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新疆でDNA情報収集を加速させる中国

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170812

原文:Nature (2017-05-25) | doi: 10.1038/545395a | China expands DNA data grab in troubled western region

David Cyranoski

新疆ウイグル自治区の公安庁がDNAシーケンサーを多数購入したことが分かった。中国政府の思惑をめぐり臆測が飛び交っている。

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PETER PARKS/AFP/Getty

人権擁護組織がまとめた証拠やNatureが収集した情報からみて、中国の新疆ウイグル自治区北西部の公安庁(警察機関)は一般市民からDNA試料を収集しており、また、そうした遺伝情報に対する解析処理能力を高めようとしているようだ。

人権保護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch;HRW)は2017年4月に、新疆の自治州政府が、この地域に多く住むイスラム教徒のウイグル族から血液試料を集める取り組みを急ごうとしていることを報告した。中国政府は、新疆での近年の分離・独立運動に対して厳しい措置を取っている。そのため、この地域のDNAデータベース構築の可能性が出てきたことで、当局がこれを政治利用することを危惧する見方が強まっている。

「我々が気掛かりなのは、法的な保護もなく、人々に告示することもなしに、DNAが広く収集されていることです」と、報告書の著者である香港在住のHRWの研究者Maya Wangは話す。

この報告書でHRWは、新疆の公安庁が12台のDNAシーケンサーを注文したとしている。Natureはこの注文があったことを確認し、また、文書や、この商取引に関与した人々への取材から、公安庁が1日当たり最大2000件のDNA試料を処理するのに十分な台数のシーケンサーを購入したことを把握した。この購入の理由についてNatureは公安庁に電話で問い合わせたが、電話を切られてしまった。

この解析設備の規模は、普段の科学捜査に必要な解析処理能力をはるかに超えていると、東京大学のゲノミクス研究者である菅野純夫は話す。中国の科学捜査研究機関の設備に詳しい人物は、匿名を条件に、「これだけの処理能力があれば、間違いなくデータベースを構築できます」と話してくれた。「何か研究所を作ろうとしているのでは」。DNA塩基配列の解読装置の注文書全体を見た後、彼はそう示唆した。

今回の設備調達に関わった企業の販売担当者によれば、新疆の公安庁は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific;米国マサチューセッツ州ウォルサム)が製造したシーケンサーを8台購入したという。これを使うと、個人差のある短いDNA領域について調べることができる。こうしたDNA領域は、通常の科学捜査のDNA鑑定(DNA指紋法)でも使われている。犯罪現場から採取された試料のDNAデータと、データベース内に保存された個人(あるいはその近親者)のDNAデータとを突き合わせるのである。新疆の公安庁はさらに、4台の国産シーケンサーも同じ目的のために購入していた。

Natureはすでに、新疆の行政当局が「次世代」DNAシーケンサーも購入済みであることを把握している。このシーケンサーを使えば、遺伝情報を含む試料から、その人の先祖や、眼の色などの身体的特徴を突き止めることができるだろう。

HRWの今回の報告書には、2000年代初頭に稼働し始めた、4000万人に由来する4400万件のデータが登録済みの国家規模のデータベースについても、詳細な記述がある。その中の150万件は、事件現場で見つかったタバコの吸い殻などの試料に由来するものだ。中国の公安当局は、このデータベースを犯罪捜査のためのものと説明するがHRWは、「中国公安当局が一般市民から生体認証データを収集する活動を行っている」証拠があると述べている。

事件の捜査や、子どもの誘拐に付随した親子鑑定、死体の身元確認などにDNA鑑定を利用している国は多い。そのため、新疆がDNA解析の処理能力を急増させたこと自体は気にするほどのことでないとする研究者もいる。「警察・公安機関による監視の拡大は、今やどの文明国も考えていることですから」と、デューク大学(米国ノースカロライナ州ダラム)で遺伝子検査の適用について研究するSara Katsanisは話す。

それでもKatsanisらは、中国、特に新疆でのDNA収集のやり方について懸念を持っている。HRWは2016年の報告書で、新疆の市民らがパスポート取得のために血液試料の提出を求められたことを明らかにした。また、中国国営メディアは2017年3月に、1750万人(大半がウイグル人)に血液検査などの検診を受けさせる4カ月計画の完結を詳しく報じた。これらの人々の多くは強制的に検診を受けさせられたことが、2017年5月下旬の報道で明らかになっている。

メイヨークリニック(米国ミネソタ州ロチェスター)で生物医学倫理を研究するMegan Allyseは、DNAプロファイリングは中国では特に問題をはらんでいると話す。試料の収集、移送および保管の仕方や、そうした試料の裁判での利用が可能な場合について、統制・管理する明確な枠組みがないと見られるからだ。各国が協力し合うことで、このデータが正しく使われるようになってほしいと彼女は考えている。「国家安全保障のために収集された物に含まれるDNAデータの適正な利用について、国を超えた幅広いコンセンサスが必要なのです」と彼女は話す。

(翻訳:船田晶子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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