News

コロナウイルスの自然宿主はやっぱりコウモリ!

Credit: Juan Carlos Munoz/The Image Bank/Getty

アフリカ、アジアおよびアメリカ大陸の各地で行われた合計約1万9000もの動物個体の調査から、コロナウイルスの自然宿主として主要な動物種は、世界的にコウモリであることが明らかになった。コウモリはすでに、重症急性呼吸器症候群(SARS)と中東呼吸器症候群(MERS)の集団発生を引き起こした2種のコロナウイルスと関連付けられているが、これが偶然の一致によるものなのか、それとも、もっと広範な傾向を表しているのかはこれまで確定し切れていなかった。

今回の最新の知見は、多様なコウモリ種の地理的分布とそれらの種が保有するコロナウイルスの挙動を調べることで、これらのウイルスがどこでコウモリからヒトへ飛び移る可能性が高いかを、感染症研究者らが従来よりも高い精度で予測できることを示唆している。

「もう、事が起きてから対処する時ではありません」と話すのは、コロンビア大学(米国ニューヨーク)のウイルス学者で、この研究論文(S. J. Anthony et al. Virus Evol. 3, vex012; 2017)の代表著者であるSimon Anthonyだ。「肝心なのは、取り組み方を変え、ウイルスの多様性を解明して、コロナウイルスが実際に新興病原体として現れる前に、先を見越して対処することです」。今回の研究は、米国国際開発庁(USAID)による、動物からヒトへのウイルス感染によるパンデミックを未然に防ぐことを目指す「新興感染症世界流行の脅威(EPT)計画」の一環として、USAIDから資金提供を受けた。

コロナウイルスがニュースで大きく取り上げられたのは2002年のことだ。このとき、SARSが中国で発生して27カ国に広がり、774人が死亡した。また2012年には、MERSを引き起こすコロナウイルスがサウジアラビアに発生し、640人が死亡した。

各種の動物が保有するコロナウイルスについて調べるため、Anthonyらは約1万2300頭のコウモリ、約3400頭の齧歯類およびトガリネズミ類(齧歯類には含まれない)、約3500頭のサルを捕獲し、試料を採取した(これらの動物は試料採取後に放獣された)。この研究のために彼らは、動物媒介疾患発生の「ホットスポット」としてすでに知られるアフリカやアジア、南米、中米の20カ国を訪れ、地元パートナーと共に調査を行った。

調査の結果、試料を採取したコウモリの10%近くがコロナウイルスを保有していたのに対して、他の動物での保有率は0.2%にとどまった。また、ウイルスの多様性が最も高いのは、複数のコウモリ種が生息するアマゾン熱帯雨林などの地域であることも分かった。

ただし、コウモリの多様性のみではリスクの指標として十分ではない。ヒトに伝播するコロナウイルスは一部にすぎないからだ。ある病原体がヒトにまで感染する可能性を測るための手掛かりの1つは、類縁関係が離れた動物種(遠縁種)間で飛び移った履歴にある。今回の研究で、アフリカのコロナウイルスが遠縁のコウモリの種間で飛び移った頻度は、メキシコやブラジル、ボリビア、ペルーのコロナウイルスの4倍にもなることが分かった。この差は、地域ごとのコロナウイルスの遺伝的差異によるものか、もしくは、異なるコウモリ種がさまざまな森林でどう相互作用するかによるのではないかと考えられる。

「ラテンアメリカのコロナウイルスではコウモリ種間を越えて伝播することはあまりない、というのは興味深いですね」と、米国立衛生研究所(NIH)ロッキー山脈研究所(モンタナ州ハミルトン)のウイルス学者Vincent Munsterは話す。「この点は、さらに研究する価値があります」。

翻訳:船田晶子

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2017.170911

原文

Bats are global reservoir for deadly coronaviruses
  • Nature (2017-06-15) | DOI: 10.1038/nature.2017.22137
  • Amy Maxmen