Editorial

今こそ発言する時

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170938

原文:Nature (2017-06-15) | doi: 10.1038/546327b | Harmonize conflicting regulations for genetically engineered plants and animals

米国の遺伝子組み換え植物・動物に対する規制について意見を述べる機会が与えられた。2つの規制当局の結論は現在、真逆であり、研究者諸氏はこの機会を逃してはならない。

拡大する

Alan Hopps/Moment/Getty

去る2017年1月に米国の農務省(USDA)と食品医薬品局(FDA)が、遺伝的に改変された作物と家畜に対する規制のあり方を大幅に見直す改正案を30年ぶりに公示した。これに対しては、安堵を表明する植物科学者がいる一方で、辛辣な意見を述べる動物科学者もいる。

植物について定めたUSDAの改正案と動物について定めたFDAの改正案では、結論が大きく異なっている。USDAの改正案では、DNA塩基1個の組換えによってゲノムが改変された植物の多くについて、野外に放出する際の承認は必要とされないと提案されている。これに対して、FDAの改正案には、同じようにゲノム改変された動物に対して上市前に厳格な評価を義務付ける可能性が強く示されている。

このように米国の2つの政府機関が同じ問題を評価して真逆の結論に達しているのは気掛かりだ。これらの改正案に対するパブリックコメントが求められており、研究者は、このチャンスを生かして、統一された科学的な方針を強く求めるべきだ(パブリックコメントは6月19日に締め切られている)。

USDAは、米国の農業システムにとって脅威になる恐れのある植物の輸送と放出を監視し、この権限を使って、植物病原体から採取した分子ツールを使って遺伝的に改変された植物に対する規制を実施している。例えば、根頭癌腫病菌(Agrobacterium tumefaciens)という土壌細菌は、植物ゲノムDNAに遺伝子を送達するために用いられることが多い。しかし、それに対する規制を構築する間にも技術は進歩を続け、植物の病原菌を使わずに植物に外来遺伝子を発現させる技術が開発された。そして2011年には、多くの新品種の作物が植物の病原菌に分類できない別の技術によって開発されるようになり、USDAの監視対象にならなくなった。

一方、FDAは、動物用医薬品の承認について定める法規を利用してきた。そして、動物の遺伝子組換え(由来の異なるDNA塩基配列をつなぎ合わせることだと一般的に考えられている)があるとFDAの監視が始まる。そのため産学の研究者は、外来DNAの挿入が必ずしも必要でない最新の遺伝子編集技術を用いて開発された動物がFDAの規制対象になるかどうかを確実に判断できなくなった。このような遺伝子編集技術は、とりわけ病気に強いブタ品種を開発する研究室で既に用いられている。また、角のない乳牛の上市を計画しているRecombinetics社(米国ミネソタ州セントポール)は、FDAの改正案が公示される1カ月前にFDAに届け出をしていた。

改正案によれば、遺伝子編集された家畜は、ほとんど全てがFDAの法規の適用対象となり得るが、遺伝子編集された植物は、有害種または毒草類でない限り規制対象にならないと考えられる。

さまざまな政府機関の法規間の整合性確保を求めるのは無理なことなのかもしれない。USDAやFDAの職員は、それぞれの機関の独自の法令に拘束されており、自分たちが適切だと思う法規を自由に作り出すことはできない。一部の用語の定義が政府機関によって異なっていたり、一部のやり方(例えば、遺伝子操作したヤギゲノムを動物用医薬品として取り扱うこと)が直感的に理解できないものであったりするのはそのためだ。

遺伝子編集やその他の技術が規制当局にとっての難題であることは明白だ。法規に定める用語の定義は、新規技術の開発によって直ちに有用性を失うことがある。例えば、欧州の規制当局は、その規制の枠組みに新規技術を組み込むことに何年も前から悪戦苦闘している。それに対しカナダでは、作物の開発に用いたプロセスではなく、作物の属性に基づいて作物の規制が行われており、技術の進歩に適応できる制度を有する数少ない国の1つとなっている。一方、市販される遺伝子編集食品に対する消費者の受け止め方は、今でも予測困難だ。

しかし、USDAとFDAの改正案は、正反対の方向での誤りを犯す可能性がある。全ての遺伝子編集動物を規制対象にする方針は、自然界に存在するDNA塩基配列を再現するだけの改変の場合や、化学物質を用いてランダムなDNA変異を引き起こす方法によって再現できる改変の場合には、ほとんど意味がない。逆に、数多くの遺伝子編集作物に対する規制が行われないとすると、農業生態系を変えてしまう可能性を秘めた遺伝子編集作物に対して過小規制となる恐れがある。例えば、除草剤耐性植物は、農薬散布に変化をもたらし、除草剤抵抗性を示す雑草を発生させ得る。

このような改正案の進展に対して、トランプ米国大統領が任命する担当者が影響力を行使するのか、それがどの程度のものになるのかは不透明だ。しかし研究者は、この機会を生かして意見を表明し、改正案における用語の定義を精査し、規制の抜け穴を探し、別の規制方法を提案して、改正案による規制が直ちに時代遅れになる可能性を減らすべきだ。とりわけ研究者が注力すべきなのは、さまざまな政府機関の間で整合性が保たれた、最終産物の危険性評価に重点を置いた法規の制定を強く要求することである。自然に起こる変異の再現といった簡単な遺伝子編集であれば、詳細な検討は必要ないと感じる研究者がいるかもしれないし、同じ製品に懸念を感じている研究者もいるだろう。そうした意見を全て表明してほしい。さもなくば、今後30年間にわたって現実にそぐわない規制を耐えねばならなくなる。

(翻訳:菊川要)

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度