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太陽系外からの初めての使者

Credit: EUROPEAN SOUTHERN OBSERVATORY/M. KORNMESSER

2017年10月19日、観測史上初の恒星間天体と見られる天体が発見され、科学者たちは、このまたとない機会を最大限に生かそうとデータ収集に奮闘した。というのも、この天体は非常に高速で動いており、発見から10日余りですでにうお座の方向に遠ざかっていて、2カ月後には最大級の望遠鏡でも見えないほどに暗くなってしまうからだ。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)の天文学者David Jewittは、「銀河系の別の場所から来た天体が、我々の太陽系内を通過するのをリアルタイムで見られるなんて、実に興味深いです。恒星間天体の観測はこれが初めてですから」と語る。

残念ながら、この天体が太陽系に再び戻ってくることはない。「猛スピードで遠ざかっていて、観測できる時間は本当に限られていました」とJewittは説明する。しかし、数週間という短期間に行われた多数の観測からはいくつもの発見があり、2017年10月27日にはその光学スペクトルがarXivで公開され1、2017年11月20日にはさらに総合的な分析結果がNatureオンライン版で発表された(後に2017年12月21日号に掲載2)。

奇妙な軌道

米国ハワイ州マウイ島のハレアカラ山山頂にあるパンスターズ1(Pan-STARRS1)望遠鏡が太陽系外からの来訪者の姿を初めて捉えたのは、10月19日未明、ちょうど新月の夜だった。その日の朝、この天体に最初に気付いたハワイ大学マノア校の天文学者Rob Werykは、「普通の彗星や小惑星とは違った動きをしていました」と振り返る。

彗星や小惑星は通常、太陽を中心とする楕円軌道を回っていて、天体の軌道の形を表す値である軌道離心率は1より小さい。一方、太陽系の外から飛来して高速で通過していく天体であれば、その軌道離心率は1より大きく、双曲線軌道をとる。

今回、複数の観測結果から導き出されたこの謎の天体の離心率は約1.20と非常に大きく、双曲線軌道をとる恒星間天体であることが明らかになった。マドリード・コンプルテンセ大学(スペイン)の天文学者Carlos de la Fuente Marcosは、「この天体が双曲線軌道上を動いていることはほぼ確実です」と言う。観測の過程で彗星や小惑星などその分類が次々と変化したこの天体は、この軌道分析の結果を受けて最終的に恒星間天体であることを示す「1I/2017 U1」という仮符号が与えられ、ハワイで最初に観測されたことから、ハワイ語で「斥候」や「使者」を意味する「オウムアムア(‘Oumuamua)」と命名された。

オウムアムアが太陽に最も近づいたのは2017年9月9日で、このときは水星の軌道よりも内側を移動していたという。地球への最接近は10月14日で、その距離は2400万km(地球から月までの距離の約60倍)だった。

恒星間天体オウムアムアの太陽系内での軌道。 Credit: NASA/JPL-Caltech

舞い込んだ朗報

世界各地の天文学者による観測からは、その珍しい軌道の他にもオウムアムアの物語が徐々に明らかになってきた2。オウムアムアは非常に小さくて暗く、分光計測の結果からは、表面が全体的に赤くて、太陽系内の彗星や小惑星に見られるような有機物を豊富に含む表面の色に似ていることが分かった。また、光度曲線の分析結果からは、この天体が、長軸と短軸の長さの比が10:1程度で平均半径が約100mの細長い葉巻型をしていると推定された。入射光と反射光のエネルギーの比であるアルベドを0.04と仮定して計算すると、その大きさは800×80×80m程度になる。さらに、近日点での太陽からの距離が、太陽と地球の間の距離の4分の1という近さであったにもかかわらず、コマや尾などの彗星活動が見られなかったことから、オウムアムアは小惑星様の天体であると考えられる。一方で、この天体の詳しい組成や年齢、太陽系外のどこからやって来たのかについてはまだ分かっていない。

The path of A/2017 U1, an interstellar object that swung through our Solar System

NASA/JPL-Caltech

研究者たちは以前から、こうした太陽系外からの使者の到来を予測してきた。1990年代に恒星間天体飛来の可能性について研究していたサウスウェスト研究所(米国コロラド州ボールダー)の惑星科学者Alan Sternは、「ずいぶん長く待たされました」と感慨深く語る。

こうした予測は、太陽系が誕生して間もない時期に、木星、土星、天王星、海王星などの巨大惑星が、その強力な重力によって何兆個もの彗星や小惑星を太陽系外の星間空間にはじき飛ばしたという考えに基づいている。他の惑星系でも同様の現象が起きたとすれば、星間空間には「はぐれ天体」がうようよしていることだろう。Sternは、「太陽系内を通過する恒星間天体の数を明らかにすることで、銀河系全体にそうした天体がいくつあり、それらをはじき出した惑星系がいくつあるかを見積もることができます」と説明する。

シェフィールド大学(英国)の名誉教授で天文学者のDavid Hughesは、「ここ数年で見つからなければ、少々不安になっていたでしょう」と打ち明ける。

オウムアムアは、こと座の方向からやって来た。これは、太陽系が向かっている方向とほぼ一致する。そのため研究者たちは、今後もこと座の方向から来る恒星間天体の方が多いだろうと予測している。ちょうど、雨の中を走ると背中よりも胸の側に多くの雨粒が当たるのと同じ論理だ。

初めての使者となったオウムアムアに続いて、多くの恒星間天体が太陽系を訪れるはずだと、Jewittは確信している。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180104

原文

Astronomers race to learn from first interstellar asteroid ever seen
  • Nature (2017-10-31) | DOI: 10.1038/nature.2017.22925
  • Ken Croswell

参考文献

  1. Masiero, J. Preprint at http://arxiv.org/abs/1710.09977 (2017).
  2. Meech, K. J. et al. Nature 552, 378–381 (2017).