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正直なうそつき

米国トランプ大統領は昨年、自分の就任式に集まった聴衆の数が写真の証拠に反して「過去最多」だったと主張した。彼の数々の大ボラの一例だ。2016年大統領選の候補者はどちらも模範的正直者には思えなかったが、受けた打撃はヒラリー・クリントンの方が大きかったようだ。なぜだろう?

最近の研究から、うそは政治家をむしろ頼りになる人物に思わせる場合があることが分かった。この結論を導いたのはあるオンライン調査研究だ。被験者として参加した424人は、架空の大学自治会長選挙の話を読んだ。現職に対抗する新人候補は学生自治の経験が全くない。現職は討論で、学内での飲酒禁止を支持する研究に言及した。被験者の半数は、その研究は査読付き学術誌に掲載されておらず、新人候補がこの点を指摘したとする話を読んだ。被験者の残り半数は、研究は査読済みなのだが、新人候補はそうではないとうそをつき、さらに研究チームのメンバーに関して性差別的発言をして社会規範に背いたとする話を読んだ。

この2群をそれぞれさらに2つに分け、片方には現職の正当性に疑問があるという話を、他方には現職が立派な学生代表であるとする話を読ませた。また被験者は性格検査を受け、その結果が現職候補と一致している、または新人候補と一致していると無作為に告げられた。そして最後に、新人候補がどれだけ頼りになるかを格付けした。

新人候補と自分の性格タイプが同じと告げられ、現職の正当性に疑問があるとの話を読んだグループでは男女共、新人候補がうそつきで女性蔑視であると聞かされた人の方が、新人候補のことを頼りになると評価するケースが多くなった。American Sociological Review 2018年2月号に報告。

研究チームは402人の被験者を調べて、今回の研究を2016年の大統領選に結び付けた。これらの被験者に、地球温暖化がでっち上げだとするトランプのツイートが全くの虚偽であることを示したところ、トランプ支持者はクリントン支持者に比べ、そのツイートを文字通りの意味ではなく、エリート層への挑戦と捉える割合が高かった。

今回の論文の筆頭著者であるカーネギー・メロン大学(米国)の経営学者Oliver Hahlは、この研究でトランプ支持者を少し理解できるようになったという。「この世はまだ、ある程度は合理的であると思える」。

翻訳:鐘田和彦

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2018.181007b