することを目的とした「Nature Masterclasses」ワークショップを世界各国で開催している。

翻訳:古川奈々子

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 11

DOI: 10.1038/ndigest.2018.181116

参考文献

  1. Robens J. Nature ダイジェスト https://doi.org/10.1038/ndigest.2018.180917 (2018).
  2. www.nature.com/authors/author_resources/how_write.html
  3. www.amamanualofstyle.com/view/10.1093/jama/9780195176339.001.0001/med-9780195176339-div2-263
  4. blog.apastyle.org/apastyle/2016/05/passive-and-active-voice.html
  5. pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/bk-2006-STYG.ch004
  6. Ferreira F. Cogn Psychol. 47, 164–203 (2003).
  7. Mack J. E. et al. Brain Sci. 3, 1198–1214 (2013).
  8. Sword H. Stylish Academic Writing (Harvard University Press, 2012).
  9. Pinker S. The Sense of Style: The Thinking Person's Guide to Writing in the 21st Century (Penguin Books, 2014).