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食物の脳作用

痛さを感じると、脳は天然の痛み止めを作り出す。モルヒネなどの強力な薬物と似た化学構造の物質だ。「内因性オピオイド」と呼ばれるこれらの物質が、別の働きもしていることが最近の研究で示された。身体のエネルギーバランスの調節に一役買っているらしい。

トゥルク大学(フィンランド)の脳画像研究者Lauri Nummenmaaらは健康な男性10人について、オピオイド受容体に結合する放射性物質を被験者に注射し、陽電子放出断層撮影装置(PET)を用いて受容体の活動を可視化することで、脳で放出される内因性オピオイドを測定した。

すると、被験者がおいしいピザを食べた後に、脳内に天然の鎮痛物質が出ている証拠が認められた。そして驚いたことに、栄養的には同様だがはるかにおいしくなさそうな流動食(Nummenmaaに言わせると「栄養たっぷりのドロドロ」)を食べた後では、脳はさらに多くの内因性オピオイドを放出した。オピオイド放出は食物のおいしさとは無関係なようだった。この成果はJournal of Neuroscience 2017年8月号に掲載された。

過去に行われたヒトと動物の研究から、内因性オピオイドは食事に伴う快感の伝達に関与していると考えられていたため、Nummenmaaはこの結果に驚いた。

ピザよりも流動食を食べた後の方が脳内に放出されるオピオイドが多くなる理由はまだ不明だが、食事の15分後に行われた脳スキャンの時点で生産されていたオピオイドの量が多かったのは、流動食の方が速く消化されるからかもしれないと研究グループは推測している。

今回の結果は、オピオイドがエネルギー代謝にこれまで考えられてきた以上の幅広い役割を果たしている可能性を示している。満腹になってエネルギーが補給されたことがオピオイド系を始動させるきっかけになっている可能性が考えられるとNummenmaaはいう。

「疼痛や食事、喜びなど、オピオイド放出を活性化する条件を改めて考えてみると、これらは全てホメオスタシス(体内のエネルギーバランスの維持)に関連しています」とNummenmaaは説明する。「最も面白いのは、食べるということが、感覚上の快感がなくてもこのシステムを始動させることです」。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180107b