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RNA反復配列は細胞を固めてしまう

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170935

原文:Nature (2017-06-08) | doi: 10.1038/nature22503 | RNA repeats put a freeze on cells

David W. Sanders & Clifford P. Brangwynne

細胞核にできる小滴様のRNA凝集塊は、特定の神経変性疾患に関連している。実験の結果、こうした凝集塊が細胞の中で「固まった」ゲルになることが分かった。RNA凝集塊が毒性を持つ原因をこれで説明できるかもしれない。

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ANIMATED HEALTHCARE LTD/SPL/Getty

遺伝性の神経変性疾患の多くは、ヌクレオチド反復配列伸長(同一あるいはほぼ同一の塩基配列が反復するDNAの正常な部分が、元のサイズの数倍にも伸長する)と関係している。非コード領域(イントロン)にこれが起こるとRNA反復配列が形成されるが、これが翻訳されてタンパク質を作ることはない。こうしたRNA伸長には毒性があるが、その理由はこれまで説明されていなかった。しかし、今回、そうしたRNAが細胞核内でRNA凝集体(RNA foci)と呼ばれる球状の塊1を形成することが分かり、解明の手掛かりになりそうだ。カリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)のAnkur JainとRonald D. Valeは、RNA反復配列は相転移によって、凝縮した液状またはゲル様状態のどちらかになることをNature 6月8日号 243ページで報告している2。そのような「固まった」RNA fociがニューロンの機能不全を引き起こすのかもしれない。

RNAとタンパク質は、凝縮して動的な細胞小器官になることがある。水蒸気が露点で凝集して小滴となるのとほぼ同じと考えてもらえばいい。このふるまいは、液–液相分離(LLPS)と呼ばれ、細胞内組織についての新たな仮説の基盤となっている3,4。ほとんどの細胞小器官と異なり、RNAとタンパク質によって形成される細胞内区画にはリン脂質二重層はなく、構成分子間の反復的な弱い相互作用によって生じる。神経変性疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関連する多くのタンパク質がin vitroでLLPSを起こす傾向があり、これらのタンパク質の疾患関連変異は、それによって生じる動的な液体のゲルへの変換(ゼラチンを含むデザートが固まるのに似たプロセス)をさらに引き起こすのかもしれない5

JainとValeは、RNA単独でも、そのような相転移が起こるかどうかを調べたいと考えた。彼らはまず、精製されたRNAを用いてin vitro実験を行った。彼らが注目したのは、①ポリCUG(ヌクレオチド配列CUGの反復からなるRNAで、筋緊張性ジストロフィという疾患に関連)、②ポリCAG(ハンチントン病に関連)、および③ポリG4C2(GGGGCC反復配列からなり、C9ORF72関連ALSとして知られているタイプのALSに関係しているとされる)だ。JainとValeは、これらのRNAのそれぞれがナノモル濃度でLLPSを起こし、球形の集合体になるのを観察した(図1)。しかし、この現象が起こるのは、これらRNAの反復配列の長さが特定の閾値を超えたときのみである。これは、疾患が発症するのは、ヌクレオチド反復伸長が臨界長に達した、あるいはそれを超えた場合のみであることの説明になるかもしれない。

図1 凝集体形成
a ヌクレオチド反復伸長は、ヌクレオチド反復配列を含むDNA部分(この例ではCTGの反復)が伸長して元の長さの何倍にもなったときに起こる。伸長が遺伝子の非コード領域(青)に起こると、転写と新生転写物のプロセシング(スプライシング)により、メッセンジャーRNAに加えて、反復配列を持つ非コードRNA(ここではCUG)が生じる。遺伝子のコード領域は赤で示されている。
b, c JainとVale2は非コードRNA分子間の相補的な塩基対形成(b)が、RNA集合体形成の引き金となり、拡散状態から動的な液状態へ、あるいはゲル(分子の位置が「固定した」状態)へのRNAの相転移(c)を引き起こすことを示唆する証拠を示した。これらの結果は、特定のヌクレオチドリピート伸長に関連する疾患の特徴である細胞核内のRNA分子の球状塊、RNA foci形成の生物物理学的な基礎を提供する。 | 拡大する

重要なことに、そうしたRNAのヌクレオチド反復配列を混乱させると、LLPSは起こらず、拡散状態のままであることをJainとValeは発見した。さらに、彼らのin vitro実験系に分子を加えて、RNA塩基間の相補的な相互作用の形成(塩基対形成)を阻害すると、RNA集合体形成は起こらなかったことから、この過程においてこうした相互作用が役割を果たしていることが明確になった。球状の集合体は液体の小滴に似ていたが、それらは実際には固体のようであり、液相から固相への急速な移行(ゲル化)が起こる可能性が示唆される。

著者らは次に、このin vitroでの実験結果が細胞の中で再現できるかどうかを調べた。彼らは、閾値以下の長さのRNAは主にサイトゾル中に拡散状態で存在していることを観察した。しかし、疾患で見られる長さに近づくと、RNAは核スペックルに存在するようになる。核スペックルは、メッセンジャーRNAのプロセシングに不可欠な、膜を持たない細胞小器官だ。著者らは、塩基対形成が妨げられると、RNA Fociの形成は起こらなくなる(RNA-RNA相互作用がfoci形成を仲介することを示した彼らのin vitro実験の結果と一致)一方で、スペックルの完全性は障害されないことを見出した。

JainとValeは、in vitroでポリCAG(上段)およびポリCUG(下段)を反復伸長させた。疾患で見られる長さに近づけていくと、RNAの凝集体が形成されることを見いだした(蛍光顕微鏡画像)。 | 拡大する

Ref.2

JainとValeはまた、細胞ではポリG4C2凝集体は、in vitroで形成された集合体の全てと同じくゲル様の特性を示すが、ポリCAG凝集体は液体のような特性を示すと報告している。これらの違いは、2種類のRNAの塩基間相互作用の強さによって説明できるかもしれない。しかし、これらの生物物理的性質の起源と伸長したRNAがスペックルに閉じ込められる機構は、まだ明らかになっていない。

この研究は、ヒト疾患にとって明確な意味を持つものの、RNA fociが誘導された細胞は死ぬことはなく、また顕著な機能不全も示さなかったことには留意すべきだ。さらに、この結果を見て注意しなければならない重要な点は、in vitroと細胞での研究で使われたRNAレベルは、神経変性疾患患者のニューロンで作られるRNAレベルよりもはるかに高かったことである。例えば、最近のある研究6で、C9ORF72関連ALSの患者に由来するニューロンでは、個々の凝集体は単一のRNA分子しか含んでおらず、また平均的な細胞核に存在している凝集体の数はほんの数個であることが示唆されている。その上、ポリCAGとポリCUGはそれぞれ、ハンチントン病と筋緊張性ジストロフィの患者で核スペックルに局在することが報告されている7が、ポリG4C2 RNAはC9ORF72関連ALS患者の核スペックルには局在していない8。また、モデル生物における研究で、リピート関連(RAN)翻訳と呼ばれる通常の形式とは異なる翻訳で作り出されるジペプチドリピートというタンパク質が、RNA単独よりも疾患の主要な誘導因子である可能性が示唆されている。従って、これらの疾患、特にALSに対するRNAゲル化の関与は、まだ明らかになっていない。

とはいえ、JainとValeの研究は重要であり、ここから多くの疑問が湧いてくる。例えば、伸長反復はどのように核スペックルの動力学に影響を及ぼすのか? 反復RNAは非伸長RNAとタンパク質のゲル化を引き起こし、その結果、DNAからタンパク質への情報輸送を遮断し得るのか? そして、RNAゲル化が実際にC9ORF72関連ALSで起こるなら、これがどのようにしてRNA結合タンパク質(RBP)凝集体の下流での形成を開始させるのか? RBP凝集体はあらゆるタイプのALSでニューロン欠損の最も優れた予測因子である9。相次いで発表される研究5にもかかわらず、機能喪失タンパク質、RNA fociそしてRAN翻訳のC9ORF72関連ALS発症への相対的な関与は、特にRBP凝集体の形成という点において、明確になっていない。

もう1つ別の重要な疑問は、ヌクレオチド反復伸長がDNAのコード領域(エキソン)に起こる、ハンチントン病などの病気に関するものだ。このような場合、反復RNA分子とタンパク質の両方が作り出される。では、タンパク質とRNAの相転移の相対的な役割はどんなものだろうか。そして、両方が相乗効果的に働いて病気を引き起こしたりするのだろうか。最新の研究のほとんどでは、これらの病気における毒性タンパク質凝集体が集中的に調べられてきた10が、JainとValeの研究結果によって伸長RNAの関与に再び注目が集まりそうだ。

これらの新しい知見には、おそらく基礎的な細胞生物学的意味があるだろう。例えば、今回説明されたRNA相転移は、長鎖非コードRNA(lncRNA、参考文献11など)の存在に依存するパラスペックルのような膜のない細胞小器官の形成に役割を果たしているのかもしれない。実際、一部のlncRNAの反復配列における相互作用は、そのような細胞内区画の形成に構造的基盤を提供している可能性がある12。現在、基礎科学とトランスレーショナル(橋渡し)研究の両方の研究者たちが、細胞内相転移の分野付近で研究協力を続けている。今後、この領域において興味深い結果が続々と発表されることが期待される。

(翻訳:古川奈々子)

David W. Sanders & Clifford P. Brangwynneは、プリンストン大学(米国)に所属。

参考文献

  1. Wojciechowska, M. & Krzyzosiak, W. J. Hum. Mol. Genet. 20, 3811–3821 (2011).
  2. Jain, A. & Vale, R. D. Nature 546, 243–247 (2017).
  3. Banani, S. F., Lee, H. O., Hyman, A. A. & Rosen, M. K. Nature Reviews Molecular Cell Biology 18, 285–298 (2017).
  4. Brangwynne, C. P., Tompa, P. & Pappu, R. V. Nature Physics 11, 899–904 (2015).
  5. Taylor, J. P., Brown, R. H. & Cleveland, D. W. Nature 539, 197–206 (2016).
  6. Liu, J. et al. Cell Chem. Biol. 24, 141–148 (2017).
  7. Urbanek, M. O., Jazurek, M., Switonski, P. M., Figura, G. & Krzyzosiak, W. J. Biochim. Biophys. Acta 1862, 1513–1520 (2016).
  8. Lee, Y.-B. et al. Cell Rep. 5, 1178–1186 (2013).
  9. Mackenzie, I. R. A. et al. Acta Neuropathol. 130, 845–861 (2015).
  10. Labbadia, J. & Morimoto, R. I. Trends Biochem. Sci. 38, 378–385 (2013).
  11. Clemson, C. M. et al. Mol. Cell 33, 717–726 (2009).
  12. Engreitz, J. M., Ollikainen, N. & Guttman, M. Nature Reviews Molecular Cell Biology 17, 756–770(2016).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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