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デスマスクが助けた化石化

死に際して作られたデスマスクが、あなたの顔を何百万年もの後代に保存する──地球で最古と考えられている動物の一部では、ある意味これと同じ現象が起こっている。軟体組織でできた太古の動物は、黄鉄鉱という鉱物の「デスマスク」に覆われることで腐敗を長らく免れ、化石に残ることが可能になっているという。

最古の生物として知られるのは約5億7500万年前から5億4100万年前のエディアカラ紀に繁栄していたもので、エディアカラ生物群と呼ばれている。

エディアカラ生物群が進化系統樹のどこに位置するのかは謎だ。一部は動物だが、動物といえないものもあり、動物と考えられる種は、その後の動物の祖先または近縁種を含んでいた可能性が高い。もう1つの悩ましい謎は、エディアカラ生物群がそもそもどのように化石になったのかだ。大半は軟組織でできていたと考えられ、そうしたグニャグニャの生き物は死後すぐに食べられてしまうか腐ってしまうので、ほとんど化石に残らないはずだ。

これらの謎を解くため、ヴァンダービルト大学(米国テネシー州)の古生物学者Brandt Gibsonが率いるチームは、エディアカラ紀の生物と体組織が最も似ていると考えられる現生動物であるイソギンチャクと軟体動物を安楽死させて調べた。古代の海の化学組成に似せた海水タンクに死骸を入れ、鉄を豊富に含む黄鉄鉱が1カ月ほどで死骸に沈着する様子を観察した。こうしたデスマスクの形成を実験室で観察した研究はこれが初めてで、2018年5月のPALAIOSに報告された。

ただし、この覆いは腐敗を完全には妨げなかった。例えばイソギンチャクの触手は「あっという間に消えた」とGibsonは言う。この結果から、エディアカラ紀の化石はもとの生物の完全な姿ではないと考えられる。奇妙なエディアカラ生物群が生命の樹のどこに位置するかを理解するには、この溝を埋める追加情報が重要なカギとなるだろう。

ケンブリッジ大学(英国)の純古生物学者Alex Liu(今回の研究には加わっていない)は、「エディアカラ紀が長年考えられてきたような“謎”の期間ではないとの認識が広まりつつあり、今回の研究もそれを支持している。エディアカラ生物群の謎は解明可能です」と言う。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2018.181007a