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中国の大規模出生コホート研究から多くの成果

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2018.181014

原文:Nature (2018-07-05) | doi: 10.1038/d41586-018-05522-1 | Gigantic study of Chinese babies yields slew of health data

David Cyranoski

研究開始からまだ日は浅いが、公衆衛生に関して早くも重大な知見をもたらしていて、マイクロバイオーム研究も進められている。

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Images By Tang Ming Tung/Taxi/getty

中国の数万人の乳幼児とその母親を追跡する野心的な研究が、早くも実を結び始めている。研究チームが研究に参加する母子を最初に募集したのは、わずか6年前のことだった。

研究チームは、このコホート研究に基づく研究成果をすでにいくつか発表しており、その中には公衆衛生の観点から重大な意味があるものも含まれている。現在も、乳幼児のマイクロバイオーム(体内に生息する細菌やその他の微生物の集合体)の研究など、多くの研究が進められている。マイクロバイオームは近年の健康研究で注目されているテーマであり、今回の研究の主要な目的でもある。

2012年に始まった「広州出生コホート研究(Born in Guangzhou Cohort Study:BIGCS)」には、約3万3000人の乳幼児とその母親がペアで参加している1。研究チームは、2020年までに参加者を5万組まで増やしたいとしている。3世代にわたる研究ができるように、2018年から乳幼児の母方の祖母5000人の募集も始まった。

ラトガース・ニュージャージー州立大学(米国ニューブランズウィック)の微生物学者Maria Gloria Dominguez-Belloは、この研究には関与していないが、「データの量は膨大ですから、世界中の研究チームがそれぞれの視点で分析しても、皆欲しい情報を取り出す余地があるでしょう」と言う。「中国チームの取り組みに敬服します」。

コロンビア大学(米国ニューヨーク市)の疫学者Ezra Susserは、今回の研究は、中国の経済が急速に発展し、社会が大きく変化した時代の母子を追跡している点でも重要であると指摘する。この種の研究は以前にも中国で行われたことがあったが、いずれも小規模なものだった。

広州プロジェクトは、マイクロバイオームと疾患との関連を詳細に調べられる点で、過去にノルウェーとデンマークで実施された大規模出生コホート研究とは一線を画している。米国と英国でも、大規模出生コホート研究でマイクロバイオームのデータも収集する予定だったが、いずれも参加者を募集する時点で問題が生じて取りやめになった。米国の研究の方は、予算オーバーと管理上の問題にも苦しんだ。

これまでのところ、中国のチームはこうした問題を回避できている。便、血液、胎盤組織、臍帯を含む160万点の生体試料が潤沢に収集されている。調査は広範にわたっていて、参加者の食習慣、メンタルヘルス、およびその他の生活習慣因子(自宅のカビの量など)が記録されている。

最初の知見

中国南部には香をたく習慣があるが、広州プロジェクトのデータに基づくある研究から、香の煙への曝露が妊婦の高血圧症のリスクを高めることが明らかになった2

別の研究では、研究に参加した女性の40%以上が、妊娠中にプロゲステロン(黄体ホルモンの一種で、早産のリスクを下げる薬剤)を処方される時期が早すぎたことが示された3。妊娠14週未満の女性にこの薬剤を投与すると、早産のリスクを下げられないだけでなく、帝王切開が必要になるリスクや産後うつになるリスクが高まるという。論文著者らは、この知見を「公衆衛生上の緊急の問題」としている。

他の研究も進行中だ。バーミンガム大学(英国)と中国最大規模のゲノムシーケンシング機関であるBGI(深圳)のチームは、経膣分娩で生まれ、産道を通過する際に母親のマイクロバイオームに曝露された乳幼児のマイクロバイオームが、帝王切開で生まれた乳幼児のマイクロバイオームとどのように異なるかを明らかにしようとしている。同様の研究は、より小さな規模ではすでに実施されているが、Dominguez-Belloによると、広州コホート研究は、出生前後に投与される薬や環境汚染物質など、乳幼児のマイクロバイオームに影響を及ぼす可能性のある他の変数を分離できるだけの検定力があるという。

広州市婦人小児医療センターの疫学者で、広州プロジェクトの責任者を務めるXiu Qiu(邱琇)は、このコホートデータを利用して、自身の過去の研究で得られたある知見の検証を進めている。それは、第2子を妊娠中の高齢妊婦の方が、第1子を妊娠中の女性よりうつ病になるリスクが低いという、意外だがまだ確定的ではない発見3についてだ。彼女は当初、すでに子がいる女性が第2子を妊娠したときの方が、より大きなストレスがかかる上、経済的な負担も大きいため、うつ病になりやすいだろうと予想していた。2016年に中国の一人っ子政策が廃止されたため、今回の出生コホート研究は、第2子を妊娠する女性(その多くが高齢妊婦である)をこれまでより多く調べる機会を与えてくれると彼女は言う。

一方、シンシナティ小児病院(米国オハイオ州)の小児科医Sing Sing Wayは、研究に祖母が追加されたことで得られるデータから、母親に由来する細胞が子の体内で存続できる理由を解明したいと考えている。マウスの研究では、こうした細胞は子が妊娠した際に彼らを保護する役割を担うことが示唆されている、とWayは言う4

プロジェクトの共同設立者であるXia Huimin(夏慧敏)は、広州コホート研究には、さらに多くの疑問に答えられる力があると言う。彼は、世界中の科学者にこのデータが活用されることを期待している。「あらゆる地域の研究者と一緒に研究したいと思っています」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Qiu, X. et al. Eur. J. Epidemiol. 32, 337–346 (2017).
  2. He, J. -R. et al. Sci. Total Environ. 610–611, 1421–1427 (2018).
  3. Shen, S. et al. Lancet 386, S58(2015).
  4. Kinder, J. M. et al. Cell 162, 505–515 (2015).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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