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Droshaは昔、ウイルス防御機構だった?

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170905

原文:Nature (2017-06-28) | doi: 10.1038/nature.2017.22191 | A billion-year arms race against viruses shaped our evolution

Amy Maxmen

脊椎動物細胞の核内で遺伝子発現の調節を行っているDroshaが、ウイルス感染に応答して細胞質内に出ていくという奇妙な現象が観察された。研究チームは、このタンパク質がかつてはウイルスと戦っていたと考えている。

ウイルスは、植物、動物および他の生物の細胞に侵入するために進化した。 | 拡大する

KATERYNA KON/SLP/Getty

ウイルスとその宿主は10億年以上も戦っている。この戦いにより、ウイルスや宿主免疫応答の劇的な多様化が引き起こされた。最も初期の抗ウイルス系が失われてから長い期間が経過しているが、このほど、ヒト細胞に化石のように埋もれていた「初期の抗ウイルス系の1つ」の名残を見つけた可能性がある。脊椎動物で遺伝子調節の制御に関わるDroshaと呼ばれるタンパク質はウイルスに対抗できることが、Nature 7月6日号114ページ1で報告されたのだ。

この研究によれば、DroshaとDroshaが属するRNアーゼIIIと呼ばれる酵素ファミリーは、動物や植物の単一細胞祖先において最初に登場した抗ウイルス因子と考えられるという。「生物の全ドメインの防御系においてRNアーゼIIIの痕跡を見ることができます」と、今回の論文の筆頭著者でマウント・サイナイ医科大学アイカーン医学系大学院(米国ニューヨーク)のウイルス学者Benjamin tenOeverは言う。

植物や無脊椎動物は、RNA干渉、つまりRNAiと呼ばれる免疫応答にRNアーゼIIIタンパク質を用いている。ウイルスが宿主に感染すると、このタンパク質が侵入ウイルスのRNAをバラバラに切断して、ウイルスの増殖を防いでいるのだ。しかし、脊椎動物は異なる方法を採っており、強力なインターフェロンタンパク質を用いてウイルスを撃退する。一方、Droshaと関連タンパク質は、核で遺伝子を調節している。

しかしtenOeverは、2010年に奇妙な現象に遭遇した。ウイルスがヒト細胞に侵入すると、必ずDroshaが核から出るように見えたのだ2。「この不可思議な現象に、非常に興味をそそられました」とtenOeverは言う。彼の研究チームは後にこの現象の存在を実証して、Droshaがハエ類、魚類、植物の細胞において同じ挙動を示すことを明らかにした。

細胞を防御する因子

tenOeverらは、Droshaが脊椎動物においてウイルスと戦うために核から出るという仮説を検討しようと、Droshaを欠損するよう遺伝的に改変した細胞にウイルスを感染させた。すると、これらの細胞ではウイルスが急速に複製することが分かった。次に、細菌、魚類、ヒト、植物の各細胞にDroshaを挿入した。するとこのタンパク質はウイルスの複製を妨げるように見えたことから、この機能は全てのグループの古代の祖先までさかのぼることができると考えられた。「Droshaは、全ての抗ウイルス防御系のベータ版のようなものです」とtenOever。

tenOeverは、もともとは細菌が自身のRNAを維持するためにRNアーゼIIIタンパク質を用いており、後に、ウイルスの遺伝物質に対する防御のためにこのタンパク質を転用したと推測している。彼は、生物の系統樹全体にわたる免疫応答においてRNアーゼIIIタンパク質が出現したと指摘している。例えば、アーキア(古細菌)や細菌がウイルスと戦うための応答「CRISPR系」の一部にRNアーゼIIIタンパク質を用いている。一方、植物や無脊椎動物は、このタンパク質をRNAiに用いている。脊椎動物ではウイルス制御はインターフェロン類に依存しているが、今回の研究から、Droshaがまだウイルスを追っていることが示された。ペットのゴールデンレトリーバー(この犬種は狩りで打ち落とした水鳥を回収する目的で育種された)が、棒切れをまるで落ちた水鳥であるかのように追いかけて持ち帰るのと似ている。

国立がん研究所(米国メリーランド州フレデリック)の遺伝学者Donald Courtは、この結果を素晴らしいと言うが、進化論的シナリオには賛成ではない。「RNアーゼIIIは生物のほぼ全てのドメインの、多くの事象に関与しています」と彼は説明する。彼は、1つの抗ウイルス系が次の抗ウイルス系に進化したと考える理由はないと考えている。「例えば、CRISPR系の場合は、RNアーゼIIIを含むものと含まないものがあります。この事実から、RNアーゼIIIはおそらく独立に獲得されて機能を担うようになり、それが受け継がれたと考えられます」と彼は言う。

デューク大学(米国ノースカロライナ州ダラム)のウイルス学者Bryan Cullenは、「この話には実に興味をそそられます。データも良いです。ただ、数千年にわたって起こった過程に関する話なので、真実かどうかを明らかにすることは困難です」と言う。しかし彼は、この論文がきっかけとなって、RNAや感染症を専門とする研究者がtenOever仮説の検討を始めるのではないかと予測する。「ウイルスが防御に打ち勝つために進化するように、免疫系も進化を促す非常に大きな選択圧を受けています。この論文はRNアーゼIIIがそのような進化において重要な役割を担ったことを示唆しています」とCullenは言う。「『鏡の国のアリス』で赤の女王がアリスに『同じ場所にとどまるためには、力の限り絶えず走っていなければなりません』と言ったことと似ています」。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Aguado, L. C. et al. Nature 547, 114–117 (2017).
  2. Shapiro, J. S. et al. RNA 16, 2068–2074 (2010).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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