Research Highlights

ネコの「世界征服」の始まりは新石器時代

猫の姿をしたエジプトの女神バステトの像。 Credit: Werner Forman/Universal Images Group/Getty

ネコ(狭義のネコ、つまりイエネコ)は現在、南極大陸を除く全大陸に分散しており、進化論的な観点から成功を収めた動物であることに疑いの余地はないだろう。ネコの家畜化の過程についてはまだ謎が多いが、その分散と進化を解明するための手掛かりが今回、さまざまな時代や地域のネコの標本に由来する古代DNAの分析から得られた。ルーヴァン・カトリック大学(ベルギー)のClaudio Ottoniらが200点を超えるネコの遺物や標本を調べ、Nature Ecology & Evolutionに報告した1。その分析の対象は、9000年前の骨から、エジプトのネコのミイラ、現代のリビアヤマネコに至るまで幅広い。

今回得られた分析結果は、ネコが世界に分散し始めたのが中東の新石器時代(約1万〜5000年前)であったことを示している。一方、イヌが家畜化されたのは約1万4000年前のことだと考えられている2。しかしネコは、その名高い「孤高性」にふさわしく、完全に家畜化されるまで数千年の間、ヒトと付かず離れずの関係を保って暮らしていた。初期の家畜化されたネコはおそらく、ペットとしてではなく、ネズミなどの有害動物を駆除する役目をさせるために飼われていたのだろうと著者らは述べている。

今回の分析で、現代のイエネコにつながる2つの主要なリビアヤマネコ系統が特定された。一方は、最初にアジア南西部に現れ、紀元前4400年までに欧州へ分散した。もう一方は、アフリカのネコ由来で主にエジプトにいた系統で、エジプトのネコのミイラから抽出したDNA試料で検出された。古代エジプトではネコは神聖な生き物であり、古代エジプト人はネコの姿をした神を崇拝していた。このアフリカのネコ系統は、紀元前1千年紀に交易路に沿って(おそらくネズミ駆除のために船に乗せられたため)地中海全域に広がった。

翻訳:船田晶子

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2017.170913

原文

The feline line
  • Nature (2017-06-22) | DOI: 10.1038/546480a

参考文献

  1. Ottoni C. et al. Nature Ecology & Evolution 1, 0139 (2017).
  2. Frantz L. A. F. et al. Science 352, 1228–1231 (2016).