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鳥たちの免疫

毎年秋が深まると、ヨーロッパとアジアの多くの鳥が暖かな日差しを求めて南へ移動する。そして春になると、温暖な旧北区に戻って繁殖と子育てをする。これらの渡り鳥が長旅の間に風邪をひかないのはなぜなのか、長年の謎だった。

「私たちが休暇で海外旅行に行く場合、あらゆる種類のワクチン接種が必要です」と、ルンド大学(スウェーデン)の生態学者Emily O’Connorは言う。「鳥たちはなぜこうもうまく処理しているのでしょう?」

この謎を解くため、O’Connorらは1300種を超える小鳥を「渡り鳥」と「アフリカに定住している鳥」、「旧北区に定住している鳥」に分類した。そして、32種の代表的な野鳥を捕まえて採血し、病原体の認識に関与する「MHCクラスI」という一連の免疫系タンパク質をコードしている遺伝子を探した。これらの遺伝子の多様性が高いほど、免疫系が検出できる侵入者の種類も多くなるという。

この尺度で測ると、アフリカ定住型の免疫系が最もしっかりしていることが分かった。旧北区定住型の大半は熱帯地域で進化した鳥が後に北へ広がったものなので、その過程でMHCクラスIの多様性が小さくなったのだろうと研究チームは推定している。2018年4月にNature Ecology & Evolution に報告。

「渡り鳥は2つの地域を往来するため、両地域に応じた2組の病原体に対処する必要があります。だから渡り鳥のMHCクラスI遺伝子の多様性が最も高いと予想していましたが、実際にはヨーロッパの鳥と変わらないことが分かり、本当に驚きました」とO’Connorは言う。

孵化したばかりのひな鳥は病原体に最も感染しやすく、その時期は親鳥も繁殖のストレスから病気にかかりやすい。このため、渡り鳥には生まれ故郷の繁殖地である北部に多い病原体への抵抗力に関与する遺伝子を持つように選択圧がかかり、熱帯の病原体に対処する遺伝子を犠牲にしてそれらを獲得したのだろうと、O’Connorは考えている。

あるいは、渡り鳥は病原体特異的ではない別形態の免疫を発達させてきたのかもしれないと、エクセター大学(英国)の進化生物学者Camille Bonneaudは言う。「病原体と直接戦うのではない別タイプの免疫プロセスを渡り鳥が進化させていないか、さらに調べる必要があります」。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 11

DOI: 10.1038/ndigest.2018.181106a