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アクチンタンパク質は核内でゲノムを守る

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2018.181030

原文:Nature (2018-07-05) | doi: 10.1038/d41586-018-05339-y | Actin proteins assemble to protect the genome

Vassilis Roukos

重合したアクチンは、モータータンパク質と共に核内のDNA損傷部位に集合して、DNAの可動性と修復を助けていることが明らかになった。この知見は、ゲノム完全性の保持を支える調節機構に新たな階層があることを示している。

アクチンタンパク質は重合してフィラメントを作り、細胞質内で架橋して網目状の構造を形成する。この構造は、細胞の移動や分裂、細胞内輸送などの多くの基礎的な細胞過程を下支えしている。さらにアクチンは、細胞核内でも機能を果たしているという報告があるが、これについては議論が続いている1,2。この問題に結論が出ない理由の1つに、細胞質内のアクチンに影響を与えずに、核内のアクチンプールのみを変化させるのが難しいことが挙げられる。今回、この問題に対してこれまでで最も説得力のある証拠を示した2編の論文が、Nature 2018年7月5日号に掲載された3,4。これらの報告によれば、重合したアクチンはDNA損傷時の細胞核内で働き、ゲノム安定性の維持に必須であるという。

DNAは、細胞核内ではタンパク質に巻き付いて折りたたまれ、クロマチンと呼ばれる集合体を形成している。クロマチンは異なる複数の領域に細かく分割されており、そのうちのDNAが密に詰め込まれた領域は「ヘテロクロマチン」と呼ばれ、この領域にはDNAの反復配列が含まれることが多い。このような反復配列は、ゲノムシャッフリングの異常な形態である異所的な組換えを極めて起こしやすいため、ゲノム完全性を損ね得る重大な脅威となる。ショウジョウバエやマウスでは、こうした異常な組換えが起こらないように、二本鎖切断(DSB)を含むヘテロクロマチンDNAは領域の外に移動されるが5-7、その機構はよく分かっていない。また、哺乳類細胞の核では、DNA損傷に応答してアクチンフィラメントが形成されるが8, 9、DNA修復におけるアクチンフィラメントの作用は不明である。

南カリフォルニア大学(米国ロサンゼルス)のChristopher P. Caridiらは今回、ショウジョウバエの細胞において、DSBの一群がヘテロクロマチンから核の辺縁部へと持続的かつ直線的に移動することを報告している(54ページ3。このような方向性を持った動きが哺乳類細胞の核で観察された例は、これまでごくわずかであった10-12。そのため、こうした再配置が起こる仕組みについてのCaridiらによる洞察は極めて重要だ。彼らは、核内のアクチンが重合して、ヘテロクロマチンのDSB修復部位でフィラメントを形成すること、また、この過程にはタンパク質複合体Arp2/3とその活性化因子(タンパク質ScarおよびWash)が必要であることを見いだした。またCaridiらは、Arp2/3が、ヘテロクロマチンDSBから核の辺縁部へと伸びるアクチンフィラメントの形成を促進することも観察した。こうしてできたアクチンフィラメントに沿って、核内モータータンパク質のミオシンIとミオシンVが修復部位を「歩行」する(図1a)。この歩行は、ミオシン活性化タンパク質Unc45によってフィラメント形成後に誘発されることから、ヘテロクロマチンDSBの再配置は空間的にも時間的にも調節されていることが分かる。

Caridiらの発見で特に重要なのは、Arp2/3とミオシンをヘテロクロマチンDSBに誘導する際に、DSB修復タンパク質Mre11とヘテロクロマチンの構成タンパク質HP1αが必要なことだ。このことから、DSBの検出やその後の修復過程には、モータータンパク質を損傷部位へと誘導することが不可欠であると考えられる。さらに、ヘテロクロマチンのDSBだけが核の辺縁部に再配置される理由も、これらの分子によって説明できる。Caridiらはまた、ショウジョウバエとマウスのいずれでも、核内のアクチンとミオシンを欠く細胞では、ヘテロクロマチン内のゲノム完全性が損なわれ、DNA損傷に対する生存可能性が低下することを実証しており、この結果から、アクチンとミオシンは核内でゲノム安定性を維持する主要な役割を担っていることが示唆される。

図1 核内のアクチン重合がゲノム安定性を維持する
DNAは、核内でタンパク質と共に折りたたまれ、クロマチンと呼ばれる集合体を形成している。クロマチンは、ヘテロクロマチンをはじめとする異なる領域に区画化されている。
a Caridiら3は、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の細胞において、ヘテロクロマチン内で生じたDNA切断部位が核辺縁部に移動すること、また、それにより確実に修復されることを明らかにした。さらに、重合したアクチンタンパク質(アクチンフィラメント)の上を、ミオシンと呼ばれるモータータンパク質が「歩行」することも報告した。
b Schrankら4はヒト細胞において、重合したアクチンが、クロマチン内(どの区画かは不明)のDNA切断末端で突出末端の形成(DNA末端切除と呼ばれる)を促し、相同組換え(HR)修復と呼ばれるDNA修復経路(図示せず)を促進することを報告した。ただし、その機構はよく分かっていない。また、アクチンの重合は、HRによる修復が必要なDNA切断部位の可動性を増加させるとともに、DNA切断部位のサブセットが核内でクラスターを形成する能力を高める。
abで示された過程のどこかが妨げられると、修復異常やゲノム不安定性の増大が引き起こされる。 | 拡大する

DSB修復には、2つの異なる機構が知られている。1つはエラーの起こりやすい非相同末端結合(NHEJ)経路、もう1つは本質的に無謬(エラーが起こらない)の相同組換え(HR)経路である。NHEJの場合、切断されたDNA末端は単につなぎ合わされるだけだが、HRの場合は、まず切断部位のDNA平滑末端に一本鎖DNA領域を作る処理が施され(DNA末端切除と呼ばれる)、その後、突出末端と相同な「適切な」DNA配列を探し出して修復の鋳型として用いる。今回掲載されたもう一方の論文(61ページ)では、コロンビア大学(米国ニューヨーク州)のBenjamin R. Schrankらが、ヒト細胞において、核内のアクチン重合はHRによるDSBの効率的な修復に特異的に必要であることを報告している4

Schrankらは、主にユークロマチン内でのDSBの誘導が制御できる細胞系13を用い、ヘテロクロマチンでの損傷の場合と同様に、Arp2/3が損傷を受けたゲノム部位に誘導されることを見いだした。しかし、Arp2/3をこれらの切断部位へ誘導する活性化因子は、Caridiらがヘテロクロマチンにおいて観察したArp2/3を切断部位へと誘導した活性化因子とは異なっていた。このことから、アクチンフィラメントの形成を促す調節機構は、ゲノムやクロマチンの状況によって異なる可能性が考えられる。

Schrankらはまた、興味深い現象も観察した。Arp2/3は、HRにより修復中のDSBにのみ誘導されるが、Arp2/3の活性化因子WASP(Wiskott–Aldrich syndrome protein)は、どちらの修復過程でも切断部位に誘導されるのである。この観察結果は、HRで修復される切断部位に特異的にアクチン重合を促す、これまで知られていなかった調節機構が存在することを示している。Schrankらはまた、核内のアクチン重合を抑制すると、DNA末端切除が減少し、HR修復の効率が低下することを明らかにしており、核内のアクチンをDNA損傷に対する細胞応答の中核と位置付けている(図1b)。

Schrankらの研究は、疾患と結び付けることができるかもしれない。ウィスコット–オールドリッチ症候群(WAS)は、重篤な免疫不全とがんに罹りやすい性質を特徴とする疾患で、WASPをコードするWAS遺伝子の変異に起因する14。WASの変異が悪性腫瘍を引き起こす仕組みは、分子レベルではほとんど分かっていない。Schrankらは、WASPを阻害するとHR修復に不具合が生じることに加え、WAS患者の免疫細胞(リンパ球)ではDNA末端切除に異常が見られ、健常者のリンパ球に比べてDNA損傷剤に対する感受性が高いことを報告している。今後の研究で、核内のWASPの機能不全と関連した修復の異常がWAS患者の悪性腫瘍に関与しているのかどうか、調べる必要があるだろう。

核内のアクチン(緑)の局在が、一本鎖DNA結合タンパク質RPA(赤)の局在と一致していることが分かる。 | 拡大する

Ref.4

さらにSchrankらは、核内でのアクチン重合をかく乱すると、修復異常と共に、DSBの可動性が低下することを示している。DSBの可動性低下は、DSBのサブセットが核内でクラスターを形成する能力の低下を引き起こす。Schrankらは、こうしたクラスター形成の減少が、DNA末端切除を行う因子群の局所的な濃度を低下させ、結果としてHRの効率化を制限しているのではないかと考えている。もしくは、クラスターを形成するDSBが比較的少ないことを考えると、アクチン依存的なDSBの移動とDNA末端切除は並行した現象であり、機能的な関連はない可能性もある。

今回の新たな2つの研究は、核内の重合アクチンがDNA損傷に対する細胞応答に果たす役割を明らかにするための今後の研究の枠組みを示している。アクチンの核内機能を支える主要な生物学的因子は明らかになったが、損傷したクロマチンが核内のアクチン構造やモータータンパク質に付着する際の物理的なつながりについてはよく分かっていない。次のステップは、超解像度顕微鏡などのイメージング手法を用いて核内のアクチン構造の特徴を明確にし、クロマチンや核の構造がアクチン重合の形成やリモデリングにどのように影響を及ぼすかを明らかにすることだろう。さらに、今後の研究では、重合アクチンがクロマチンの可動性やDNA末端切除を促進する機構を明らかにする必要もある。ゲノムの安定性が発がんの主要な原因因子の1つであることを考えると、細胞がアクチンをどのように用いてゲノムを守っているかを解き明かすことで、がんの原因論に関する基本原理を理解する手掛かりがつかめる可能性がある。

(翻訳:山崎泰豊)

Vassilis Roukosは、分子生物学研究所(ドイツ)に所属。

参考文献

  1. de Lanerolle, P. & Serebryannyy, L. Nature Cell Biol. 13, 1282–1288 (2011).
  2. Belin, B. J. & Mullins, R. D. Nucleus 4, 291–297 (2013).
  3. Caridi, C. P. et al. Nature 559, 54–60 (2018).
  4. Schrank, B. R. et al. Nature 559, 61–66 (2018).
  5. Chiolo, I. et al. Cell 144, 732–744 (2011).
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  13. Aymard, F. et al. Nature Struct. Mol. Biol. 4, 366–374 (2014).
  14. Massaad, M. J., Ramesh, N. & Geha, R. S. Ann. NY Acad. Sci. 1285, 26–43 (2013).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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